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7/8

大切なのは、気合いです

 「これは違う!ハイ次!」


 オルガが、腕を組んだまま、じろじろとアリスの全身を見て、すぐに新しい服を渡す。


 もう何度目の着替えだろうか。私は途中から数えるのをやめた。


 「え、また着替えるんですか!?」


 アリスは、げんなりした顔をしている。

 

 「私が選んであげてるのよ。妥協は許されないわ!」

 

 「なんでこんなことに・・・」


 「いいじゃないですか。いいものを選んでいただけますよ、きっと」

 

 ジュースを飲みながら、アリスを励ます。買うものが早々と決まった私は、オルガの着せ替え攻撃から解放されていたのだ。すまんね、アリス。


 「いつの間に買ったんですか、それ」


 「おいしいです」


 「くう~その余裕、腹立つ~」


 「まあまあ、あとで飲み物おごりますから」


 「えっほんとですか!?」


 目に生気が戻ってきた。そう、アリスはおいしいものに目がないのだ。


 「そこ、無駄話しない!」


 学校の先生みたいになっているオルガはガッとアリスの襟首をつかんだ。


 「うわ~ん」


 アリスは半泣きで、ズルズルと引きずられている。


 服を買いにきただけのはずなんだけどな……私たち。なんでこんなに大変なんだろう。


 「ご武運を」


 私は、敬礼で見送る。周りのお客さんも、なぜか一緒に敬礼。なんか感動的な映画のワンシーンみたい。


 これが、エモいってやつか・・・・・。

 

 

 服選びは続く。オルガは、なかなかいい感じの服に出会えないことにイライラして、


 「あなたやる気あるの!?なんでこれが似合わないのよ!」


 と、意味不明なキレ方をしている。服が似合うかどうかに、やる気とは?


 「そんなんだからダメなのよ。気合を入れなさい!」


 「へ?気合・・?」

 

 アリスはきょとんとしている。


 「叫ぶのよ!ほら、似合えって!」

 

 オルガが変なことを言いはじめる。なんか、テンションがおかしい。


 その勢いに押されて、しぶしぶアリスは声を出す。


 「に、似合え~」


 「声が小さい!」


 「似合え~」


 「もっとお腹から声を出すのよ!」


 「似合ええええ!・・・・・私、なにやってんの!?」


 アリスは、わけがわからないまま、大声を出している。

 ごもっとも。たぶんオルガ本人も、よくわかってないと思う。


 「そんなんじゃ、服がふりむいてくれないわ!もっと、もっとよ!」


 「どりゃああああああ!」


 あ~二人とも、おバカになってしまった。


 フォローに入ろうかと思ったけど、なんかめんどくさそうだし、見ようによっては楽しそうに見えなくもないから、まあ、よしとしよう。盛りあがっているなあ。


 私は、そっとその場に二人を残して、アリスにおごってあげる飲み物を買いに行く。

 関係者だと思われたくなかったから、なにか適当に理由をつけて距離をおこうとしたわけでは、もちろんないぞ。



 ・・・・・・アリスの気合の叫びは、それからしばらく続いた。



 ・・・・・・・・・・・・・


 


 こうして、長い長い買い物が終わった。


 私とアリスは、服屋からふらふらと出てくる。なんだか、外の空気がとてもおいしい。生き返るようだ。

 どっと疲れが出てきて、体が重たくなってくる。私は途中から見物していただけなんだけど、見ているだけで生気を吸いとられるみたいだった。


 戦場から帰ってきたみたいな、そんな心持ちである。

 

 アリスなんて、ちょっとやせたんじゃないかしら?


 私は、アリスに飲み物をそっと差し出す。


 「ご苦労様です」


 「あ、ありがとうございます!」


 アリスは一気に飲み干した。


 「うま~生き返る~」


 少し元気になったみたい。機嫌は悪くなさそうでよかった。


 一方のオルガは満足した様子で、肌ツヤツヤ。私とアリスと比べて、すごい元気だった。どうやら、いい気分転換になったみたい。


 結局、それぞれ買ったものはというと、私は、オルガにすすめられた紺色のワイシャツに、動きやすそうな茶色いスラックス、そして、おもしろそうなので最初にかごに入れた、袖に羽がついたシャツだ。ちなみに、この羽根つきのシャツを着る予定はないぞ。だって変だもん、これ。


 アリスは、薄いクリーム色の品のいい感じのシャツと、青いロングスカートだ。あれだけ長時間の戦いだったけど、意外と無難なチョイスに落ち着いた。


 『意外と普通ですね』と言いたくなるのを、グッとこらえる。そんなこと言ったら『じゃあ、もう一度最初からよ!』とか言って、店に戻りかねない。刺激するのはよそう。


  しかし、オルガのセンスが変に尖ってなくてよかった。奇抜な服をアリスにすすめていたら、せっかく二人が仲良くなるための計画が、台なしになるとこだった。

 しかも、あのテンションだったら、むりやりアリスに買わせかねない。そんなことしたら、アリスにめちゃくちゃ恨まれそうである。


 

 一緒に買い物したことで、会話のきっかけができたのは大きい。もし、今日買った服をアリスがなにかの機会に着てきたら、


 『せっかくなので、着てきました』


 『なかなか、似合うじゃない』


 みたいな会話がアリスとオルガの間で交わされて、二人はいつの間にか仲良しに・・・・。そして、そんな仲睦まじい二人の姿を、私は至近距離で眺めて楽しむ・・・グフフ・・・。



 ・・・・・な~んて想像してみたけど、そんなすぐには無理だろうな。



 今日で距離は少しは縮まったかもしれないけど、はっきり言って、今日のオルガとアリスは、まともに会話らしい会話をしていない。


 オルガは服を選ぶのに夢中だったし、アリスも途中からテンションがバグっちゃって、今は疲れ切っている。


 とほほ、もっとのんびりお買い物を楽しむはずが、予定が狂っちゃった。


 でも私、めげない!


 少なくとも好感度は下がってないだろうし、休日に一緒に買い物したのは、かなり進歩だ。


 また、次のチャンスを待とう。


 いろいろ誘って遊びまくるぞ!と私は、決意を新たにしたのであった。

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