なんか来た!
こんなパニック映画みたいなイベントあったっけ!?記憶にないぞ。
私がオルガの運命を変えようとしていることと、なんか関係しているのかも。
もしかして、オルガがいい感じでみんなと仲良くなりはじめているから、あまりにも雑すぎる強制バッドエンディングが発生しているとか?
クソゲーか!?
そんなことを考えている間にもシャチはどんどん近づいてくる。
「どどどどど、どうしよ~!?」
イングリッドは潜ったり、浮かんできたりを繰り返している。要するに、パニック状態である。
「おおおおおおお、落ち着きなさい!こういう時は深呼吸よ。ヒーヒーフー」
さすがのオルガもいつもの余裕がない。妊婦さんがやる呼吸法で落ち着こうとしているもん。たぶん、冷静な人はそういうの、やらない。
「うお~~~逃げんぞ!速く!」
アルベルトたちが爆速で来た。あたふたしているイングリッドとオルガをなだめながら、みんなで浜へと戻る。まだかなり遠くにいるから大丈夫だろうけど、ジワジワと距離が詰まっているからあんまりのんびりもしてられない。
みんな急いで泳いでいく。怖いけど、どれくらい接近しているのか確認しないとマズいので、私はチラッと振り返った。
すると、シャチの上になにやら人影のようなものが見えた。
・・・ん?だれか乗ってる・・・?
そう思った瞬間に、巨大シャチは体をググッと持ちあげると、勢いよく飛びあがった。
アッと息をのんでいるうちに、その白くてツルツルしたお腹が、私たちめがけて降ってきた。爆発したみたいな、けたたましい音とともに、シャチが私たちのすぐそばに着水した。
バシャーーーーーーン!!!!!!
その衝撃で、私たちみんなは思いっきり吹っ飛ばされた。
「ぎゃ~~~~!」
「わ~~~~~!」
「ええ~~~~!」
「なんなのよ~~~!」
「ぬおおお~~~~~!」
「・・・・・・・・・」(腕を組んだまま、無言で飛ばされているのが、私である)
それぞれの悲鳴が、夏の青空の中に吸い込まれていった。
空が青いなあとか、なんでこんなことになってるんだっけとか飛ばされながら考えているうちに、目の前が真っ暗になった。
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
どれくらい時間が経っただろう。口の中に入ったザラザラとした砂の不快感で目を覚ました。まぶしい。
そうだ、私たちは海水浴に来ていたんだ。みんなでのんびりプカプカしたり、男子はレースをして楽しんでいたのだ。
意識が鮮明になっていくにつれて、ぼんやりした視界がだんだんはっきりしてくる。すると私の目の前に、なにかこんもりした塊が見えてきた。
シャチのバカでかい口だった。
「・・・・・・・」
声が出ない。脳みそが処理できないというか、『なにかの間違いかな』とか『巨大なぬいぐるみ?』とか、グルグルといろんなことが頭に浮かんでは消えていく。
半分起きあがった姿勢のままじっとしていると、
「よお~楽しそうじゃねえか、エリーゼ」
聞き覚えのある声がした。声のする方へと、重い頭を動かしてみる。
私の目の前に太陽の光を背にして、シャチのすぐ横にカッコよく仁王立ちしている人がいた。
その人は、わがアルジェリー家のメイド長、マルゲリータさんだった!
迷彩柄の動きやすそうな水着を着ている。似合ってるなあ。いやあ、なんでいるの?とか、この状況はなに?とかいろいろ言いたいんだけど、ともかくその姿のカッコよさに目がいってしまった。
「あの~なんでここに?」
口の砂を吐き出しながら尋ねた。
「ん?ああ・・・あたし休みでな。てめえがオルガ様たちと出かけたって聞いて、暇だったし行ってみるかってな」
なるほど、海に遊びに来てたのか。声かけてくれればいいのに。
でもそれとマルゲリータさんが、なんでシャチの横にいるのかが結びつかない。
「このシャチの上にだれか乗っていたような気がしたんですけど、それって・・・」
まさかと思いながら言うと、
「ああ、それあたし」
平然と言った。
「へ?」
「あ?だから、あ・た・し」
聞こえなかったと勘違いされている。聞こえてはいるけど、意味が分からないだけなんだ。
「どうしてシャチに乗ってたんです?」
「ああ、なんとなく海に来たが、オルガ様たちの邪魔するのも悪いかと思ったんで遠くの方で泳いでたんだ。そしたら出会った。そんだけ」
マルゲリータさんはケロリとした様子で言った。なんか、シャチに乗れるようになるまでのプロセスが端折られすぎていて、よく分からない。すごくフレンドリーなシャチに出会って『おう、乗っていきねえ!』とか言ってくれるとか、そんなわけはないだろうし・・・。
「え~と、普通そんなカジュアルに乗せてくれないと思うんですけど・・・」
と、当たり前すぎることを指摘してみる。
「そうか?なんか目ぇ見たら乗せてくれたが」
テレパシー的なやつ?それとも強き者同士、アイコンタクトで通じ合ってたりして。マルゲリータさんだと、その可能性が一番ありそうだ。
おっと・・・そういえば私と一緒にぶっ飛んだみんなは無事かしら。目の前のシャチとマルゲリータさんに気がとられて、うっかり忘れていた。シャチの話はまた後ほど聞くとして、みんなはどこだろう?
まず、私のすぐ横に大の字になって目を回しているイングリッドがいる。見たところ、大きなケガとかはなさそう。
一人目は無事、と。
少し離れたところに目をやると、だれかが作った砂のお城に頭からズボッと突っ込んで気絶しているらしきアルベルトとギュスターヴの二人がいた。エドワードも隣で、でんぐり返りを失敗したみたいな妙ちくりんな格好で倒れている。
え~と・・・無事かどうかは分からないけど、とりあえず発見。
オルガとアリスはどこだろう?
そう思って右を向くと、数メートル先の砂浜の上に二人は寝ころんでいた。
・・・・・・・
オルガがアリスに覆いかぶさるような姿勢で、二人とも体を寄せて気を失っているようだ。
もしかして、オルガがアリスをかばってあげてたのかな?もしそうだとしたら、なんかグッとくる光景である。特にオルガファンの私的には、オルガの隠された優しさが垣間見える場面だ。
「なんで目ぇ、かっぴらいてんだ?」
マルゲリータさんが、不思議そうに話しかけてきた。
「ご主人様の美しい姿を記憶に焼きつけませんと」
「グズグズしてないで、全員起こすぞ。手伝え」
マルゲリータさんが、首をコキコキ鳴らしながら歩きだした。
そっか、みんなを起こさないといけないのか。
はあ・・・気を失って目が覚めたばかりなのに。
「お~い、さっさと来い」
「はいは~い」
私は立ちあがって、マルゲリータさんの後を小走りで追いかけていった。




