勇気を出せ、エドワード
「そうに決まってるじゃありませんか」
さも当然って顔して言う。こういう時には、堂々と言い切るのが大切である。
「オ、オレノ・・・ベッソウ・・ニ・・・オルガ・・・ガ・・・クル・・・?」
エドワードはカタコトになっていた。動揺のせいで、急に舌が回らなくなってるみたい。
「エドワード様、鈍すぎですよ。オルガ様が遠回しに誘ってほしいとメッセージを発しているのに、それに気がつかないなんて・・・だから人気ないんですよ。このクソ婚約者様」
「おおい!最後、ただの悪口になってないか!?」
私の毒舌が効果テキメンだったのか、エドワードは一瞬で我に返った。
おかえりなさい。
「まあまあ・・・そう怒らずに。ぜひ誘ってあげてください。きっと喜びます」
「ちょちょ、ちょっと待ちなさい!私は行きたいだなんて・・・」
オルガが慌てて私とエドワードの間に割り込んできた。
「オルガ様・・・そうは言っても、エドワード様からのお誘いは、嫌というわけではないですよね?」
「え?それは、まあ・・・嫌では・・・ない・・・けど・・・」
恥ずかしそうにモジモジしている。
やはり嫌じゃなかった。もし本気で行きたくないなら、私も
「とのことですエドワード様。オルガ様は誘われるのを待っていると言っても過言ではありません!」
私はエドワードの背中を押して、オルガの前に立たせる。
「わ、お、押すな!」
「さあ、勇気を出してください。ギャラリーのみなさんも心待ちにしております」
「ギャラリー?」
訝しそうな顔でエドワードが振り向くと、私の後ろには、イングリッドたちが、いつの間にか横に整列して、様子を見守っていた。
「ワクワク!」
イングリッドは目をいっぱいに開いて見逃すまいとしている。
「おう!ここはビシッと行けよ~!」
その隣にはアルベルト。ボクシングのファイティングポーズみたいな格好をして、大声で声援を送っている。
「いや~青春だね~~~」
ギュスターヴは後ろに腕を組みながら、なんだかちょっと年寄りくさい発言。
あなたも、青春の真っ最中なのでは?
「さっさとしろ~~こちとら暇だぞ~~~」
そんなヤジを飛ばしているのは、メイド長のマルゲリータさんだ。腕に抱えた大きな袋からピーナッツをとり出してポリポリ食べている。
マルゲリータさんにとっては、なんかの試合を観戦しているみたいな気分らしい。
「ファイトで~す!」
満面の笑みで、アリスは手を振って応援している。
・・・うん、非常にかわいい。私が応援されているわけじゃないど、なんだか元気になってきた。
「う・・・・き、貴様ら!見せものじゃないぞ!」
みんなが見ているせいで、エドワードは顔真っ赤だ。
「さあ、みなさんも応援してくださっていますし、エドワード様。勇気を出していきましょう」
私がそう言うと、エドワードは逃げ道がないのを感じとったのか、大きく深呼吸した。
そして、目を開けてオルガを見て、
「あ~・・・その・・・なんだ・・・貴様を特別に別荘に招待してやらない・・・こともない・・・」
どうも歯切れが悪いなあ。『やらないこともない』って言葉を耳で聞くと、一瞬オッケーなのか分からなくて、すごいまぎらわしい。
招待してやらないこともないってことなので、招待してあげるって意味でいい・・・はず!
なんとも分かりにくい誘い方で、全然締まらないけど、エドワードの場合は誘えただけ偉いので、特別に許そう。
「では、それを受けてオルガ様・・・お返事をどうぞ!」
普通に返事するのを待っていると時間がかかりそうなので、オルガには申し訳ないけどちょっと急がせてもらう。
「へ・・・?そ、そうね。そこまで来てほしいと言うなら・・・・・ま、行ってあげないこともないわ!感謝なさい!」
ふたたび登場した『~しないこともない構文』
これは、行ってあげるってことでオーケーなはず。
「なんか言い方が偉そうじゃないか?」
エドワードが文句を言うと
「別にどんな返事の仕方でもいいでしょう!」
オルガが反論。
「なに~!?」
それを受けてエドワードがちょっと怒った。
油断していると、すぐに衝突しそうになる。そのまま放置するとめんどくさいので、とめに入ろうとしたら、
「ほら。それくらいにしておいて、荷物運ぶの手伝え」
と、マルゲリータさんがエドワードの肩をガシッとつかんで、荷物運びのために連れ去った。
「え!?俺は手伝うともなんとも言ってな・・・・・放せ~~」
抵抗むなしく、エドワードは奥の部屋へと拉致されていった。
よし、ひとまず一件落着。
オルガはエドワードからお誘いを受けたことの衝撃でまだポケ~っとしているけど、すぐに戻るだろう。
「では、私たちも荷物を置きましょう」
私が、後ろで見物していたみんなに呼びかける。
われわれは別荘に到着したばかり。アリスやギュスターヴなんて、まだ荷物を手に持ったままである。
今回は、みんなに快適にすごしてもらえるよう、おもてなししていこうと思っているので、まず荷物を下ろしてリラックスしてもらわねば。
「さ、こっちへどうぞ~」
マルゲリータさんとエドワードが消えていった部屋へと、ぞろぞろとみんなで向かう。
ベッドも何もない使われていない部屋があって、この場所を荷物置き場にとマルゲリータさんと事前に決めておいたのだ。
「おい、さっさとよこせ」
ドアを開けると、不機嫌そうにエドワードが片手を差しだして私たちから荷物を受けとった。マルゲリータさんによって荷物係に強引に任命されたエドワードは、『なんで俺がこんなことせねばならんのだ』とか、文句をブツブツ言いながらも、部屋の隅の方に、受けとった荷物をきちんときれいに並べてくれた。
「ここに置いたからな。ちゃんと覚えておけよ」
一人一人に置いた場所を指さして教えてあげている。与えられた仕事はきっちり取り組むタイプらしい。少し見直した。
荷物を置いて身軽になると、リビングに集合して大きなソファに座って、しばし休憩のお時間。
山道を歩いて来て、そこそこ疲れているはずだから、お茶でも出してリラックスしたもらおう。
みんなでお茶とお菓子を食べながらおしゃべりして、しばらくまったりとすごした。
海を泳いだりとかハイキングしたりとか、そういうアクティブな遊びをしてすごすのもいいけど、こうしてなにもしないで、ゆったりする時間っていうのも、なかなか贅沢で素敵な気がする。
・・・と思ったけど・・・・・・こういう発想ってもしかして怠け者っぽい?
いやいや・・・怠け者だろうがなんだろうが、まったりするのは大切だよね、うんうん。
そう自分に言い聞かせると、私は英気を養うために、クッキーをほおばり、おいしいお茶をいただいて、このティータイムを満喫するのであった。




