ゆっくり歩く帰り道で
ずっと泳いでいたからか、体が重たくて疲れているけど、嫌な感じじゃない気持ちのいい疲れだ。
「楽しかったよね~」
イングリッドとアリスは、腕を組んでスキップするみたいにして歩いている。楽しそうな二人を見ると、私もなんだか気持ちが明るくなるな。
「や~お茶会もできたし、充実していたなあ」
ギュスターヴはお茶会ができたことに手ごたえを感じているらしい。
そういえば、今日ギュスターヴってあまり海に入って遊んでなかった気がする。もしかしたら海が好きじゃなかったりするのかな?それだったら悪いことしちゃったかも。
「海は好きではありませんか?」
ここは、みんなを誘った責任上、きちんと聞いておこう。
「ん?好きだけど、どうして?」
「いえ、お茶会は楽しまれていたようですが、それほど海に入っていなかったような気がしたものですから、気になりまして」
「あ、ほんとだ。そう言われてみれば、そうかも」
「海がイヤなのを我慢して私たちについて来てくださったのかと思ったのです」
そう私が言うと、焦ったみたいにギュスターヴが首を振った。
「違う違う!ごめん、気を使わせてしまったね。海は大好きなんだけど、けっこう行き慣れているからね。普通の遊び方はちょっと飽きたな~て思ったから、お茶会を開いたらどうかなと、ひらめいたんだ」
ははあ・・・だからあんまり泳いだりしなかったんだ。もうすでに極めつくしてしまっているがゆえに、一般的な海水浴の楽しみ方では物足りなくなってしまったと、そういうわけだな。
ふむ・・・ゲームやっていた時は、そんなに感じなかったけど・・・もしかしてギュスターヴも少し変わった人かも。ただ泳ぐだけじゃつまらないだなんて、なんとも貴族っぽい悩みというか、なんというか。
本音を言えば、『普通に遊ぶのに飽きたとか贅沢なこと言ってんじゃない!』と啖呵を切りたいところだけど、悪気があるわけではないし、あんまり小言みたいなこと言ってもな。
「どう?お茶会は楽しめた?」
海で泳いで疲れた時に、食べ物や飲み物を用意してもらっていたのは、とてもありがたかったので、楽しめたのは間違いない。
「ええ、のんびりできてよかったです」
「ほんと?よかった~みんなも喜ぶよ」
みんな?さっき、ひっそり隠れていた執事さんやメイドさんたちのことかな?
ギュスターヴは、私にお茶会が楽しかったと言われたのが、とてもうれしかったみたいだ。
「いやあ、我ながらいいアイデアだなと思ったんだ。浜辺でのんびりティータイム。泳いで疲れたら休憩にもなるし、いいかなって」
「みんなが休めるように、用意してくれたんですか?」
「そうだよ。これでも、一応王子ですから」
ギュスターヴは冗談っぽく笑って、胸を張った。
「自分がやりたかったから、だけじゃないんですね」
「あ!もしかしてぼくが自分のことだけ考えてると思ってる?・・・それは心外だなぁ。ほかのみんなも楽しめるようにしたいなとか、これでも昨日、家でいろいろ考えたり、会議したりしたんだよ」
「会議?」
なんかおおげさなワードが出てきたな。
「そう・・・あれは、大変だった・・・」
どうやら、今日のお茶会は思っていたよりまじめに、そしてすごい大規模な話し合いの末に決定したようだ。
「でも、どうしてそんな大ごとになったんです?」
「昨日ぼくが、友だちと海へ行くんだ~て執事の一人にポロっと言ったら、『それはめでたい!』って家中が大騒ぎになって、ぼくがなにかしたらどうかって話になってね」
ギュスターヴは苦笑している。なにやら人知れぬ苦労があった様子。ていうか、家族全員ってことは王様も来たのか。それは、すごい会議だ。
「もう白熱しちゃって。テーブルは倒れて、お皿が宙を飛び交ったりしてねえ・・・」
なにがあったの!?いったい!?
「どうしてそんなことに?」
こわごわ聞いてみる。
「いやあ、なかなか意見がまとまらなくて、つい興奮した父さんがお皿を投げちゃったんだよ。怒ったりしたわけじゃなくて、『お茶会なんかいいんじゃないかあ!』て盛りあがっちゃって、その勢いでポイッて」
「テーブルが倒れたのは?」
「兄さんが、自分の考えたことを説明するために、『ええい、これじゃあ狭い!』とか言い出して、テーブルを倒して、なんか大きな紙を広げはじめてさ・・・」
ケンカでもしたのかと思ったけど、どうやら思ったよりも平和だったらしい。でも、お皿を投げるのは危ない気がするなあ。
「えっと・・・ケガ人とか出ませんでした?」
「大丈夫。みんな慣れているし、父さんは投げる用の割れないお皿を使ったから」
投げる用のお皿とは、生まれてはじめて聞く言葉である。しょっちゅうこういうことがあるのかな?
どうやら、ギュスターヴの家はにぎやかな家庭らしい。
「お茶会と決まるまでに、そんな苦労があったとは・・・どうもご苦労様です」
細かいことは分からないけど、なんか大変そうだったので、とりあえず労っておく。
「いやいや。ぼくは大したことしてないよ。それより、今日は誘ってくれてありがとう」
ギュスターヴは立ちどまって言った。
「こちらこそ、来てくださってお礼申しあげます」
「ぼくってさ、けっこうみんな誘うのを躊躇するらしいんだ。まあ、立場的に遠慮するというか、そういう感じ」
少し、その横顔は寂しそうだ。
「ああ・・・なるほど」
「でも、エリーゼはそんなこと関係なく・・・普通に海水浴へ行きませんか?って言ってくれたじゃない?それが、うれしかったんだ」
「ただ厚顔無恥なだけですけどね」
「アハハ!自分で言っちゃうんだね。でも、その遠慮のなさが、ぼくにはありがたいなって思ったんだ」
こちらを向いて微笑んだ。う~む・・・夕日に照らされて、なかなか絵になる。
「じゃあ、これからもお誘いしますね」
「うん、バンバン誘って!」
ギュスターヴは明るく笑った。
「お~い!なにやってんだ!置いてくぞ~」
アルベルトが振り向いて叫んだ。
「うん!今行く!さ、行こう」
「はいは~い」
私とギュスターヴは、とまって待っていてくれているみんなの元へ走って行った。




