真夏に、家でお花見を
22時に投稿後に文章を少し手直ししました。
「花見って、もう夏よ!それに外は暗いし!おまけに室内でどうやってやるのよ!?」
オルガから早口でズバズバ言ってくる。
・・・あれ?私の想定では、ここは『まあ、なんて素敵な提案なの』とか言って涙を流して喜ぶはずなのだが・・・。
なんだか、そんなにうれしそうじゃない気がする。
「あれ?お花見はお嫌いですか?」
「好き嫌いの話じゃなくて、そもそもなんで花見なんてするのよ」
と、いきなり根本的なところを聞かれた。
なぜするのか・・・それは永遠のテーマである。てか、この世の中で、なんで花見をするか答えられる人っているのかしら?
・・・いや!いない。
ゆえに、私はキッパリとこう答えた。
「なんとなくです!そう、なんとなく楽しそうだなと思いましたので!」
まあ、実際そう思ったから開催するので、ウソは言ってないぞ。一人でいつも食事をしているオルガを楽しませるためって理由もあるけど・・・それを言っちゃあ無粋ってもんだ。
「そんな理由でテーブルと椅子を片づけて・・・シートまで敷いたの?」
オルガは呆れたみたいに、ただシートだけが広がるダイニングを眺めた。
「そうですよ」
たしかにちょっと大変だったけど、マルゲリータさんもいたしそれほどでもなかった。
「はあ・・・なんだか逆に感心するわ」
顔は呆れ顔だけど、なんかいつもほどじゃないような気がする。なんとなくだけど。
「とりあえず座ってください。立ったままだと疲れますし」
私はシートを指差して言った。
「分かったわよ。もう!」
納得してない様子だけども、オルガはしぶしぶ座った。そしてキョロキョロと周りを見回して、
「と言うか、花見するって言っておきながら、なにもないじゃない」
「よくぞ言ってくれました」
その言葉を待っていたんだ。やっとお花見をはじめられるぞ。
「では、登場してもらいましょう」
「・・・登場?」
私は手を叩いて、キッチンの奥に合図を送る。
「それでは、どうぞ~」
「う~い」
と気の抜けた返事とともに、ノシノシと大きな人影が出てきた。
その正体は・・・・
「ま、マルゲリータ!?あなたなにやってるの!?」
オルガは、ビックリして立ちあがって叫んだ。
マルゲリータさんは、物置小屋にあった廃材で急遽作った木のオブジェを背負っている。
まあ、オブジェとは言っても、たんに絵の具で木の板に、葉っぱとか枝とか花びらをチャチャッと描いただけのものなんだけどね。
「あ?マルゲリータ?あたしは今はマルゲリータじゃなく、木ですけど?」
マルゲリータさんは、堂々と仁王立ちしたまま言った。
よしよし、完璧に演じてくれている。いいぞ、マルゲリータさん!じゃない・・・桜の木!
「なに?木って!?」
「花見するんですよね?そのためには桜の木が必要ですので、それがあたしってことです。よろしく」
「マルゲリータさんは木担当、そして私は、花びら担当です」
と言いつつ、私は用意しておいた紙吹雪を持って、パラパラと投げた。こうすれば、部屋の中でもいい感じに花が散って風流な景色になる・・・はず。
「それそれ~」
私が頑張って紙吹雪を投げ、マルゲリータさんはその場でじっと立って木の役割を果たす。これぞ、部屋の中で花見を楽しむ画期的なアイデアなのだ!
ふふふ・・・オルガは私たちの心づかいに感動して泣くに違いない。
そう思ってその顔を見てみると
『なにやってんだコイツら』みたいな顔をしている。眉間にしわを寄せて、渋い表情。
「どうやら、オルガ様は不満なようですね」
「いや、というかどこに満足しろと?」
「それは、あれですよ。メイドたちの涙ぐましい努力に、キュンとしてくれてかまいませんよ」
「自分で言うのって、どうなの?」
オルガには響かなかったみたいだ。
「まあ、ともかくごはんにしましょう。ちゃんと料理がありますから」
「そう、そうね。夕飯にしましょう」
お腹が空いていたみたいで、オルガは夕飯という言葉を聞くと、ちょっと元気になった。
私は奥へと引っ込んで、大きな鍋を持って来る。
「はい!まずはマルゲリータさんの作った具沢山のスープですよ」
「え?あなたたちが作ったの?」
オルガはハッと顔をあげた。
いつもオルガは、コックさんが作ったものを食べているけど、今日は特別に私とマルゲリータさんで料理を用意したのだ。
お花見といういつもと違うイベントでは、食べ慣れた味より普段とは違うものをいただく方がいいだろうと思ったからである。
「あ~クソ。座りにくい!」
マルゲリータさんは、イライラした様子でシートに座りながら言った。彼女が背負っている板は、ごはんを食べるにはものすごく邪魔そう。
「もう下ろしていいか?」
「そうですね。とりあえず花見という目的は完遂できましたし・・・そのままだと食べにくいですものね」
「そうよ。なんか見ていてうっとうしいから、下ろしなさい」
オルガも下ろしてほしいとのこと。
「よし、オルガ様から許可も出たし、これもう下ろすぞ」
マルゲリータさんは、桜の木からマルゲリータさんに戻った。
「あ~やっと解放されたぜ~~」
腕をグルグルしてマルゲリータさんは解放感に浸っていた。じっとキッチンの奥で私に呼ばれるのを待っていたので、疲れたようだ。
「は~い、どうぞ」
私は、オルガとマルゲリータさんにスープをよそって、お皿を渡した。
「オルガ様、どうですか?楽しくなってきませんか?」
楽しんでくれている想定で、ほとんど強引に進めてきちゃったけど、一応、ここで確認しておこう。全然おもしろくないってなったら、せっかく準備したこのお花見も失敗である。
オルガが楽しんでいること・・・それがこのイベントを開催する最低条件なのだ。
「いや、あなたたちが木の格好になったり、花びらを投げたりしたのは、まだ全然意味分からないし、紙吹雪で床が汚れているのは正直腹が立つけれど・・・でも、コック以外に手作り料理を作ってもらうのは初めてだから、それは・・・その・・・」
少し口ごもった後、続けた。
「・・・ま、まあ・・・ほんの少し楽しみにしてあげないこともないわ」
やっぱりオルガは素直じゃない。普通に、楽しみって言えばいいのになあと思うけど、でもこういうところ、私は嫌いじゃない。
いや・・・むしろ、こういうところが好きだなって思う。




