夏の予定は、空いてますか?
体の痛みに悪戦苦闘しているうちに、もう季節は夏へ突入しようとしていた。
夏と言えば忘れちゃいけないことがある。
夏休みである!
テストが終わったから、そういやそろそろだな~なんて思っているうちに、すぐそこまできている。
本来、この夏休みの間に主人公であるアリスは、相手候補とデートをして好感度をあげていくのだけど、オルガにとっても夏休みは、みんなと仲良くなっていくチャンスである。
・・・・・まあ、好感度とかバッドエンドを回避するとかそういう目的ってより、普通に一緒に遊びたいという気持ちの方が大きいけどね。
てか、現時点でアリスからオルガへの気持ちってどうなんだろ?今度、それとなくイングリッドに聞いてみようかな。せっかく情報通のイングリッドと親しくなったんだし、協力してもらえるかもしれないしね。
ということで、これは買いに行くしかありませんな、水着を。私はメイドなので当然、おしゃれな水着なんて持ってないからね!
学園指定のやつで海に行くのは、アルジェリー家の名誉に関わる。
「そういうわけですので、みなさんを誘って行きましょう」
私は、放課後に早速オルガに相談した。
「なによ藪から棒に」
オルガは、退屈そうに頬杖をついている。相変わらずテンションが低いなあ。まあ普段からそんなにテンション高い方じゃないから、いつも通りではあるのだけど。
「そろそろ夏休みですね」
まずは軽く雑談から入って、自然な流れで水着を買いに行くのに誘おう。
「ええ、そうね」
「夏と言えば、海ですね」
「・・・・・行かないわよ」
なにかを察知したオルガが、きっぱり言う。まだ全然話してないのに・・・断るのが速いよ!
「まだ最後までしゃべってないのですが・・・」
「いや、聞かなくても分かるわ。海へ行きたいとかそういうことでしょ」
「さすがオルガ様・・・察しがいいです。行くなら新しい水着を着たい・・・そういうことですね」
「私の話聞いてた!?」
「もちろんです。やはりオルガ様も新しい水着で、浜辺の話題を独占したいと」
「全然聞いてないじゃないの!」
オルガは、ドンッと机を叩いて立ち上がった。すると、
「なになに?どこ行くって?」
そばにいたイングリッドが、私たちがワアワア話しているのを見つけ、目を輝かせながらやって来た。どうやら自慢の嗅覚で、なにかを嗅ぎとったみたい。
「あなたには関係ないから、帰っていいわよ」
隣に座って、会話に入って来ようとするのを、冷たく追い払うオルガ。
「それは話を聞かせてもらってからです~」
イングリッドは全然めげない。そのまま椅子に座ると、グイっと身を乗り出してきた。
「で、エリーゼ!続き続き」
強い味方を得たぞ。これならが、私の計画実現も近い。
「新しい水着を買いに行こうと思いまして」
「海に行くの!?うほ~絶対楽しいじゃんね。行く行く!」
ノリノリである。
「ちょっと待ってて、アリス呼んでくる!」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
慌ててオルガがとめるけど、その言葉はイングリッドには届かなかった。すごい勢いで走り出して、なにも知らないアリスの首根っこを引っつかんで爆速で戻ってくる。
「え!?なに、なんです!?」
アリスは軽くパニックになっている。
「いえいえ、大丈夫です。とって食おうとか、そういうのではないですから」
「あ・・・そうなんですね。私てっきりカツアゲにあうのかと」
私たちって、アリスからどう見えてるんだろう。けっこう、楽しく遊んでいると思ってるんだけど・・・まだまだ信頼獲得までの道のりは険しいようである。
「新しい水着を買いに行こうと思うので、そのお誘いです」
「わあ、そうなんですか。私もいいんですか?」
明るい顔になった。・・・よかった。
「もちろんです」
「そうそう当たり前!」
「あなたたち~~~!」
無視され続けて、さすがに怒ったのか、オルガがふたたび机を叩いて立ちあがった。
「私は行かないわよ!なんでわざわざ、あなたたちと海なんかへ・・・」
「あ!さては泳げないんだ~」
イングリッドが挑発する。
「そんなわけないでしょ!泳ぎなんて、小さい時に習ってバッチリ習得しているわ」
ちょっと自慢気な態度になる。自慢話だと、いつもすごく生き生きとしている。謙遜とかそういうのとは全く無縁って感じ。
でも、そういうとこが、いい!
「じゃあなんで嫌なのさ」
「あなたたちなんかと行っても仕方ないからよ」
ふんっと、小ばかにするような調子で言った。こういう少し嫌味な言動もどこかサマになってしまうのが、オルガの魅力ではある。
「でも、オルガ様。やはりオルガ様のようにセンスがあり、海の楽しみ方も知っている方がいると、私たちとしてはとてもありがたいのですが・・・」
ここは、褒め殺し作戦でいこう。そのプライドに訴えかけていくのだ。
「センスがある・・・ま、まあそうね・・・。さすが私のメイド。ちゃんと分かっているじゃないの」
「この前、服を選んでいただいた時、確信に変わりました。アリス様もそう思いません?」
「あ、たしかに。あの時選んでもらった服、かわいかったです」
アリスはうなずく。
「ふふふ、そうでしょうとも」
髪を指でいじくりながら、オルガは得意満面って感じだ。うわ~なんともかわいい、見た目はキリッてしているのに、時々見せるこのかわいらしさが、めちゃくちゃいいですなあ。
「そこでです。夏の楽しみ方を知らないわたしたちに、ぜひ貴族であるオルガ様から、その真髄をご教授願いたいのです」
と私は言いながら、イングリッドに目配せすると、彼女はグッと親指を立てた。
「そうそう。私も、教わりたいな~~」
「ふ、ふ~ん。そう・・あなたも?」
もう、オルガの口から笑みがこぼれちゃってる。
よし、あと一息だ。アリスの方を向いて、『頼みます』と、声に出さず口をパクパクして伝える。
アリスは、『分かりました』と小声で返事をして、口を開いた、
「私、あんまりいい水着がなくて。この前選んでもらった服が、とってもよかったので、よければ今回も、一緒に見てもらえるとうれしいです」
たぶん、この言葉はアリスの本心だろうな。私みたいになだめたりとか、おだてたりとか、そういう小細工がない。でも、その分真っすぐに届く気がする。
オルガは、あごに手を当てて考えたあと、
「し、仕方ないわね・・・そんなに言うなら、付き合ってあげなくもないわ」
「やった~~~!」
私とイングリッドとアリスの三人はハイタッチする。
「それでは、今から行きましょう!」
私は力強く宣言した。善は急げである。
「え!?今から?」
さすがにとまどうオルガをよそに、
「はいはい!準備して、カバン持って~は~い、立ちましょうね~」
イングリッドがオルガにカバンを持たせ、私が背中を押す。
「わ、分かったわよ!行くから!」
みんなでオルガの手を引いて、背中を押して教室を後にする。
さあいざ、水着を見に行こう!




