川へ行こう
だらだらしているのもいいけど、なにもしないでいると少し退屈になってくる。
それはみんなも同じようで、イングリッドは大きくあくびしながら言った。
「ふわぁ~~~。なんかしない?せっかく来たんだしさ~」
さて、どうするか。おもてなしプランはいくつか考えてあるけど、みんなのテンションとかそういうのを見きわめて提案しないと。『え?今その気分じゃないな~』と言われたりして、おもてなし失敗!なんてことになったらマズいし、せっかくだから喜んでもらえるおもてなしをしたいしね。
「それでは、みなさん、近くに川があるんですが、そこに行きませんか?」
「おっ!行きたい行きたい」
イングリッドは食い気味に乗ってきた。彼女は活動的だから、部屋でじっとしているよりも外で遊ぶ方が好きなんだろう。
「このまま、ここでグダグダしていても退屈だわ。行きましょう」
オルガは立ちあがると、後ろを振り向きもせずにサッサと玄関へ歩き出した。
・・・みんなが準備できるまで待ってあげるという優しさはない。それが、オルガである。そして、こういうところが友だちがいない理由なんだろうなとか、ちょっと思ったりする。
でも私は知っているのだ。オルガは一人で行動するのに慣れすぎて、ほかの人に合わせるってことを知らないだけ。元々性格が悪いってわけではない・・・・・・はず!
先をずんずん歩いていくオルガの後ろを私たちはついて行った。
うっすらと聞こえていた川の流れる音が、歩いていくうちにだんだん大きくなってくる。木に覆われた道を進んで行くと、やがて視界が開けて、くるぶしくらいまでの深さの川が見えた。流れは穏やかで、冷たくて気持ちよさそう。水は透き通っていて、小さな川魚が泳いでいるのが見える。
・・・川魚・・・・その姿を見て私は、小さいころのあこがれを思い出した。
テレビとかで見た、鮎とかイワナとかの川魚をその場でとって食べるのがなんともおいしそうだなと思っていたのだ。
ぜひやってみたい!
ということで早速みんなに提案してみる。
「みなさん。ここにいるお魚をとって食べるというのはどうでしょう?」
私の言葉を聞くと、イングリッドとアルベルト、そしてアリスの三人が大賛成してくれた。
「食べたいですっ!絶対においしいやつですよ、それ!」
アリスはテンションが爆あがりしている。忘れていたけど、アリスはおいしいものに目がないのだった。
イングリッドも好奇心旺盛だからか、ノリノリ。アルベルトも食べることが好きなので、当然目を輝かせている。
「あ~でも釣り竿とか持ってないけど、どうしようか?」
ギュスターヴに言われて、ハッと気づいた。そうだ・・・釣り竿・・・。別荘の中にあるのかなあ?でも、どこにしまってあるか場所知らないしとりに戻っていると時間がかかっちゃうかも・・・う~ん・・・どうしたものか・・・。
「なんだ?そんなものいらねえよ!俺に任せな!」
ドンと胸を叩いたのはアルベルトだった。そのまま川の中へと入っていく。
袖をまくって肩を軽く動かし準備体操をした後、川面に顔を近づけて、じっと動かなくなった。
「どりゃあ!」
手を水の中に素早く滑らせて、すくいとるみたいに魚をとった。
「ほれ!まず一匹」
そこから次々と魚が川原に投げ込まれる。アルベルトはすごい集中力で、水の中をすいすい泳いでいる小さい魚をすくいあげては、川原へと投げ込んでいく。
みんな『おお~』と思わず拍手した。
スポーツができるのは知ってたけど、魚をとるのも上手いんだな。その体の大きさもあって、テレビで見た鮭をとっているクマの映像を思い出した。
私たちは、しばらくアルベルトの華麗なお魚捕獲ショーを眺め、その手際に『いいぞ~』と歓声を送った。
・・・・・・・
・・・・・・・
今、みんなの前にすごい量のお魚が並んでいる。
「悪りぃ。ついとりすぎちまった」
頭をポリポリかきながらアルベルトは、ガハハと笑った。
「これ、食べきれるかな?」
ギュスターヴが心配そうな顔で魚を眺めている。
もはや、川魚をとって食べる優雅なお食事の会ではなく、すべて食べきれるかどうかの戦いと言ってもいいかもしれない。
食べきれないのはお魚たちに申し訳ないので、なんとか頑張ろう。
マルゲリータさんがテキパキと料理して、私がすぐにみんなの元へと運ぶ。それをみんなが食べていく。
「うま~」
「おいし~」
「うん、なかなか」
「ふ~ん…こんな味なのね」
「うめえ!うめえぞ!」
私とマルゲリータさんは、調理しながらつまい食い。
「新鮮でおいしいですね~」
「こりゃ、全部食べ切れそうだな」
夢中で手を動かしていたので気がつかなかったけど、そうとうな量があったのに、もうほんの数匹になっている。
その原因は、アルベルトとマルゲリータさんの二人であった。
アルベルトは丸呑みするみたいに、ほぼ一口で食べてしまう怖い食べ方で瞬く間に平らげていく。
マルゲリータさんは、いつの間にか目の前に盛られていた切り身が消えていたり、塩焼きが串だけになっていたりと、魔法でも使ったみたいに食べている。
アリスとイングリッドは早々にリタイア。ゴツゴツした石が転がっている川原に横になって、苦しそうである。
ギュスターヴは意外と平気そうだと思ったら、立ちあがる時にヨタヨタしていたので、そこそこダメージを受けていた。
オルガはどうかというと、お皿に盛られた切り身を前にして固まっていた。ギブアップするのはプライドが許さないらしく、ジ~と切り身を睨みつけている。
「マルゲリータさん、あれ見てください」
「あ~・・・どうする?」
チラッとエドワードを見てみると、自分の分は食べ切ってお茶を飲んでいる。
よし、ここは婚約者様に頑張ってもらうか。
「エドワード様、あちらをごらんになってください」
私がオルガを指差すと
「・・・ん?」
オルガは明らかに苦しそうだから、エドワードも事情をすぐに察した。
「手助けしていただけるとうれしく思います」
「だよな~。ピンチにかけつけない婚約者なんて、そんなやついねえよなあ?」
マルゲリータさんがこわ~い笑顔でエドワードの肩を叩く。
「分かった!行けばいいんだろう、行けば!」
エドワードはブスッとした顔で、オルガのところへ行くと
「それ、もうちょっと食べたいから・・・よこせ」
ぶっきらぼうに言うと、返事を待たずにお皿とりあげてパクパク食べた。
「あ!ちょっと」
「ふん・・・残念だったな」
「あなたねえ!」
「ふん、食べるのが遅いのが悪い」
「なんですってぇ!?」
いつもみたいにワーワー言い合いをはじめた。でも、二人ともなんだか楽しそうに見える。
「大変でしたけど、楽しかったですね」
「ああ・・・だが、みんな当分魚は食べられねえだろうな」
私とマルゲリータさんは、片づけしながら笑い合った。




