それでは、張り切ってどうぞ!
のっしのっしとマルゲリータさんがこっちへ来る。
「うわあっ!!!」
エドワードは、さっきお腹の辺りに一発食らった記憶がフラッシュバックしたのか、私の後ろにサッと隠れた。いつもの高飛車な態度はどこへやら。完全にビビッている。
「大丈夫ですよ。怒らせたら殴られますけど、食われはしません」
逃げないよう、私はエドワードに穏やかな口調で言い聞かせる。
「殴られるだけで嫌だろ、普通!しかもあの腕だ!あれ!」
ふむ・・・マルゲリータさんのたくましい腕を改めて眺めてみる。カッコいいなあ。
「おい・・・見とれてないで、なんとかしろ」
「はいはい、分かりました」
せっかくなので、事情を話して協力してもらおう。
「なにしてんだ?そこで」
マルゲリータさんは私たちの前まで来ると尋ねてきた。
「実はエドワード様が勇気が出ないので、協力して差しあげようかと」
「・・・へえ?もう少し詳しく聞かせろ」
グイッと顔を近づけてきた。その鋭い目が私を見つめてくる。おおっ!ちょっとトキメク。
私は、マルゲリータさんに説明する。
「オルガ様に声をかけようとしているのですが、照れ屋くさくて、できないそうです」
「は~なるほど」
呆れた顔でマルゲリータさんはエドワードを見る。
「な、なんだジロジロと!失礼だ!」
ブーブー言ってるけど、エドワードの声には力がない。出会った時の衝撃がすごすぎて、どうもマルゲリータさんには強く出られないようだ。
「情けねえ・・・うちのご主人様もかわいそうに」
「し、仕方ないだろう」
今度は、小声でなんかブツブツとつぶやいていた。
このまま話をしていても、らちが明かないので、私は言った。
「ま、とにかくオルガ様に話しかけて、後はその場の勢いでいきましょう」
「おう!そうしろ。めんどくせえから、ほれ行ってこい!」
と、マルゲリータさんに突き飛ばさせるみたいに背中を押され、エドワードはよろめきながらオルガの前へ。
「わっとととと・・・」
オルガがエドワードに気づいて、振り向く。
「珍しいわね、あなたからくるなんて。まあ、どうせ私にネチネチなにか言いに来たんでしょう?あなたが口を開くと、ロクなことにならないのだから」
ジロジロ疑いのまなざしでエドワードを見ている。
「い、いや別に変なことを言いに来たわけではない。その~つまりだ・・・あ~・・・う~む」
上を向いたり下を向いたり、腕を組んだりと挙動不審である。
「なに?用事があるから来たんでしょう?さっさと言いなさいよ!」
「え!?あ~そうだな。うん・・・用事のような・・・そうでないような・・・」
「はぁ!?」
少し離れたところで私とマルゲリータさんは見ていたけど、なんか一向に話が進んでいかないし、オルガはエドワードのよく分からない行動にイライラしはじめている。
マズいぞ。このままだと、またケンカだ。
マルゲリータさんとアイコンタクトで合図して、二人の元へ歩いていく。
「どうも・・・恋のキューピッドです」
私はガシッとエドワードの右肩をつかむ。
「恋のキューピッド、ナンバー2だ」
左肩をマルゲリータさんがつかんだ。キューピッドというワードと、そのゴツい見た目はアンバランスだが、なんか頼もしいし、そのギャップは私的にはむしろアリである。
「わ、なんだ貴様たち!?」
エドワードはビックリしていた。
「照れ屋なエドワードさんのために助太刀に来ました」
「その通りだ。おい!オルガ様に言うことあんだろ?さっさと言え」
このままだと、いつまで経っても言えなさそうなので、背中を押してあげよう。だんだんと二人で肩をつかむ力を強くしていく。
「いだだだだ!言う!言うから!」
「ほれ。ケガする前に言え」
マルゲリータさんは楽しそうだ。絶対この人、Sだな。
「こいつ・・・じゃなかった。エドワード様から、なにかお話があるそうです」
私がエドワードに目で合図すると、
「えっ!あ・・・まあそうだな・・・」
エドワードは、緊張でコチコチになりながら、
「そ、その・・・みみ、水着が・・・だな・・・」
すごい小声で話している。
「な、なに?」
オルガはエドワードからなにを言われるか警戒して、身構えている。う~ん、やはり信用されてない。
「そ、そこそこ・・・似合っている・・・ような・・・気がしないでも・・・ないような」
「ハッキリ言いましょうか~~婚約者殿~~?」
マルゲリータさんが力を強めていく。ミシミシとエドワードの肩から音が鳴った。
「あだだだだだ~~!」
「頑張ってください~」
私がエールを送ると、エドワードは深呼吸して気持ちを落ち着かせ、口をふたたび開いた。
「オ、オホン!・・・・その水着・・だが・・・まあ、その・・・なんだ。な、なかなか・・・いい・・・んじゃないか?と、特に色が・・し、シャレ・・・ている気がするぞ」
だんだん声が小さくなって、最後はなんかムニャムニャ言ってるだけって感じだけど、肝心なところは伝わったはず。
「え・・・?」
予期せぬ言葉に、オルガは面食らった様子だ。
少しの間、黙ったままだったけど、やがて急に早口で話し出した。
「ああああ当たり前よ!わわ、私が着ているのだから、いい、いいものに決まっているわ。いま、いまい今さら気づくなんて、鈍いわね!」
胸を張って、別に褒められてもうれしくない的な感じをかもし出してる。
でも顔は赤いわ、なんか視線が定まってないわ、壊れたスピーカーみたいに言葉が上手く出てないわで、動揺しまくっているのは明らかである。
マルゲリータさんは、私を肘でこづいてヒソヒソ声で、
「とりあえず、上手くいったか?」
「まあ二人とも素直じゃないですから、これくらいでよしとしましょう」
うなずき合う。
「では、私たちはお邪魔そうなので、ここらへんで失礼します」
「ああ、ごゆっくり」
そう言いながら、私とマルゲリータさんは、オルガとエドワードを残して後片づけのためにその場を離れた。
片づけながら観察してみると、近すぎずと遠すぎず、微妙な距離を保ったまま、視線を合わせたら負けなゲームでもしているみたいに、あっち見たりこっち見たりして、お互いの顔を見ないようにしている。
目が少しでも合いそうになると慌ててそらして、なんだか忙しそうだ。
・・・なにやってんだろ。まあ、でもケンカもしてないようだし、オッケーと言えるな。
「普通に仲良くできねえのか?あの二人は」
マルゲリータさんがため息交じりにこぼした。
「まあ、ああいうもどかしいところもいいんですけどね~」
私は、ああいう初々しいのは嫌いではない・・・いや、むしろ大好物なので、これはこれでよし!
「そうかぁ?クソ面倒なだけだろ・・・」
「面倒くさいのは否定しませんけど」
「やっぱそうだよなぁ・・・」
「ま、イチャイチャを見せつけられるよりは、あれくらいの方が微笑ましくていいんじゃないですか?」
「・・・ハハッ、それもそうだな。ま、仲良くやってくれりゃ、あたしはそれでいい」
マルゲリータさんは、まだモジモジしているオルガとエドワードの方へ視線を向けた。
・・・遠くから二人を見守るその目は、普段よりもちょっとだけ優しく見えた。




