イングリッドとアリスの番が来た
「それでは、イングリッド様張り切ってどうぞ」
私はカーテンを開いて、うやうやしくイングリッドを試着室へと導いた。
「よし!見ていなさいよ!」
オルガに対抗心をメラメラと燃やして、鼻息荒く試着室へ。こうやって眺めるのは楽しいな~。
それぞれのファッションの好みが分かって、ちょっと理解が深まる気がする。
「たあ、とりゃ、うお~~~!」
ただ服を着替えるだけなのに、気合が入りまくっている。どこにそんな気合を込める瞬間があるのかは、謎である。
「どうよ!これ!」
勢いよく、イングリッドが飛び出して来た。
おおっ!なんだか彼女らしいスポーティな印象の動きやすそうな水着だ。
ビキニなんだろうけど、胸の部分が大き目で、紐も太くて丈夫そう。作りが全体的にしっかりしている。ガッチリと安定感抜群って感じで、活発な彼女にピッタリ。
明るい黄色なのも、私としてはポイント高い。自分が着る場合は選ばないけど、イングリッドには、とても合っている。
「なんだか・・・そのまますぎないかしら?」
オルガは、ジーと見た後でボソッとこぼした。
・・・そこは『なかなか悪くないわね』とかでいいんじゃないかしら?
「なによ!そのままって!」
「意外性がないと言うか・・・平凡と言うか・・・」
イングリッドの体を上から下まで、じろじろと無遠慮に見ながら言った。
「は!?なにそれ!」
雰囲気がピリつく。
オルガには、一瞬で場を険悪にする才能があるかもしれない。
・・・使いどころがだいぶ限定的なスキルだなあ。
よし、ここは軌道修正して、なんとか和気あいあいのムードに持っていきたいぞ。
「イングリッド様、これは翻訳すれば、イメージにピッタリ合っていると、そういうことです」
私は会話に、さりげなく割り込む。
「え?なんだ。そゆことなの?」
イングリッドの表情が和らぐ。意外性がないっていうのは言い換えれば、そんなに悪くないとも言えるからね。
「似合ってはいますよね?オルガ様」
私はオルガに尋ねる。
「へ!?その・・似合わなくは・・ない・・けど」
なんとも歯切れが悪い。そっぽを向いてゴニョニョと言ってる。
似合っていることは、オルガも認めているようだ。それなら普通に『似合ってるわよ』って言ってあげればいいのに・・・・・素直じゃないんだから。でも、そこがかわいらしくはある。
「なになに?聞こえないけど~」
イングリッドがしつこく聞いていく。
「う、うるさいわね!そこそこよ!そこそこ」
「そりゃど~も」
よかった~。一瞬、重たい空気になりかけたけど、なんとかムードが穏やかになった。
「では、続いてアリス様もどうぞ」
「あ、はは、はいっ!」
アリスは緊張の面持ちで、更衣室へ向かう。足と手を同時に出して、カクカクと歩いている。
「アリス様」
私は声をかけた。
「へ!?な、なんでしょうか?」
「私を見てください」
まだ着替えてないので、いまだに私は海藻のお化け状態である。
「これ以上に変な格好はそうそうありませんので、安心して着替えてきてください」
私がなぜ、こんな珍妙な姿でいるのか・・・その理由は、みんなが気楽な気持ちで着替えられるようにするためである。
たんにふざけていて、今、たまたまいい感じの理由を思いついたわけではない。
「ふふ、そうかもしれませんね」
アリスは微笑んだ。ちょっとリラックスできたかな?
「じゃあ、着替えてきます」
「はい、ごゆっくり」
カーテンが閉まった途端、イングリッドが口を開く。
「ふふん、アリスは絶対かわいいから、覚悟しておきなさいよ!」
「わっ!イングリッドちゃん。あんまりハードルあげないで!」
「大丈夫!自信もってこ!」
アリスは、急にハードルをあげられて、試着室の中でワタワタしているようだ。
「ふん、まあお手並み拝見ね」
オルガは余裕の態度だけど、微妙にソワソワしている気がする。なんだかんだ、この見せ合いっこを楽しんでいるらしい。
軽く話をしながら待っていると、
「あ、あの~着替えました」
遠慮がちな声が聞こえた。準備は整ったようだな。
カーテンがそろそろと開いていく。
そこには、フリルのついた薄ピンクの水着に身を包んだアリスが、恥ずかしそうに立っていた。
ふむふむ・・・これは、とてもよい!
まず淡い色がアリスの雰囲気に合っている。水着についているフリルは、それほど大きくないので、かわいさも主張しすぎてない。
「どどどど、どうでしょう!?」
さっきリラックスしてたけど、緊張がぶり返してきたようだ。
「かかかか、かわいいっ!」
イングリッドもどもっちゃってるけど、これは緊張じゃなくて、あまりのかわいさに興奮状態になっている。あっちからこっちから様々な角度で、アリスを見まくっている。
「そういう感じなのね・・・ほう・・・ふむ・・・」
腕を組んでいるオルガ。パッと見ると、いつものように冷静に思えるけど、なんか視線が定まってない。ちょっとアリスを見た後、目をそらして、またチラッと見たりしている。
「どうぞ、オルガ様。存分に凝視しちゃってください」
「しないわよ!」
「素直になりましょう」
「違うわよ!まあ、及第点くらいはあげてもいいかなって、それだけよ」
ごまかしているけど、認めてるんじゃない。
「変じゃないですかね?」
アリスはあんまり自信なさそうだ。
「オルガ様、アリス様にどうぞ感想を述べてあげてください」
「は!?どうして私が・・・」
「及第点とおっしゃったので、その理由を教えて差しあげては?貴族として、迷えるアリス様にぜひアドバイスを」
「し、仕方ないわね・・・・・・耳かっぽじって聞きなさい。まず色ね。派手すぎないところはプラス評価。自分に合うものを選んでいるようね。フリルの大きさもバランスがいいわ。ただ淡いピンクというのもありだけれど、あえてもう少し主張の強い色でもおもしろいと思う。それと、全体的な形の話だけど・・・」
ん?なんか、長いような・・・?
あ・・・
しまったぁ~~!
この前、服屋へ行った時のことを忘れてた。あの時は、オルガが気合満点で、私とアリスの服選びに、何時間もかかったのだ。
こりゃマズい!
「やっぱり、あなたの髪の色にはこっちにあるようなものが合うかも・・・・」
と、オルガはもう歩き出している。アリスは私の方を向いて
「あの・・・もしやこれってこの前みたいな・・・」
考えたくなかったが、たぶん私たちは、オルガのやる気にまたしても火をつけてしまったようだ。
「なにしてるの!さっさと来なさい!」
オルガは棚から水着を出しながら、こちらを見もせず言った。
「ん?なになに?どしたの?」
イングリッドは、まだオルガの怖さを知らない。クリクリとした目で私とアリスの暗い顔をのぞきこんでいる。
私は、大きく深呼吸してイングリッドの方を向いた。
「・・・・・覚悟してくださいね、イングリッド様。私たちはこれから数時間、家へ帰れないかもしれません」
「・・・・・・へ?」
イングリッドは、私の言っていることがよく分からなくて、なんだか間の抜けた返事をした。




