VS G
なんだこのイベント・・・これって乙女ゲームだったのでは・・・。
『さあ、ゴキブリが出たよ、これをチャンスに仲を深めていこう!』みたいな、そういうハプニング的なこと?
ほのぼの感も、トキメキもゼロ。テンションがさっぱりあがらないイベントである。
もしや、これがバッドルート!?・・・いや、にしてはショボすぎるか。普通に出てきただけだろうな。
私とオルガは身を寄せ合ったまま、見たくないけどなるべく目をそらさないようにする。
なぜなら、見逃したら終わるからである。ヤツは素早いので、本棚の後ろとか物陰に入ってしまったらふたたび補足するのは困難になる。一度、見失ったらかなりの長期戦を覚悟しなければならない。
よって・・・
確実に!
今!
ここで仕留める!
「オルガ様」
「ななな、なに・・・?」
オルガはまだ動転している。いつもは余裕のある態度のオルガでも、ゴキブリを前にすると、やっぱり軽くパニックになるらしい。おそるべし、ゴキブリの力・・・。
もちろん私も大の苦手である。虫の中で最も苦手と言っていい。暇さえあれば絶滅しないかなあとか考えちゃったりするくらいには嫌いである。
しかし、ここでおびえていても自然消滅はしてくれないのが、悲しい現実。
私は大きく深呼吸をした。余計な感情を排除するために、自己暗示をかけていく。私は人形・・・ただゴキブリを滅するだけの存在・・・。感情が入り込むと、『光沢があって、なんかいやな見た目だな』とか『動き方がキツい』とか『飛んだらどうしよう』とか、そういう余計なことを考えてしまう。
自分を無にすること・・・それが私流の対処法なのだ。
なにかを憑依させるのをイメージして、両手を広げて天にかざす。
「なにしてるの?」
と、オルガが私を見てきた。
「私は、人形・・・感情のない人形・・・」
私はそう自分に言い聞かせている。
「え?」
まあ、意味分かんないよね。頭にクエスチョンマークを浮かべたオルガに軽く説明する。
「あ、これ。私なりの対抗手段なんです。気持ち悪いとか余計なことを考えると体が動かなくなるので、なにも感じないように自己暗示をかけてます」
「そ、そう・・・」
なんかオルガがちょっと引いてるようだ。
変な行動なのは自覚しているけど、そんなのを気にしていては、ゴキブリという存在には対抗できないのである。よって、このまま行く。
「では、行きます」
壁にかけてあった木の板(たぶん、廃材)をそっと手にとって気配を消して近づく。
幸い、あんまり動かない。よし、自己暗示作戦成功だ。存在感を上手く消せているようだ。
ふふふ・・・さあ、すぐに楽にしてあげよう。
手を振りあげて、一思いに振り下ろした。
・・・が、しかし敵もなかなかのもの。直前に素早く横に移動して、私からの一撃を避けた。
マズい・・・あいつが移動した先には、本棚と壁の隙間が口を開いている。このままもう少し動けば、完全に体が隠れてしまう。
「ちょ、ちょっと外れてるじゃないの!」
オルガは私の背中にピッタリくっついている。なんか頼られているみたいで、ちょっといい気分。
「寸前で身をかわされました。なかなかやるようですね」
「だ、大丈夫なの?このままどこかの隙間に入ったりしたら・・・」
言いながら、オルガはブルブル震えた。最悪のケースは今は考えないようにしよう。
しかし、相手もそれなりの強者・・・やっぱり一人より二人で協力した方がいいかも。
「本棚の後ろに入ったら一巻の終わりです。どうにかしてそこから遠ざけて、確実に仕留めるための作戦を立てましょう」
「わ、分かったわ。まだ動いていないし、この隙にきっちりと準備しましょう」
二人で顔を寄せて作戦会議。
「本を積み重ねて隙間に入られないようにしつつ、オルガ様に向こうから攻撃していただき、逃げてきたところを私が仕留めるというのはどうでしょう?」
私が提案する。ふんふんとオルガはうなずきながら、
「なるほどね。二段構えの作戦ね。よ、よしそれでいきましょう・・・まずは準備よ!私に続きなさい」
「は~い」
やることが決まると、オルガは少し元気をとり戻した。
そろりそろりと歩いて、いろんなものを積み重ねて隠れられる場所をなくしていく。
バリケードみたいにぐるりとターゲットを本で囲んだ。これで準備オーケー。
私たちは顔を見合わせてうなずく。
「じゃ、じゃあいくわよ」
オルガは、震える手で箒をかまえた。
「え、えいっ!」
目をつぶってオルガが箒を思い切り振り回した。なんか、声と動きがかわいらしい。当たらなかったけど、その衝撃に驚いたのか、いい感じで私の射程圏内へ移動して来た
「ふ・・・残念ですが地獄へ行ってもらいます!」
私は木の板をかまえて、狙いを定め一撃を加える。大振りしないように・・・まずはダメージを与えて動きをとめる!
バンッと軽い音が鳴った。
当たった!そして、ポトッと落ちる。まだ息はあるみたい。ちょっと動いた。
死にかけたヤツの動きは、申し訳ないけど気持ち悪すぎるので、あんまり見ないようにしよう。
「オララララララララララ!!」
逃げる隙を与えずに連続攻撃だ!
「ドリャリャリャリャリャ!」
もう死んでいるかもしれないけど、もし生きてたら嫌なので、念入りにぶっ叩く。
「ス、ストップ!もういいわ!」
オルガにとめられる。さすがにもう大丈夫かな?
「ふ~・・・なんとかなりましたね」
額の汗をぬぐう。
「え、ええ・・・。なんだかどっと疲れたわ」
なんか精神を削られた感じがする。
さてと・・・でも問題はこの後なんだよな。
ぶっ叩いた木の板は床に転がっている。そしてその下には、グチャグチャになった『あれ』がいるのだ。
しばらく放っておいたら、自然に蒸発とかしてくれないかな~・・・なんて思っても消えてはくれないので、重い腰をあげる。
オルガをチラッと見てみる。すると、
「い、嫌よ!あなたが掃除しに来たんだから、汚れはあなたがきれいにしなさい!」
なにも言ってないのに断られた。
「頑張ったメイドのために、後処理してくれても一向にかまいませんよ」
「ええええ遠慮するわ!」
即答であった。なんとも頼りないご主人様である。
仕方ないなあ。いらない紙と袋を用意して、死骸は視界の端っこにかろうじて入るくらいにして、極力見ないようにする。
この姿・・・すごい滑稽に見えるんだろうけど、そんなことは気にしてられない!見たくないものは、見たくないのである。
時間をかけて、紙袋に死骸を入れてダッシュで物置から出る。そして、庭で落ち葉を燃やしている火を見つけるや、
「うおらぁ!」
と全力で投げ込んだ。
そばを歩いていたコックさんにビックリされたけど、事情を説明している暇はない。よって無視。
灰になったのを確認して、小走りで物置に入って手をパンパンはたいた。
・・・これでおしまい。
そう思うとどっと疲れがやって来た。
予期せぬハプニングで物置掃除はあんまりはかどらなかった。マルゲリータさんに怒られないことを願おう。
でも、二人で協力して倒せたのはうれしかったし、すごい充実感がある。とりあえず、今日はこれでよしってことにしとこう。




