さあ、めしあがれ
湯気がモクモクとあがっている熱いスープが目の前にある。
これがマルゲリータさんの手作りスープか・・・食べる前に観察だ。見た目は、本人の豪快な人柄がそのまま表れたみたい。
まず、具がデカくて量も多い。きのこ、にんじん、じゃがいもなんかがゴロゴロと入っている。
調理しているのを見た時は、包丁を使わず全部手で食材をちぎっていて恐怖を感じたけど、そのおかげか、味がしっかりしみ込んでるようだし、なかなかおいしそう。
まあ肝心なのは味だ。見た目は悪くてもおいしければ許せちゃうとかあるしね。
スプーンですくってみると、ふわっといい香りが漂ってきた。
一口飲む・・・その見た目とは裏腹に、味つけは繊細だった。
もっと塩ドバ~、コショウもドバーって入っていて、味は濃くてなんぼ!みたいなのかと思った。いろいろな香りがするから、ハーブとかそういうのが何種類も入っているんだろう。
薄味で、塩気じゃなくてうま味で食べるスープって感じ。
要するに、すごいおいしい。
「おいしいです。へ~意外と料理上手いんですね」
私は感心した。マルゲリータさんの見た目からして、料理とか細かい作業は絶対苦手だと思ってた。
「ほう・・・意外?意外とは、どういう意味だ?」
笑顔のマルゲリータさんに頭を片手でつかまれ、ギリギリ締めあげられる。からかうつもりはなくて普通に褒めたつもりだったのに・・・いだだだだ~~。
「ま、待ちなさい!マルゲリータ!」
オルガがとめに入ってくれる。さすがご主人様だ。
「そう慌てなくても、こいつはこれぐらい平気ですからね~~~~」
明るい調子でマルゲリータさんは握る力を強めていく。なんか私の頭からミシミシミシッと、聞いたことない音が鳴っている
「いでででで~!」
「ほら、まだ声が出ますので生きてますよ」
「い、生きてればいいってものじゃないでしょ!すぐに放しなさい!」
オルガが珍しくうろたえて懸命に説得する。その甲斐あってか、マルゲリータさんはしぶしぶ手を放した。
「こいつの顔、おもしろかったのに・・・」
すごい残念そうにしている。マルゲリータさんは、私のことをおもちゃかなにかだと思ってるのかもしれない。
「私、一応褒めたつもりなんですが・・・なぜこんな目に」
指の形に赤く跡がついた額をさすりながら、私が言うと、
「『意外と』ってのが余計だ」
コツンと叩かれた。
そうかなあ・・・見た目とギャップがあるって、すごい魅力的だと思うけど・・・言われた側からすると嫌なのかな?
「でも、おいしかったですよね?オルガ様もそう思いません?」
私はオルガの方を見る。
「え?ええ・・・そ、そうね・・・悪くはなかったかしら」
オルガって、いつも褒める時はぎこちないというか、歯切れが悪くなるなあ。素直においしいよって言えばいいのに。
「マルゲリータさん。オルガ様の『悪くない』って言葉は『とてもいい』って言われていると思っていいです」
と、私から補足しておく。
「へえ~なるほど。そうですか・・・」
マルゲリータさんはうれしそうに笑った。
「そそ、そんなに褒めてないわ!ま、まあ。少しはおいしいって認めてあげなくもないけど・・・」
オルガは恥ずかしそうに口ごもっている。
「それじゃ、次は私の料理を食べてください」
私は立ちあがってキッチンに向かった。
「え、あなたのもあるの?」
オルガの表情が硬くなった気がする。なんか妙な反応だ。ここは『まあ、うれしい』とか、そういうリアクションじゃないのかしら。
「お~い。信用されてねえぞ~」
マルゲリータさんが楽しそうにヤジを飛ばしてくる。
どうも私ってあんまり信頼されていないみたい。まあ、身に覚えはありすぎるので、気にしないことにしよう。
「どんなのかしら?不安なのだけど・・・」
「あたしも自分ので忙しかったんで、確認してないんですよ。まあ、死にはしないんじゃないですか?」
なにやらヒソヒソ話が聞こえてきた。もうちょっと『楽しみだね~』とか『きっとおいしいんだろうな~』みたいな前向きな言葉が欲しいところではある。
「は~い。こちらですよ~」
私は抱えるのも一苦労な大きなお皿を持って二人の前にやって来た。
オルガは不安そうにお皿をのぞきこむ。
私が作ったのは、大きな塊のままの肉に、にんにくやしょうがなどを刻んで、塩コショウで焼いたシンプルなもの。
だいたい料理を失敗するのって、余分なことをしちゃうからではないかと、私は乏しい料理経験から判断し、腕に自信がないなら、なにもしなければいいじゃないと、そう結論づけた。なかなか自分でも賢明だと思う。
「シンプルな料理ね・・・これなら・・・」
巨大な肉の塊を前に、不安半分、ホッとした気持ち半分って感じのオルガ。
「うお~~いいじゃねえか!」
マルゲリータさんの反応は上々。見た目通り、ガツンとした食べ物がお好みらしい。
野菜たっぷりの繊細な味のスープと、私のガツンとした肉料理。二人の料理はバランスがいいかもしれない。
「はい、どうぞ」
私は、なんとか苦心してお肉を切り分けて、みんなのお皿によそった。断面とかガタガタで、斬新な切り方になっちゃったけど。
「すごい大きさがバラバラなんだけど」
フォークに刺したお肉をあっちこっち見ながらオルガは言った。
「いや~失敗しちゃいました!テヘッ」
「あのねぇ・・・」
オルガに冷めた目で見られた。かわいいドジっ子になって許してもらおうとしたけど、あえなく失敗。
「まあ、腹に入れば同じだろ。どれどれ・・・」
マルゲリータさんは全然気にせずに、フォークでガバッと肉をとった。
「うんうん、うまい!」
すごい勢いでかきこみながら、マルゲリータさんは褒めてくれる。ちょっと食べ方は行儀悪いけど、ガツガツ食べてくれるのはうれしい。
「どうぞオルガ様も食べてください」
「仕方ないわね。・・・ん?これは・・・」
口にした瞬間、オルガの動きがピタリととまった。
「これ、おいし・・・ゴ、ゴホン!ま、まあ・・・まあまあね・・・食べられなくはないってところかしら」
「おいしいって言いかけませんでした?」
「そ、空耳よ。耳掃除が足りてないんじゃないの?」
プイっと目をそらしたけど、オルガの食べる手はとまらない。
「まあまあって言いながら、たくさん食べてますね」
「の、残したらもったいないからよ!食べ物を粗末にするのは、貴族として恥だから!そう、そういうことよ。ただそれだけ!」
オルガはパクパクと食べながら早口で言った。
それにしてはいい食べっぷりですねってツッコみたいところだけど、ムキになって認めないだろうから、このままでいいかな。
「ほほ~なるほど・・・」
私は、ニッコリと笑った。
「なによ、その気持ち悪い顔は」
「いえいえ、なんでもありません。どうですか?おかわりありますよ」
「そうね。残すのはよくないし・・・」
「あたしも、おかわりくれ!」
マルゲリータさんがすごい速さでお皿を差し出した。
「はいはい。スープもまだまだありますよ~」
私たちはシートに座って、ゆっくりのんびりと食事をした。
オルガは結局最後まで褒めてはくれなかったけど、少しでも楽しんでくれたらうれしいと思う。




