細かいことは、気にしない方向で!
さて、私としてはマルゲリータさんとみんなが打ち解けて、気分上々なわけだけど、一つうっかり説明し忘れてたことがあった。
「で、このシャチなんですけど」
私は口を開いた。すると和やかな雑談の声がピタッとやんだ。一斉に視線がこちらへと向く。
「そうだよ!私たちひどい目にあったんだから!!なんなのこいつ!」
イングリッドはアルベルトを盾にしながら指差した。
「ああ、これか?これはな・・・」
と、さっき私にしたように、マルゲリータさんがもう一度、シャチとの出会いについて話をした。
話を聞き終えてしばらく、みんな口を開けたままポカ~ンとしていた。
やがて、沈黙を破ったのはアルベルトだった。
「うおお!なんか、なんか分かんねえが、とにかくすげえ!」
猛烈に興奮して大声をあげている。
「なんかすげえ感じの人が、すげえのに乗って来たってことは・・・つまりそれは、すげえってことだ!」
とにかく『すげえ』とのこと。
「はあ・・・いろいろ言いたいことあるけど考えても無駄なようね」
オルガも、やはりマルゲリータさんの主人なだけあって、飲み込みが早いというか、諦めが早かった。まあ、私も『なんで?』とか、『どうやって?』とか、そういう細かいことは、もうどうでもいいんじゃないかなと、そういう境地に達している。
「う~ん・・・とりあえず、シャチと仲良くなって乗せてもらっていたら、私たちにぶつかっちゃったってことですかね?」
アリスが言った。言ってる間、ず~と不思議そうな顔をしている。
「そうらしいね。なんか信じられないけど、さっき実際に見たもんなあ。今も、すぐそばにいるし」
ギュスターヴが浜辺でのんびりして横になっているシャチに目をやった。
「いいじゃねえか、なんでも。危なくなったら、俺がなんとかするぜ!」
しびれを切らしたように、アルベルトが大きな声を出した。
「そうだ。あまり考えていても仕方がない」
エドワードがお腹をさすりながら立ちあがった。ずっとマルゲリータさんから食らった拳のダメージでうずくまっていて、たった今、復活したのである。
「そうそう、ほら、泳ご!日が暮れちゃうよ」
イングリッドの呼びかけで、マルゲリータさんとシャチがどういう関係なのかという永遠の謎から解放され、みんな海を楽しもうと気を取り直した。
「お~い。さっき、ぶつかっちまった詫びだ。こっちへ来てくれ」
マルゲリータさんが海から手招きしてきた。なんだろう?
みんなは、おそるおそるマルゲリータさんのところへと歩いて行く。
「なにするんです?」
私が尋ねると、
「すぐに分かる」
ニヤリとマルゲリータさんは笑った。
私たちは、海の上をすごいスピードで進んでいく。
マルゲリータさんを先頭に、シャチの背中にみんなで乗せてもらっているのだ。しぶきをあげながら、ズンズンと、まるで海を切りさいているみたいに泳いでいる。
「ひゅ~~~~すごいすごい!」
両手をあげて、イングリッドがはしゃいでいた。髪を風になびかせて気持ちがよさそうだ。
「気持ちいいな~」
アリスもうっとりと目を細めている。
みんなとても気に入ったようだ。自分で泳がなくていいのが、ズボラな私にとっては非常に助かる。
まさかマルゲリータさんと一緒に、シャチに乗って泳げるなんて・・・しあわせだ。
「いやあ、いい眺めだなあ・・・ん?・・・あれって・・・?」
景色をのんびりと楽しんでいたギュスターヴが何かを見つけたらしい。海面に目をやると、大きなヒレが出ている。
どうやら、サメがいるようだ。
「マルゲリータさん、サメです」
私が注意を促した。
「ほう・・・」
それほど遠くないところに泳いで遊んでいる人もいるから、このまま放っておくのは危ないな。
「どうします?」
「よし、あいつを追い返すぞ!」
マルゲリータさんがシャチの体を手でトントンと軽く叩くと、一気に加速する。
「どわあ~~~~~!!!」
みんな振り落とされないように必死でつかまった。
思わぬイベント発生である。
もしかして、今から私たちサメと戦うのか!?ちょっとまだ心の準備が・・・。
そう思っているうちに、どんどんサメに近づいて行く。追い返すって言ってたけど・・・どうやるんだろう。
「マルゲリータさん」
「なんだ?」
「追い返すって、いい方法でもあるんですか?」
「あ?見てろよ。こうするんだっ!」
一切減速せず、突っ込んでいって・・・
ド~~~ン!と、そのまま体当たりをぶちかました。
「ぎゃ~~~~!」
いきなりすごい衝撃を受けて、みんなは悲鳴をあげる。
「ん?」
マルゲリータさんは、相変わらず平然としている。
さて、こっちからの先制攻撃を受けて、サメはどう動くのかな?と、ひょいと顔を出して様子をうかがってみる。
・・・・・・・
・・・・あれ?サメがいない。たしかにぶつかった感覚はあったから、間違いなく当たったはずだけどな。
隠れてたりしてるのかな?
ちゃんと見つけておかないと・・・そう思って見回してみる。すると、はるか向こうの方の空へと飛んでいく大きな物体が見えた。
え・・・もしかして・・・あれか?はっきりと判別できないけど、大きな体とヒレみたいなものがついているのが確認できる。
サメは反撃する機会もなく、いきなり体当たりをかまされて遠くへと吹き飛ばされたのだった。
「よし、いっちょあがり」
マルゲリータさんは部屋の片づけでもしたみたいな、そんなリラックスした調子で言った。
・・・・・・勝負は一瞬だった。いや、勝負にすらならなかったと言った方がいいかも。
手に汗握る攻防とか、みんなで協力し合って知恵を働かせて撃退するとか、そういう熱い展開を心のどこかで期待していたんだけど・・・あまりにもあっけなく終わった。少し残念な気もする。
いや、いいんだけどね?みんな無事が一番だし、ギリギリの勝負になったらケガする人も出るかもしれないし、命が危なくなるかもしれないし。
なにごともなかったかのように、シャチはUターンして悠々と泳いでいく。さっきまでの緊迫感がウソみたい。ま、緊迫感があったのは、ほんとに一瞬だけだったけどね!
シャチの上でキョトンとしたまま、私たちはお互いに顔を見合わせた。みんな、あんまり見たことないくらいおマヌケな表情をしていた。




