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そろそろ夕食の時間

 私とオルガは、黙って握手してお互いの健闘を称え合った。


 「一つ、人間としてレベルアップした気がします」


 困難を乗り越えて、私たちは成長したのだ・・・たぶん。少なくとも、私は今ならどんな虫でもぶっ飛ばせる自信がある。


 「なんだか、嫌~なレベルアップの仕方ね」


 オルガは微妙な顔している。ゴキブリを倒してレベルアップというのは、あまりお気に召さないみたい。


 まあ私も、もう一度経験したいかと言えば、絶対したくないけど。


 ともかく、二人で共通の経験ができたのはよかったんじゃないかな~と、そういう風にポジティブな考えでいこう。


 私はそろそろマルゲリータさんに報告しに行かなきゃいけないけど、オルガはもう少しここにいるらしい。一人でのんびりしたいとのこと。


 ご主人様がリラックスできるよう、たまには一人にしてあげよう。私は、気も使えるメイドなのである。


 というわけで、夕食の時間にオルガは戻ってくるらしいので、いったんここで別れて、後で合流することになった。


 私はお屋敷に戻って来てマルゲリータさんを見つけると、


 「掃除はそこそこ進みましたよ」


 と今日の成果を報告。


 「けっこう時間あったよな?そこそこ進んだとは・・・なんか引っかかる言い方だな」


 「実はですね・・・」


 「・・・あ?」


 かくかくしかじかと、事情をかいつまんで説明する。苦手かもしれないので、あんまり直接的にヤツの名前には触れないように気をつけながら話をした。


 「いやあ、大変でした」


 思い出しながらちょっと身震いしてきた。あの姿の生々しさが、今でもはっきり思い出せる。


 「はぁ・・・まあ、苦手なヤツが多いのは知ってるが・・・そんなにか?」


 彼女からすれば、ゴキブリは屁でもないようだ。


 「えっと、もしやマルゲリータさんは、虫とか平気ですか?」


 「んあ?別になんとも」


 平然とした顔で言われる。強がってる感じは全くなし。すごい。マルゲリータさんへの尊敬の気持ちが強くなる。


 「さすがです」


 私は、思わず拍手した。私なんか虫全般があまり得意じゃないので、虫が平気な人って、それだけでちょっとリスペクト対象である。


 「大したことねえよ。おおげさなヤツだな」


 マルゲリータさんは、照れたみたいに頭をポリポリかいている。なんか、かわいい。


 「で、掃除が進まなかったってのは、それが理由か?」


 「はい。そういうことです。見せたかったですよ、私とオルガ様の抜群のコンビネーションと、目にもとまらぬ私の連打!連打!連打!」


 シュッシュと空中をパンチする。


 「ほうほう・・・あたしの特訓の成果だな」


 ん?言われてみればゴキブリってけっこう素早くてなかなか仕留められなかった記憶があるんだけど、私は攻撃を正確に命中させ、一気に攻め続けすんなり倒せた。


 もしや・・・私も自覚していない間に、あの岩山での特訓が実を結んでいるのか!?・・・でも、死にかけた割には、ゴキブリ退治だけに生かされるとは、なんとも切ない。


 「なるほどな・・・サボってたわけじゃねえってことか。それなら、ま、今回は大目に見てやる」


 おっ!マルゲリータさん優しい。


 「でも、まだやることはあんぞ」


 そうだ。これだけだと勘違いしてたけど、まだ仕事は残っているんだっけ。


 え~と・・・たしか食事の準備だったかな?


 私はマルゲリータさんと一緒に、ダイニングに向かいながら、なにをやるのか確認する。


 料理を作るのはコックさんだけど、配膳とかお茶をいれるとか、そういう細々した仕事は、メイドである私たちの担当だ。食事のサポートって感じだし、用意するのも一人分だけでいいので、すぐ終わる。片づけも簡単。


 なぜ一人だけでいいかと言うと・・・・・オルガの両親はほとんど家にいないので、オルガはいつも一人で食べるからだ。


 私やマルゲリータさんなどの使用人たちは、それぞれの別の部屋があって、そこで食べるのが一応、推奨されるとのこと。


 まあ学園では普通に一緒に食べているんだけど・・・貴族のお屋敷の中だと、なんか身分がどうとか、そういう謎のマナー的なものが発生するらしい。


 正直、非常にめんどくさい。


 なので、広いダイニングの中央で黙々と食事して、お茶を飲んだらサッと去っていく。オルガの夕飯は、いつもそんな感じだ。なんだか、その背中はいつもちょっぴり寂しそうな感じがするのだ。


 しかし、今日は私の中で計画がある。


 「マルゲリータさん、ちょっといいですか?」


 「ん?なんだ」


 私はマルゲリータさんに耳打ちする。


 「はっ・・・くだらねえこと考えるな。でも、いいぜ。付き合ってやるよ」


 こっちを見てニヤリと笑うと、


 「じゃあ、グズグズしてられねえな!とっととはじめんぞ」


 「はいっ!」


 よし、急いで準備にとりかかろう。これもオルガ様を楽しませるためだ・・・頑張るぞ!


 私たちは、コックさんにお願いしてキッチンを貸してもらって、いろいろと用意をはじめる。家具を移動させたり、食材を切ったり・・・忙しくなるぞ~。


 私とマルゲリータさんは、手分けして準備をはじめていく。




 ・・・・・・・・

 ・・・・・・・

 ・・・・・・


 なんとか準備を終えると、私はオルガをダイニングへ連れていく。


 「今日は、いつもとは趣向を変えて食事を楽しみましょう」


 「趣向を変える?どういうことよ?」


 不審そうな顔をしながらオルガついてくる。


 そして、私は立ちどまると、


 「では、どうぞ」


 ドアを開けて中に入るように促した。オルガは、恐る恐る一歩足を踏み入れる。


 「な、なんなの・・・これ?」


 いつもはダイニングのど真ん中に置かれているテーブルや椅子はすっかり姿を消して、その代わりに、大きなシートが床に敷かれている。お花見とかに使うような、たくさん人が座っても大丈夫な、大きめのやつだ。


 オルガに続いて部屋に入った私は、大きな声で宣言した。


 「今日は・・・・・・ここでお花見を楽しんでいただきます!」


 「はあ!?花見ぃ!?」


 オルガは、目を丸くして叫んだ。

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