解放せよ、その心
私は椅子に深く座りなおして口を開いた。
「では、そろそろ本題に行きましょうか・・・」
「へ?本題って、なに?」
イングリッドが、ぽかんとした顔をしている。
「決まっているでしょう!どんなメイドさんがいいとか、服装なんかの好みとか、スカートは短い方がいいのか、長いのがいいのか、そういうのです」
机をバンと叩いた。
「いたたた・・・」
筋肉痛なこと忘れてた。勢いをつけて叩いたから、腕から腰から腹筋から、全身が例外なく痛い。
「わわっ気をつけてください!」
アリスが労わってくれる。その優しさがしみる。
気をとり直して、コホンと咳払いし続ける。
「では、ここは私から・・・。私としては、黒などのシックな色合いのオーソドックスなスタイルが好みです。王道ど真ん中こそ一番かと」
ザ・メイド服って感じの服が好きなんだよな。アルジェリー家のメイド服は、黒と白でシンプルなデザインなので、私の好み。
「私はやっぱり、ミニスカートだよ!足見せてけ!足!ショートパンツでも可」
イングリッドは好みがはっきりしている。とにかく足が見たいらしい。でも、ショートパンツ姿のメイドさんは希少種というか、ほぼいないんじゃないだろうか。
「やはりスラっとした足がお好みですか?マルゲリータさんとかだと、めちゃくちゃゴツいですけど」
「それはそれでよし!」
グッと力強くガッツポーズしてくれた。
なるほど、ゴツいのは嫌とかそういうのではないらしい。みんなそれぞれいい足があるという精神のようだ。
「俺の好みかあ?なんだろうな・・・・」
アルベルトが腕を組んで真剣な顔で考えている。そして顔をあげると、
「やっぱり、短い方がいいんじゃねえか?かわいいし・・・グッとくるぜ」
「君!分かってんねえ!」
イングリッドが握手を求め、二人は強く握手した。意気投合していた。
「ちなみに足以外には、肩が出ているのが好きとか、そういうのあります?」
「そこはあえて隠すの!色気と品のよさを両立していくんだよ!そのバランスが大事なの」
なにかこだわりがあるようだ。胸とか腕とかは出さず、足だけを出すのがいいらしい。ちょっとマニアックな感じもするな。
「な、なんだと!?」
アルベルトが、慌てて立ちあがった。
「腕とか、胸も見えた方がテンション上がるだろ!だよな!?ギュスターヴ」
「ええ!ぼくに振るの!?」
急に同意を求められて巻き込まれたギュスターヴが、ちょっと不憫である。こういう話、苦手そうだからなあ・・・。
助けてあげたいけど、どんな好みか気になるので、このまま見守ろう。
「えっと・・・ぼくはその~・・・」
口ごもっている。アルベルトみたいに恥ずかしげもなく言える人ばかりじゃないから、ほんとに無理そうなら私が助け舟を出そう。
「なんだよ、素直になれって」
逃げられないようにガッチリと肩を組まれている。
「えっと・・・その・・・ぼくは、そんなに見えない方がいいかな~なんて・・・」
モジモジしている。いつもはのんびり落ち着いた雰囲気のギュスターヴにも、苦手な話があるんだな。親近感が湧いた。
「分かってないな~アルベルト。隠れているのがいいんじゃないか。こちらのイマジネーションを刺激するのだよ。分かるかね、チミ」
と、イングリッドがなんか急に専門家みたいに、得意げに解説をはじめた。見えてしまうと、想像力の働く余地がなくなって・・・云々。
「へ~奥が深いなあ」
アリスはなぜか真剣に話を聞きながらメモしている。こういう会話でも、そのまじめさは健在である。こっそりのぞいてみる。
『ギュスターヴ→肌見えないが好き』
『イングリッド→足出しが好き』
『アルベルト→全出しが好き』
・・・・『全出し』って・・・それはもう、すっぽんぽんのことなのでは?
なんかアルベルトが全裸になってるみたい。誤解を招きそうなメモだけど、おもしろそうなので、なにも言わないでおこう。
「アリス様は、こんなメイドさんがいいとかありますか?」
どんな好みか気になるので、アリスにも尋ねてみる。
「私ですか?・・・えっと、そうですね」
少し考えると、
「私は・・・友だちになれるような、親しみのあるメイドさんがいいです」
そう言ってにっこり微笑んだ。
なんだか・・・すごいかわいい!
さっきまで、足が見えるのがいいだの、胸が見えるのがいいだの、お色気方面に寄っていたので、とっても癒されるな~。
心が和んだところで、さて、次の人だ。
「エドワードさんは、どうです?」
当然気になるので、この人にも聞いていこう。
「ふん・・くだらん。メイドの好みだと?」
「ほんの他愛のない話ですから、気楽に考えてください」
「そ、そうか?まったく仕方ないな・・・。そうだな・・・まあ強いて言えば・・・」
と、なんだかんだ話に乗っかってくれる。こういうところはエドワードの長所だな。
「緑のメイド服なんかいいんじゃないか?落ち着いた雰囲気だし・・・そこそこ好きな色だ」
ほう・・・メイド服は基本的に白とか黒が多いけど、そこをあえての緑。シックでありながら個性も出していこうとする、その姿勢やよし!
「へ~なんか珍しくいいかも」
「なんかよく分かんねえけど、通っぽいな。すげえ」
イングリッドとアルベルトにウケがよかったようだ。
「ふ、ふん。当然だ」
エドワードは得意げにしている。褒められると調子に乗りやすいタイプだな。
「はあ・・・なにくだらない話をしているのよ」
オルガはいつものように呆れた顔をしている。
「いえ、意外とバカにできませんよ」
私はオルガに向かって言った。
「どうして?」
「この会話で非常に有益な情報を得られました。例えば、イングリッド様は足が好きですし、アルベルト様はけっこうスケベです」
「それのどこが有益なのよ!」
「あと、アリス様は友だちになれるようなメイドさんが好きで、ギュスターヴ様は肌が見えない服の方が好みです」
「あなたねえ・・・」
オルガはピクピクと青筋を浮かべている。
「それとエドワード様は緑色が好きな色だそうです」
「ふ、ふ~ん、あっそう」
「デートなどの服選びの際に、参考になるかと」
「い、一応頭の片隅にでもおいておくわ。一応だから。勘違いしないで!」
と早口で言った。
「はいはい」
おっと・・・そういえばオルガに聞くの忘れてた。
「ちなみにオルガ様は、どんなメイドさんがいいですか?」
「なにそれ?くだらないわね」
オルガは、チラッとこっちを見て、
「これは私個人としてじゃなくて貴族としての答え。・・・自分の家のメイドが一番じゃなければ、主人失格よ」
言うと、プイっと顔をそむけた。
「フヘヘヘ」
思わず笑みがこぼれちゃう。
「なにその不気味な笑い方は!?」
「そうですか・・・ウヘッヘ」
「それやめなさい!」
頭をはたかれた。でも、うれしいから全然痛くない。
「なんだよ~それじゃ俺たちが主人失格みたいじゃねえか!」
「そ~だそ~だ!」
後ろからアルベルトとイングリッドの文句が聞こえてくる。
今回は、オルガと私の仲が深まったということで勘弁してもらおっと。




