みんなを別荘にご案内
オルガの別荘は、森の中にある。山を登って青々とした葉っぱをつけた木に囲まれた道を、しばらく歩いていくと、開けた場所に出る。
そこに、一軒の大きな赤い屋根のお屋敷が姿を現した。屋根の形が、とんがり帽子みたいでかわいらしい。真っ白い壁に、屋根の赤色がとても合っている。さすがにオルガの自宅のほどではないけど、負けず劣らず立派なつくりの建物である。
屋敷の雰囲気もいい感じだけど、それよりも、周りの環境がいい。少し標高が高い場所なので、空気がひんやりしていて、深呼吸すると体全体に涼しい風が流れ込んでくるみたい。とっても清々しいくていい気分。
この間、校外学習のキャンプで山に来たけど、あれはあくまでも授業の一環。やっぱり今日の方が断然リラックスできる。
「さ、到着よ。あそこが私の別荘」
オルガがお屋敷を指差すと、
「うおりゃ~~~~突撃~~~」
「ぬおおおおお!!」
イングリッドとアルベルトの二人が興奮を抑え切れずに、ダダダッと走り出した。入口のドアの前まで爆速でたどり着くと、
「デカい~~~!」
「うお~~~すげ~~~!」
仲良く並んで、大きなドアをどんどこ叩いて大はしゃぎ。着いて早々、騒ぎまくっていて、体力が持つのだろうかと心配になってくる。
「開けるから!ちょっと大人しくしてなさい!」
オルガは小さな子どもを叱るお母さんみたいな調子で言った。友だちを別荘へ招くなんて初めての経験だからか、ちょっとアワアワしている。
ワイワイ騒いでるイングリッドとアルベルトがいる一方で、アリスとギュスターヴの二人は、私たちからず~と離れた後ろの方をのんびりと歩いている。この二人は、ゆったりと楽しむ派らしい。
時々立ちどまって木の上にとまった鳥をみたり、しゃがんで仲良く花を見たりと、屋敷へ続くまでの道をじっくり味わっているみたい。
そのすぐそばにはエドワードもいるんだけど、ギュスターヴとアリスが和やかでいい雰囲気なので、会話に入れずに途方に暮れていた。
・・・ちょっとかわいそう。
私は、マルゲリータさんと一緒にドアの前まで行った。マルゲリータさんが懐から鍵をとり出すと。
「わぉ!来た来た!」
イングリッドがうれしそうにピョンピョン跳ねる。
「おう!ドキドキだぜ」
アルベルトも期待に目を輝かせて、鍵穴に鍵が差し込まれるのを見守っている。
この二人は、別荘の中を見たくてしかたないらしい。
そんで、まだ到着してない三人(ギュスターヴ、アリス、エドワード)はゆっくり楽しみたいタイプって感じ。
私はもう少しこの近くを見て回ってから中に入ってもいいんだけど、放っておくと『開けろ~』ってイングリッドとアルベルトがうるさそうなので、まず先に入れてあげよう。
マルゲリータさんがガチャリと鍵をひねって、大きくて重そうなドアを軽々と開けた。
目の前には、一面がガラス張りのリビングが広がっている。家の中だけど、開放感がすごい。太陽の光がいっぱい入って来て、まぶしい。
外から見た屋敷の大きさでだいたい予想できていたけど、リビングがどデカい。サッカーの試合とまではいかないけど、フットサルくらいならできそう。
・・・やんないけどね。やったら、窓が全部ぶち割れるに決まってる。
「ひゅ~~~!!」
「ぐおおおおお!!」
私がお屋敷を眺めて、感慨にふけっていると、隣から獣みたいな声が聞こえてきた。
イングリッドとアルベルトがダッシュで走り出して敷かれたカーペットに迷いなくダイブした。
「広いよ~~~~!!」
「ほんとだぜ~~~~!!」
二人とも両手を挙げてゴロゴロと、縦横無尽に転がりまくっている。興奮の表現の仕方が独特である。
「ちょっと!敷物が痛むじゃないの!」
またオルガがお母さんみたいなこと言っている。イングリッドとアルベルトの二人は、さながらやんちゃな子どもである。
「ははっ!まるでオルガ様は、母親みたいだな」
マルゲリータさんが、背負っていた荷物を降ろしながら愉快そうに笑った。
「ほんとですね。意外と面倒見いいんですかね?」
オルガが人のお世話をするとか不得意かと思ってたけど、実は適性があるのかしら?
「こら~離れなさい~~~!」
「わ~~~。やだよ~~だ!」
寝転んでいるイングリッドを移動させようと、その足をオルガがつかんだ。イングリッドは引きはがされまいと、カーペットをつかんで抵抗している。
・・・着いて早々なにやってんだろう、この人たち。
「イングリッド!お前が頑張ってる間に、俺は楽しませてもらうぜ!」
オルガがイングリッドにかまっている隙に、アルベルトはカーペットの上をでんぐり返ししまくって遊んでいる。
楽しみ方が独特である。
「おらおら、ほどほどにしとけ~」
見かねたマルゲリータさんが、アルベルトの首根っこを目にもとまらぬ速さでつかんだ。
「ぐおお!つ、つえぇ!」
必死で抵抗を試みるアルベルト。しかしマルゲリータさんの方が何枚も上手だった。そのままひょいっと玄関まで戻される。
「ほれ。そこで大人しくしとけ」
「う・・・うす」
反発せずに、言うことを聞いた。マルゲリータさんに逆らっちゃいけないことを、本能で感じたのかもしれない。
「はあ・・・はあ・・・」
長い格闘の末・・・ついにオルガはイングリッドの両足を持って、カーペットから引きはがした。疲れたのか、肩で
「なんかいきなり疲れたわ」
オルガはソファで休憩していると、
「お邪魔しま~す・・・」
「やあ、失礼するよ」
アリスとギュスターヴが入って来た。
「ふん、ほどほどの広さだな」
エドワードは足を踏み入れながら『ほどほどの広さ』と若干、上から目線で言ってきた。イラっとして、うっかり手が出そうになったけど、いきなりぶん殴るのは行儀がよくないので、やめておこう。
そう思ったら、
「ほどほど?言ってくれるじゃない。さぞ、あなたの別荘はご立派なんでしょうね?」
オルガが嫌味っぽく言った。
「・・・なんだ?なにが言いたい?」
エドワードが、眉をあげてオルガをジロッと見た。
おっと、いきなりケンカ勃発か?
不穏な雰囲気を察知したので、ここは私・・・オルガの家のメイドのエリーゼが、しっかりフォローさせていただきます。
「なにが言いたいだなんて・・・エドワード様ったら分かっているクセに!」
私はエドワードの背中を強めにぶっ叩く。
「ぐわっ!?な、なにをする!?」
よろめいた後、振り返って私を睨んだ。
「オルガ様の心がお分かりになりませんか?」
「心・・・?なんだ?」
背中をさすりながら、エドワードが尋ねる。
「オルガ様は、今度はあなたの別荘へ行きたいわと、そうおっしゃっているのです!」
「な、なな、なにぃ~~~~~!?」
エドワードが驚いて大声をあげた。
「ええ~~~!?」
ついでに、オルガの絶叫も響いた。




