学園への道は遠い・・・
「エリーゼ、あなたなにしてるの?」
先を歩いているオルガが、不審そうに私を見ている。
「オルガ様。なにって・・・歩いておるますが、なにか?」
休みの日が終わって平日の爽やかな朝を迎えた。オルガといつものように登校中。
なんだけど・・・・・・事情が、ちと違う。
私は中腰で、全関節が錆びたロボットみたいに、ぎこちなく歩いている。
「またふざけているの?」
ため息をつかれた。私がワザとやっていると思っているみたい。日常の行いのツケが回ってきた。
急にメイドが珍妙な格好で超低速で歩いてたら不審に思うのは分かる。でもね、オルガ。これが私の精一杯なんだ。
「今、全力で歩いております・・・」
「は?」
説明しよう。今の私は、昨日のトレーニングのせいで、全身が尋常じゃないレベルで筋肉痛なのだ!
呼吸をしても痛いし、風が吹いても痛い。普通に歩こうとすると痛くて死にそうになるので、こうやってゆっくり、そろそろと足を運ぶしかないのである!
「遅刻するわよ」
「ここは任せて、先に行ってください」
と、なんかカッコいい決めゼリフみたいになっちゃった。でも、へっぴり腰でお尻を突き出した意味分からんポーズで言っても、ちっともサマにならない。
「ほら!早く行くわよ」
手を引っ張られる。
「いたたたた~い」
オルガのあったかい手が、私の手をにぎっているこのシチュエーション。普段ならめちゃくちゃうれしいんだけど、今は激痛でそれどころじゃない。うれしさ1割、痛み9割くらいだ。
「そ、そんなに強く引っ張ってないわよ!?」
オルガは、私のリアクションの大きさにとまどっていた。オルガは悪くないのだが、端から見ると、ご主人がメイドをすごいいじめているみたいである。
通行人たちは、チラチラこっちを見ながら、
『アルジェリーの家には冷酷な娘がいると噂だったが、やはり・・・』とか『メイドさんがかわいそう』とか、言ってる。
いかん、悪役令嬢としてのオルガの評価があがってしまう。
このままでは、オルガのイメージチェンジの努力が水の泡に・・・。ここは、早く学園に行った方がよさそうだ。
「とにかく事情は学園でお話ししますので、このまま引っ張ってくれます?」
「なんで私がそんなことしなくちゃいけないのよ」
「そうしないと、さっきの歩き方でゆっくり行きますけど、よろしいでしょうか?」
「く~~~!分かったわよ!ほら!」
と、手を差し出された。
「ぐわ~~~~」
痛すぎるけど、なんとか耐える。涙も出ちゃう。
「少し黙れないの!?周りが見ているじゃないの」
「これは、まあ犬の鳴き声みたいなものだと思ってください」
「そんな、かわいげのあるものじゃないでしょ!」
ブツブツ文句を言われ、道行く人に不思議そうな目で見られながら、手を繋いで学園へと向かった。
「いだだだだだだだ~い」
「なんなのよ~~!わけをちゃんと後で話しなさいよ~~~~!」
オルガは周りからの視線に赤面してたけど、手は離さないでいてくれた。優しいけど、めちゃ痛い。
なんだか、いつもの倍くらい遠い感じた道のりだった。もうすでに、長旅から帰って来たみたい。
ひとまず無事、教室に到着できた。二人とも競歩みたいに全身全霊の歩みをしてきたので、ぜえぜえと息があがっている。
「あれ?二人とも、仲がいいんですね」
手を繋いだままの私たちを見てアリスが声をかけてきた。
「はあ!?どこをどう見ればそう思えるの!?この平民!」
疲れているオルガは、キレ気味に返事をする。
「ええ!?なんで!?」
急に理不尽にキレられて、アリスはビックリしている。オルガの気持ちは分かるけど、さすがにアリスがかわいそうである。
このままほうっておくと、オルガが感じ悪いやつになってしまうので、フォローしておこう。
「すみませんアリス様。少々理由があり、二人とも全力歩行で登校したので、オルガ様の気が立っております」
「え?え?」
より分からなくなっているようなので、ここでオルガとアリスに事情を説明しよう。
マルゲリータさんにトレーニングという名の特訓に連れて行かれたこと、そこで死にかけたことなどなど、手短にまとめて伝える。
「大変でしたね」
アリスは優しいので、真剣に心配してくれる。
・・・こういうところ、好き。
「昨日姿が見えないと思ったら、そんなことしていたの?まったく、とんだバカね」
オルガは、いつもみたいに呆れ顔だ。毒舌も健在である。
・・・そういうところ、好き。
「ええ、なので私の体はボロボロ・・・言うなれば、ボロクズみたいなものです」
「そんなに卑下しなくても・・・」
「むしろ、そう呼んでいただきたい!」
「ええっ!?」
ボロクズとか人生経験として一度くらい呼ばれてみたいので、無茶振りしてみる。
「言えばいいの?ボロクズ。これでいい?なにがおもしろいのかしら?」
アリスに頼んだのに、なぜかオルガが言ってきた。
さずがオルガ。こういう普段人に向かって言うのをためらう言葉を、躊躇なく使えるところは正直どうかと思うぞ。
「なかなかいいです。では、アリス様もどうぞ!」
「え・・・え~と・・・むぐぐぐぐ~~~」
すごい葛藤している。さすが主人公だ。なんというか・・・人間ができている感じがする。オルガも少しは見習ってほしい。
「なに平民・・・そんなことも言えないの?」
オルガが謎のマウントをとりはじめた。全然、自慢できることじゃないと思うぞ。
「私が変なんですかね?」
アリスが尋ねてきた。
・・・・・大丈夫、あなたはマトモです。
「なんだ?妙なことしているな。ボロクズって呼べばいいのか?・・・ボロクズ。簡単ではないか」
そばで私たちの話を聞いていたみたいで、エドワードが話に参加してくる。彼も、ちょっとデリカシーがない。
「いえ、クソ婚約者のエドワード様にはお願いしておりません」
オルガに言われるのはいいけど、エドワードはなんかムカつくので、なし。
「俺・・・自然な感じで罵倒されなかったか?」
「されてるわね」
「されてます」
オルガとアリスが同時に言った。
「なぜだ!?」
「すみません。なんか顔がムカついたので・・・」
「顔が・・・だと!?」
褒められることはあっても、けなされるのには慣れていないらしく、反応が大きくてちょっとおもしろい。
これがあるから、ついイジッちゃうんだよな。
「ほんのジョークです。エドワード様。気にしないでください」
「本当か?」
いぶかしそうに見てくる。
「もちろん。クソ婚約者だなんて・・・思って・・・ませんよ」
「変な間がなかったか!?今!?」
「気にしない気にしない」
「気にする!」
・・・・・・と、和やかにみんなで朝のお話タイムを楽しんでいると、
「うぇ~い、おはよう!」
教室に入って来たイングリッドが、私の背中をドンと叩いた。
「うごっ・・・」
私から、自分でも発したことのない低いうめき声が出た。
「へ!?私、そんなに強く叩いてないけど!?」
「これには理由がありまして・・・」
私が説明しようとしたら、ギュスターヴとアルベルトがやって来た。
よし、ここで改めて、昨日あったことと、マルゲリータさんについて話しをしよう。




