ただ帰るだけが、なかなか難しい
授業が終わって、学園での一日も終わりに向かっている。
楽しそうに話をしているクラスメイトたち。
そんなみんなを尻目に、私は一人・・・腕を組んで考えごとをしていた。私には、ここから本日最大の関門が待っている。
それは・・・下校だ!
普通に考えたら下校は楽しいもの。『どこ寄り道しようかな~』とか『早く帰って遊ぼう』とか、ワクワクしている人も多いだろう。いつもだったら私もそうなんだけど、今日は違う。筋肉痛が痛すぎて、ここからは、なるべく痛くないように帰らないといけない。
帰り道も、オルガに手を引いてもらって歩いていく。そろそろ慎重に。泥棒みたいに、抜き足差し足忍び足ってやつだ。中腰でおしりを突き出した謎のポーズのまま動いていく。これが私には一番楽な姿勢なのだ。
「その格好、なんとかならないの?」
オルガはあたりを見ながら、恥ずかしそうにしている。朝と同じように、道を歩いている人たちに見られているけど、場合が場合なので我慢してもらおう。
「おもしろい~。見ようによっては親子みたい。わがままな子どもを引っ張って帰っているみたいな」
あっちこっち回りこんで、イングリッドが眺めてくる。
「ほほえましいよね」
ギュスターヴは保護者みたいに、後ろで腕を組んで見守っている。
みんなにとっては平和な光景かもしれないけど、私はこの状況、そこそこ緊張する。少しでも変な動き方をすると全身がビキーンと痛むので 神経をとがらせながら、そろそろと足を運んでいるのだ。
「あ、エリーゼ様、あそこ、この前一緒に行った服屋さんですね」
と、アリスが何気なく肩に手をおいた。
「わお~~~」
思わず叫んじゃう。なんか犬みたいな声が出ちゃった。
「あ!す、すみませんっ!つい」
うれしいんだけどね。でもね、今日だけはうれしさより、痛みが勝つ。
「あ、そこに段差が」
「ぐわ~~~」
つま先がコツンと当たって、ビビッと痛みが広がる。ほんの少しの段差でも、油断できない。
「大変そうですね・・・」
アリスは気の毒そうな顔をしている。『いえいえ、それほどでもないですよ』とか言いたいけど、そんな強がりできるレベルではないので、まっすぐに
「そこそこヤバいです」
そう答えた。この前は、赤点回避のためにテスト勉強を頑張ったけど、今度はなまけ癖を解消するための特訓で満身創痍。
なんか・・・私って最近ずっと忙しいな。
「でも、頑張ってるよね~。勉強会やったり、山でトレーニングしたりさ。すごいじゃん、文武両道じゃん」
イングリッドも勉強会では一緒に苦労した仲だからか、私に対して近頃優しくなった気がする。
「今までサボってたツケよ」
と、わがご主人様であるオルガは、極めて淡々としている。たまには優しい言葉をかけてくれたりするとうれしいけど、いきなり『どうしたの?大丈夫?』なんて言ってきたら、変なモノでも食べたか、風邪ひいたのか心配になるので、やっぱり今のままでよし。
「それにしても、なんだか歩くスピードが朝と比べて落ちてないかしら?」
オルガに指摘される。一日の疲れが出て、体が重たくなっているから、ただでさえ遅い歩みが、さらにパワーアップしてスローになっている。
「ちょっと!もう少し早く歩きなさい。これじゃあ、日が暮れるじゃないの」
「これ以上は無理です~」
今の速度が精いっぱいである。
「う~ん・・・・そうだわ!」
ポンと手を打つと、私とオルガの後を、のんびりついてきているギュスターヴたちを指さして、こう言った。
「あなたたち!クラスメイトが困っているわ。手を貸しなさい!」
「・・・・・・え?」
みんな、顔を見合わせる。
「ほら、グズグズしないの!」
困惑するみんなはお構いなしに、キビキビと指示しはじめる。
なにするつもりだろう。気になるけど、とりあえず任せてみるか・・・。
しばし、時間が経ち・・・・・
いつもより高いところから見る景色は、なんとも新鮮だ。ガタガタ揺れて痛いけど、さっきの超低速歩きに比べたらずっと速い。
みんなで運動会でよくやる騎馬戦の馬を作って、私を乗せて運ぼうというオルガのアイデアである。これなら、まだ速く帰れるだろうと、そういうことらしい。
「えっさ、ほいさ。なんで私たちがこんなことしてんのよ~」
イングリッドの不満げな声が聞こえてくる。
「まあまあ、なんだかおもしろいじゃない」
ギュスターヴは楽しそう。よく考えると、王子様がメイドを上に乗せて運んでいるという変な状況になってるな。
「こりゃ、いいトレーニングになるぜ」
とポジティブにとらえているのは、アルベルト。なるほど、そういう考え方もあるのか・・・なんか勉強になる。
「い、痛くないですか?」
こんなことをやらされながらも、ちゃんと上に乗っている私の心配をしてくれるのは、もちろんこの人、アリスである。さすが主人公。とても好感が持てる。
「さっきよりは、マシっ、ですけど、揺れる、と、ズキンと、きますね」
ゆっくりと歩いてくれるのでまだいいんだけど、揺れるとやっぱり痛い。
「はあ、なにトロトロしてるの・・・そんなんじゃ意味がないわ!」
と、私を運ぶ馬にはならず、安全確認役ということで一人悠々と前を歩いていたオルガは、しびれを切らしたのか、くるっと振り向いた。
「さあ、ここからスピードをあげていくわよ!それで、さっさと帰るの!」
スピードをあげる・・・なんか嫌な予感がするぞ。
「このままだと、みんな遅くなっちゃうから・・・ごめんエリーゼ。ちょっと我慢してね」
ギュスターヴがそう言うと、ぴたりと馬は一度歩みをとめた。
そして次の瞬間・・・・・
すごい勢いで走り出した。
「いだだだ~~~~~~~~~!!」
めちゃくちゃ痛い。痛すぎる!ぐらんぐらんと体が揺れて、痛みと吐き気が同時に襲ってくる。
「歯を食いしばりなさい!これが一番速いのよ!」
と、私に呼びかけるオルガの声が、なんだかすごく遠くから聞こえてくるようだ・・・。
何倍も速くはなったけど、痛みは100倍くらいになってる。
気が遠くなりそうな私を乗せたまま、すごい勢いと抜群のチームワークで馬は風を切りながら、帰り道を駆け抜けていったのだった。




