オルガの好きなこと
大きな本棚のそばにいたオルガはパッと立ちあがった。その動きの素早さは、さすが悪役令嬢である。・・・いや、別にそれは関係ないかな?
「ななな、なにしに来たのよ!?」
いきなりの私の登場に、すごくビックリしている。
「私はマルゲリータさんに、ここの掃除を命じられまして来ました」
持っている箒を示す。
「はあ!?物置は私がいるから掃除しなくていいって言ったのに。あいつ~~なに考えているのよ!」
ははあ・・・なんかさっきマルゲリータさんが笑っていた理由は、これだな。
オルガがいると知ってて私を掃除に行かせたのは、私とオルガが仲良くできるようにっていうマルゲリータさん流の配慮かしら?もしそうなら、グッジョブ!マルゲリータさん。
まあ真相は分からないけど、せっかくひさしぶりに二人きりになれたし、お話しして交流していこう!
「なにしてたんです?」
「な、なんでもいいでしょ!」
なんか怪しい。
慌ててるし、両手を体の後ろに回して、なにか持ってるものを隠そうとしているように見える。
「なにか隠してません?」
私が尋ねると、
「ななな、なにもないわよ~なにも知らないわ~」
こっちに背中を向けないように、カニみたいに横移動しながら、とぼけている。その動きはコミカルでかわいらしいんだけど、あまりにも不自然すぎる。
「なんか動きがぎこちないですけど・・・」
おもしろそうなので、ツッコんでみる。
「こ、これは・・・そう、新しい体操よ!」
言いわけがだいぶ苦しいけど、追及したら意地でも反論してきそうなので、いったんスルーだ。
「まあ、とりあえず体操ということにしておきます。私は、見ての通り掃除をしに来たので、よければそこをどいてもらえるとありがたいのですが・・・」
「なんで私がどかなくちゃいけないの?私が先にいたんだから、あなたが出ていきなさいよ」
と、なんか駄々っ子みたいなことを言いはじめる。でも、どいてもらえないと、私がマルゲリータさんに叱られるんだけどな。
「ほう・・・私を追い出してまで、一人で物置でしたいことがある、と。それはそれはお忙しいようですね。なにをしているのか、気になります。ええ、実に気になりますとも」
じろじろとオルガを見る。
「な、なによ・・・」
「まあ、話したくなければ無理に聞きませんけど」
「へ?意外と素直に引き下がるのね・・・」
あっさり私が引き下がったので、オルガは拍子抜けしたようだ。
ふふふ・・・私は焦らないのだ。強引に聞き出そうとしても、意地になってしゃべらないに違いない。慌てないで、じっくりいこう。
ま、そもそも私は、オルガがここでなにをしているのか、すでに知っているんだけどね。
この世界に来て直接見たわけじゃないけど、ゲームのスピンオフとして発売された外伝小説に、なぜオルガが物置に行くのか、その理由が書かれているのだ。
オルガは、この物置小屋で絵本とかオモチャやぬいぐるみを眺めるのが好きなのである。
いつもはツンケンしているんだけど、かわいいものが好きな一面があるっていう・・・そのギャップがたまらん。
しかも、そこには孤独感とか、寂しい気持ちをまぎらわせるためとか、ちょっと切実な理由も含まれているのが、私的にグッとくるポイント。ただかわいいもの好きってことではないのだ。
強がっているんだけど、脆さが見えるキャラって、いいよね・・・。
と、そういうわけなので、温かく見守っていくことにしよ。
「大丈夫です。穏やかに見ていますので、ごゆっくり。オルガ様は自分のやりたいことをしてください。さあ、どうぞ」
私は、ニコニコとオルガを見ている。
「見られたらできるわけないでしょ!」
絵本を読んでるオルガとか、ぬいぐるみと戯れるのとか、すごい見たいんだけど、彼女的には恥ずかしいらしい。かわいくて素敵だけどなあ。
でも、どうやら私がいると恥ずかしいらしく絵本を読んだりはしてくれないようだ。
どうしようかな・・・。
「ではこうしましょう。私は掃除をすぐにすませますので、その後ゆっくりと、ここで絵本をお読みになっては?」
「え・・・・?」
あ…ヤバい。ついうっかり言っちゃった。
「ど、どうして絵本を読んでるって分かったの!?」
オルガは焦っている。
え~と、どうしようかな。とりあえず適当にごまかそう。
「いやあ、そこに本棚がありましたので、そこからメイドのスーパー推理パワーによって導き出しました」
小説に書いてありました!とは言えないもんね。
「あ~~~~~!!」
オルガは頭を抱えている。
「でも絵本を読むとか、素敵な趣味だと思いますけど」
これはフォローじゃなくて本音。
なんだかかわいらしくて、いい趣味だな~と思う。特にオルガみたいに見た目がキリっとしている人が、絵本とかぬいぐるみとかを趣味にしているとか、最高でしかない。
なんか、ありがとうと言いたくなる。だれにかは分かんないけど。
「バ、バカにするでしょ・・・子どもっぽいだとか・・・イメージに合わないとか・・・」
オルガの声が自信がなさそうにモゴモゴと小さくなる。
「いえ、むしろ・・・そこがいい!」
私は、目をカッと見開いてキッパリ言い放つ。
「え・・・?」
思わぬ返事だったようで、オルガは目をぱちくりさせている。
「なんかかわいい~って思います」
「私、バカにされてない?」
「大丈夫ですよ。めげないでください。ファイトですよ」
私は握り拳を作って元気づける。
「否定しなさいよ、そこは」
「堂々としてればいいと思いますよ。好きで何が悪いのって感じで」
「はあ・・・そんなものかしら」
「それにどっしりと構えている方がオルガ様らしいです」
「ふ、ふ~ん・・・そう・・・。私らしい・・・か」
「ええ、というわけで・・・せっかくですから一緒に読みます?」
「はあ!?読むわけないでしょ!」
光の速さで断られた。そう世の中は甘くないようだ。・・・まだオルガからの好感度が足りないんだろう。
でもいつか、隣で同じ本を読むくらい仲良しになりたいな。
「ケチですねえ。それでも貴族の令嬢ですか?」
「貴族かどうかは関係ないでしょ・・・」
「いえいえ、やはり貴族たるもの・・・絵本をメイドに読み聞かせてあげるくらいの度量がほしいところです」
「メイドに読み聞かせするご主人がどこにいるのよ・・・」
「私はいつでもウェルカムです。さあ、行きましょう」
「絶対、嫌!」
どうやらオルガはいつもの元気をとり戻したみたい。
やっぱり元気にツッコんでくれないと、こちらもボケる甲斐がないってもんだ。




