宿題という現実が、ひたひたとやって来る
川遊びをする予定だったけど、満腹で動けない人多数。
無事なのはアルベルトと、マルゲリータさんの二人だけだ。この二人は鉄の胃袋らしく、ピンピンしている。
ほかは全員お腹いっぱいで、立ちあがるだけでリバースする危険があるので、具合が落ち着くまでなるべく体を動かさないようにしている。
アリスとイングリッドは、はじめ大の字に寝転がっていたけど、それも気持ち悪かったのか上半身だけ起こして、じっとしている。仲良く横に並んで座っているけど、全然会話をしてない。たぶん、しゃべると、その勢いで食べたものがこんにちはしちゃうからだろう。
ギュスターヴは、なんとか立ちあがるところまではいったけど、そのままじ~と空を見つめたままでいる。座ろうにも、座るために腰を落とそうとした瞬間に危険な予感を察知してのか、慌てて中腰のままとまっている。
この国の素敵な王子様なはずなんだけど、今はその面影ゼロである。
オルガは、さっきまでエドワードと軽い言い合いをしていたので、そこそこ大丈夫なのかと思いきや・・・時間差でどっと満腹感がやって来て、今絶賛格闘中らしい。椅子に座ったままなんか鬼気迫る表情で、空になったお皿を凝視している。
かくいう私もオルガと同じく、片づけしている時は体が重たいくらいだったけど、だんだんしんどくなって、休むために椅子に深く腰かけたら、そのまま起きあがれなくなった。銅像みたいに固まってしまっている。動くとヤバい。
・・・知らない人が見ると、私たちは川原でずっと微動だにしないおかしな集団である。
元気なマルゲリータさんとアルベルトが荷物をまとめ終えるまで、ほかのメンバーはだれ一人動かなかった。
しばらくして、やっと気持ち悪さが和らいできたので、えいっと立ちあがる。
まだしんどいけど、胃から込みあげてくるものはない。激しくじゃなければ、歩いたりしても平気そうだ。
周りを見回すと、すごいスローだけどみんなも動き出している。
なんとか回復した私たち(そもそもずっと元気な二名を除く)は、おじいちゃんおばあちゃんのようにゆっくり歩いて、屋敷へと戻ったのであった。
リビングのソファにみんな座って、しばらく休憩をとる。まあ、食事を終えた後は、のんびりとすごすだけ。
・・・・・・そう思っていたんだけど、アリスの一言で事態は一変する。
「そう言えばみなさんは、宿題どれくらいまでやりました?」
「前にも言わなかったかしら?私はもうとっくに終わっているの。残したままでは別荘でリラックスなどできないもの」
オルガは、立ちあがってしたり顔で言った。
「ぼくもほんの数ページだけかな」
ギュスターヴはお茶をすすりながら、余裕しゃくしゃくな態度であった。彼がちゃんとやっているのはイメージ通りだ。
「みなさん、すごいですね。私なんて、あと三分の一くらいあります・・・」
アリスはテーブルにアゴを乗せて、しゅんとしていた。
「大丈夫!アリス!私なんて、まだ全く手をつけてないんだから!」
イングリッドがケラケラ笑いながら、アリスを慰める。
「おっ!奇遇だなあ。俺もまだなんだよ。やっぱり、ついめんどくさくてさ。そういうお前はどうなんだよエドワード!どうせ残ってんだろ?正直に吐けよ」
予想通り、アルベルトも全然やってないらしい。仲間を見つけようと
「貴様と一緒にするな。俺はもう全部終わらせている。だいだい後回しにしたら困るのは自分だからな」
エドワードの口から正論が放たれる。
「う・・・そうだけどよぉ。おい、お前はどうなんだ?エリーゼ。お前はやってないよな!?なっ?信じてるぜ」
アルベルトが期待に目を輝かせて私を見た。謎の信頼を寄せられている。
その通り、やってないんだけどさ。
「もちろん、まだ白紙です。まるで、私たちの未来のように」
「おお!なんかいい感じのこと言ってるな!さすがだぜ」
こういう時、乗ってくれるのがアルベルトの好きなところである。オルガやエドワードだと、『は?』と冷たく一瞥されるだけだろうし、ギュスターヴは『あはは・・・そうかもね』とか苦笑いして適当にごまかすに違いない。
「やっぱ、この前、赤点になりそうだった人だけがまだ全然やってないんだね~。なんだかうれしいかも~」
イングリッドに言われて気がついた。私、イングリッド、アルベルトの勉強できない組三人だけが、夏休みの宿題に手をつけていないらしい。
「けっこう量ありますけど、大丈夫ですか?」
アリスが本気で心配そうな顔をしている。
・・・そんなにあるのかしら?この前確認しておこうと思ったまま、すっかり忘れていた。こういうところが勉強ができない理由なのだろうと思う。
「・・・ちょっとあなたたち」
神妙な顔をしたオルガが、私たち三人を見つめている。
「このままだと、悲惨な目にあうわよ。知らないでしょう・・・どれだけすごいのか」
私、イングリッド、アルベルトの三人は、ただならない様子に身を硬くした。
「そ、そんなにか?」
「まあ、実際に見た方が早いわね」
オルガは、部屋の奥に引っ込んでいった。
私たちは緊張の面持ちで顔を見合わせながら待つ。いったいどんなのがくるんだろう?
夏の宿題は学園で手渡されるのではなく、各自の生徒の家へと各お家のメイドさんや執事さんが持って行ってくれるので、私は実物を見ていないのだった。
私もメイドだから本来はオルガの宿題を運ぶ側の人なんだけど、毎日の学園の授業の荷物(これがけっこうな量がある)を持ちながら、さらに宿題まで運ぶのは大変だろうということで、マルゲリータさんがやっておいてくれたのだった。
リビングの隅に置いておいてもらって『ちゃんと部屋へ持っていけよ~』とマルゲリータさんに言われながらも、すっかりと失念していて、放置状態であった。
少し時間が経って、やがて現れたオルガは、その姿が隠れるくらい山のような参考書を抱えていた。
「「「・・・・・・え?」」」
私、イングリッド、アルベルト三人の口から、間抜けた声が漏れた。




