ハードな夜
「そうだ。ところで早乙女くん、今、何をしているのだ?」と山寺大造警察署長は言った。
「巡回中に女性を襲った変質者を捕まえまして、必殺技の『近くにいて四』で海を目指して走っています」
「真夜中にかい? かーっ、たまげたねぇ。早乙女くんよ、また犯罪者を逮捕したのかよ。やるね! チミはやるね!」
「ありがとうございます!」
「今、思い出したが確か大和愛人刑事も一緒にいたはずだよな?」
「被害者をパトカーに乗せて病院に運んでいます」
「そうか、そうか。ご苦労ご苦労。えっ!? なに!! 早乙女くん! 緊急事態だ!! 豚山ビルの屋上で女性が今にも飛び降りそうだとの情報が入った!! 助けに行け!! 今、早乙女くんは何処にいるんだ?」
「東おかっぱ区北70条南3丁目の3番1号です」
「ラッキーだな! 女性がいる場所は東おかっぱ区北65条南5丁目6の3だ!! 早乙女くん、急げ!! 豚山ビルだぞ!!」
「山寺さん、この変質者はどうしますか?」
「早乙女くん、とりあえず、手には手錠を掛けて、足には紐で固結びをしてから、その辺の草むらにでも捨てておけ」
「去勢していいですか?」
「早乙女くん、どうやって去勢するのよ?」
「知り合いにモグリのヤブ医者がいるんですよ。坂村珍二という男です。今から、そいつに連絡をして、こちらに来てもらって、コイツを引き渡したいです」
「うむ、わかった。そうしてくれたまえ。なるべく素早くだぞ」
「はい」
早乙女華恋スーパーヒーローは知人のヤブ医者に電話を掛けた。
「もしもし?」
「坂村か?」
「あっ、早乙女さん」
「去勢を頼む」
「わかりました」
「今からケチャップ八面体公園の砂場に行け。変質者がいる。運んで去勢しろ」
「はい」
「お駄賃をやる。100万円」
「早乙女さん、いつもいつもすみません」
「じゃあ、よろしく」
早乙女華恋スーパーヒーローは近くにあるケッチャプ八面体公園の砂場に行くと入念に変質者の鼻に向けて自分のワキガを嗅がせた。変質者の顔が一気に苦悶に満ちて苦しそうな顔をして呻くと再び強い気絶の中へと吸い込まれていった。およそ5分間、早乙女華恋スーパーヒーローは変質者に自らのワキガを嗅がせたのだった。ああ、恐ろしや。
早乙女華恋スーパーヒーローは走った。
豚山ビルの屋上にて。
屋上でブスが泣いていた。モーケレムベンベみたいな顔をしたブスがピンク色のハンカチを頬に当てて泣いていた。身長158センチ、体重92キロのブスが泣きながらへたり込んでしまった。ブランド物の紫色のワンピースを着ていたがブスすぎて全く似合っていなかった。ブスの名前は蛇亀子。子供の頃から『ミュータントに謝れ』という長すぎるあだ名で呼ばれていた。こんな感じでだ。「おい、ミュータントに謝れ、掃除しろ 」、「おい、ミュータントに謝れ、宿題見せろや」、「おい、ミュータントに謝れ、ジャムパン買ってこい」という具合にだ。
蛇亀子は豚山ビルの屋上から下を覗き込んだ。深夜11時過ぎだと車も人もいなかった。蛇亀子は両手を広げて天を仰ぎ始めた。
「神様、ワテを美人にしてけろ!!」と蛇亀子は絶叫した。
「神様、ワテはモテたい!! ワテは危険な女になりたい!! 男をたぶらかす妖艶な女になりたい!!」と蛇亀子は叫んだ。
その時、豚山ビルの屋上の扉が勢いよく開いた。
「うるさい!! 何しているんだ、こんな夜中によ!!」と早乙女華恋スーパーヒーローはブスの蛇亀子に怒鳴りつけた。
つづく




