今度こそのんびりと
「やあ、いらっしゃい」
ギュスターヴは、紅茶をのんびり飲んでいる。テーブルにはご丁寧にテーブルクロスが敷いてあって、豪華なティーセットがその上にある。巨大パラソルで日差し対策もバッチリ。
いつの間にこんなもの持ってきたんだろうと思って辺りをキョロキョロ見てみると、少し離れたところにいる執事っぽい服のおじいさんとメイドらしき女の人と目が合った。
その人たちに向けてグッと親指を立ててみる。すると、こっちに気づいて『食べてください』とジャスチャーした後で、サッと姿を消した。
・・・・・忍者かなにかかな?
『ご苦労様です』と心の中で労って、遠慮なくいただこう。
「は~生き返ります」
アリスが紅茶を飲み干してため息をついた。さっきまで死にかけていたので、なんとも言葉に説得力がある。椅子に座って飲み物を飲んで、だいぶ元気になったみたいだ。
「体調管理もできないとわね。ふん、とんだ未熟者ね」
オルガは、アリスが元気になってきたと分かると、いつも通りチクチクと毒を吐く。
「すみません・・・」
まあ、オルガの言うことも正論っちゃ正論なので、アリスは素直に反省している。元凶はイングリッドだから、アリスのせいじゃないと思うけど、言いわけをしないのが、アリスなりのこだわりなんだろう。
「そんなに責めたらよくないよ~アリスも悪いと思ってるからさ」
クッキーで口をいっぱいにしながらイングリッドが話しかけてきた。
「だれのせいでこうなってると思ってるのよ・・・」
オルガの声には、かすかに怒りがこもっている。
「へ?だれって・・・う~んと・・・」
イングリッドはまじめな顔で考える。少し考えた後で、
「・・・・・・だれ?」
あれ?イングリッドってこんなに察しが悪い人だっけ?周りは見えるけど、自分は見えないタイプなのかしら?
「あなたに決まってるでしょう!!!」
「うそ~~~!?」
「明々白々よ!」
ちゃんと反省してもらわないと、アリスがおえ~と吐いてしまう危険性があるので、私からも言っておこう。
「イングリッド様のせいです」
分かってないようなので、ハッキリと言葉にする。
「え~~そんな~大したことないでしょ~?」
ヘラヘラしている。
「大したことないですって?ほう~?本当にそう思うのね?へえ~」
オルガの額に青筋が立っている。
・・・ヤバい。このままだと大爆発する。
急いでイングリッドに小声で言った。
「これ以上、オルガ様が怒るとマズいです」
「へ!?マジ・・?」
「マジです。半殺しまで覚悟してください」
ほんとはそこまで怒らないだろうけど、誇張してビビらせとこう。
「は、半ごろ・・・・!?」
よし、怖がってるな。
「しっかり謝れば分かってくれますので、全力で謝りましょう」
「わ、わかった!」
オルガの方を向くと
「あ~えっと・・・その~・・・ごめん」
イングリッドは、こわごわ言う。
「謝るのは、私にじゃないわ」
オルガは淡々とアリスを指差す。
「あ・・・そうか。い、行ってくる!」
イングリッドはダッシュでアリスのところへ行って、ペコペコ頭を下げた。
「ごめんね。やりすぎちゃって~」
「もう大丈夫だよ。今度は、もう少し控えめにしてね」
「もちろんだよ。任せといて!」
どうやらうまく謝れたみたいだ。よしよし、ひとまず一件落着かな?
私たちはお茶を飲んだり、椅子に座ってたっぷり休んだ後、ふたたび海へと向かった。
さっきはアリスを救出するので忙しくて、あんまり遊べてないからね。
「は~」
アリスはすっかり元気になって大きな浮き輪のうえで横になり、のんびりしている。
イングリッドが手を伸ばして回したそうにしてたけど、オルガがギロッと睨んだので大人しくなった。
私たちは、ゆらゆらと海のうえで揺られていた。
オルガはぽつりとつぶやいた。
「不思議な気分・・・」
「たまにはこういうのも、悪くないですよね?」
私が声をかけると、
「ええ・・・そうね・・・悪くないわ」
目をつぶって、波に身を任せる。なにをするわけでもないけど、なんだかとても贅沢な気分だ。
「のんびりするね~」
イングリッドも隣にやって来て、体を横たえた。
四人で一列に並んでいる。
すごく癒されるなあ・・・。油断すると寝ちゃいそうなくらいだ・・・。
「よっしゃあ!やろうぜ!」
そんないい感じのムードをぶち壊したのが、アルベルトである。どうやら男子は、沖合にある岩を目指してレースをするらしい。
「いいね、やろうよ」
ギュスターヴはすぐに、ニコニコして返事をした。彼はけっこうノリがいいのだ。
「くだらん。競争なんて野蛮人のやることだな」
エドワードはあんまりやりたくなさそう。しかし、スポーツをやっている人全員を敵に回しそうな発言である。
「ん?なんだ?もしかして、遅いのか?」
「な、なに!?」
「そうか~~悪ぃな誘っちまって。分かった!お前抜きでやろう。気にすんなって!泳ぐのが遅くても大丈夫だ。元気出せよな!」
すごい煽っているように聞こえるけど、そうじゃなくて、たぶん天然だ。悪気は一切なく、本当に誘って悪かったと思って元気づけようとしているのである。
「泳ぐのは遅くない!そこまで言われたら黙っていられん。参加するぞ!」
「いいのか!?無理してないか?」
やっぱり挑発している風にしか聞こえないけど、もちろんこの言葉も、エドワードを本気で心配しているのである。
「してない!!!貴様を絶対打ち負かしてやる!」
エドワードはやる気満々だ。
「そうか?よ~し、じゃあやろうぜ。途中でやめても大丈夫だからな?」
と、挑発した本人は、なんでエドワードがやる気になったか全然気づかないままである。
「貴様~~~~!」
普通に聞くと優しい言葉なんだけど、今のタイミングだとさらにエドワードのボルテージをあげてしまう。
そんなこんなで、一名だけが異様にやる気満々の状況でレースがはじまった。
三人並んで位置について一斉にスタート!
アルベルトはさすがに速い、そして、すごい水しぶきをあげている。だいぶ他の人に迷惑だけど、悪気はないので許してあげてほしい。
たぶん、泳ぎ方としては非効率的なんだろうけど、パワーで押し切っている感じだ。
その後ろから、すごい形相で追いかけているのがエドワード。滑らかな泳ぎでなんとかついていっている。
そして最後がギュスターヴ。エドワードの顔を思いっきり見て笑いだしてしまい、泳ぐどころかおぼれそうになっている。
・・・危なそうだったら救助しに行こう。
レースは二人の戦いになっている。最初は余裕で一位だったアルベルトだけど、荒っぽい泳ぎのせいでスピードが落ちてきた。
そこを無駄のないフォームで、距離を詰めていくエドワード。どんどん差が縮まっていく。
おお!すごい。そろそろ追いつくんじゃないか?
そう思って見ていると・・・
急に周りから大きな声が聞こえた。私たちのレースを見て、他の人たちも楽しんでるのかなと思ったけど、なんか悲鳴みたいだったな。
「な、なに、あれ!?」
イングリッドが叫びながら指を差すと、遠くから黒い物体が近づいて来るのが見えた。
あれは・・・・・・
シャチぃ!?
そう、どデカいシャチがこっちに向かって来ているのであった!




