ここからが本番!?
走っている。
ただいま私は、走っております。
かつてないくらいに全力で・・・
そして、今までにないくらい必死で。
なぜかというと
・・・それは決まっている。
後ろから、デカい岩が降ってきているからだっ!
ただいま私は、大岩と絶賛追いかけっこの最中なのである。
ここは、切り立った崖。そこを、後ろから時々落っこちて来る岩石に追いつかれないようにしながら、なんとかマルゲリータさんのいるところまで走るのが、山での特訓の内容。
「ワワワワワワ~!」
足をダバダバさせながら、急斜面を駆け下りていく。なんと言うか・・・走っているというより、滑り落ちていってると言った方が表現として正確かも。
フォームとか、ぐちゃぐちゃのわちゃわちゃである。手も足も、なんか同時に出ちゃったり、転びそうになってよろけたりしている。
ちゃんときれいに背筋を伸ばした方がいいとか、腕を真っすぐ振った方がいいとか、そういうのあるだろうけど、そんなことを気にするゆとりはないし、知識もない。
「お~い!しっかり走れ~」
離れたところでは、マルゲリータさんが大きく手を振っている。なんとも、のんきだ。寝転んで、なんか食べながらこっちを見ている。
こちとら半死半生のギリギリで、もうすでに何回か岩に弾き飛ばされて、三途の川らしきものが見えたりしている。
私の見た三途の川では、大きな川を隔てた向こうで、なぜかオルガが手招きしていた。オルガは死んでないのだけど、出てきてくれたのがうれしいのでよしとしよう!
「オルガ様。死の世界に私を招かないでくださ~い」
向こう岸にいるオルガに、一言言っておく。
「私は悪役令嬢だからいいのよ~」
と謎の理屈を言ってきた。悪役令嬢って自分で『私は悪役令嬢よ』とか言わないよな・・・。やはり、ニセモノだな。
本物のオルガだったら「ふん、自力で生き返ってみなさい」とか言ってくれそう。
なんてことを考えていたら、痛みが体に走った。
いてて・・・なんだ?
目を開けてみると、
「おい、起きろ」
マルゲリータさんが私のお尻を、ペシペシ叩いていた。もうちょっと優しく起こしてほしいなあ。
「痛いです」
手を引っ張られて、起こされる。
「生きてるって素晴らしいですねえ」
久しぶりにまともに呼吸した気がする。空気がとてもおいしい。
「おう、そりゃあよかった。んじゃあ、気合い入れてもう一度行こうぜ」
「・・・え?」
できるまでやる・・・どうやらそういうことらしい。マルゲリータさんには、有無を言わせない迫力がある。
はあ、やるしかないか・・・。
岩との追いかけっこの再開である。
こんなゲームみたいな状況・・・いや、これもゲームだからややこしいのだけど、アクションゲームっぽいイベントは、このゲームでは、なかったはずなんだけどな。
マルゲリータと関わった瞬間、急に別のゲームになったみたい。
背後から迫りくる大きな岩!
限界を超えた己の肉体!そして、飛び散る汗!
なんとも熱いイベントではある。これはこれでいいんだけど、なかなか疲れる。
「いい加減クリアしろよ~」
明るいマルゲリータさんの声が聞こえてくる。私に返事なんてする余裕はない。
「ふっふっふっふっ!」
だんだん自分の激しい呼吸と、転がってくる岩の音だけしか聞こえなくなってきた。
岩から逃げ切れば、合格とのこと。果たして、クリアできるのだろうか。
「その調子だ~」
応援してくれているみたいだ。
声がぼんやりと聞こえている。でもなんだか意識が朦朧として、なにがなにやらよく分からない。
もうあんまり難しいことは考えず(考える余裕がなくなった)に、ただ足を動かすことだけに集中しよう。
そう心に決めて、グッと踏みしめて足を動かしていくと、だんだん時間がゆっくりと進んでいるような感覚になる。
なんか勝手に体が前へ前へと進んでいく・・・。
疲れもあまり感じなくなった。
全てがスローモーションになったみたいだ。
もしかして、これがゾーンに入るとか、そういうやつ?体が限界を超えたことで、成長したのかもしれない。
黙々と走って行く。
走る。
ひたすら走る。
・・・・・・・
・・・・・・
ふと、今どれくらい走ったんだろうと気になって周りを見てみると、マルゲリータさんが、すぐ先の岩場で立っている。
下りはじめた時は豆粒くらいの大きさだったのに、突然巨大化したみたいに、いきなり目の前に現れた。
あれ?いつの間にマルゲリータさん、私の近くに来たんだろう?
そう思った瞬間、足がもつれてつまづいた。
転びながらヘッドスライディングみたい地面をズザザーと滑って、マルゲリータさんの目の前でとまった。
砂煙がモクモクあがる。
・・・立てない。疲れた。
少しした後、落ちてきた岩が私の横を通り過ぎて行った。
「よっしゃあ!合格だ、てめえ!」
寝ころんだままでいる私は、バシバシ叩かれる。
「あの~もう少し優しくしていただけるとうれしいのですが・・・」
なんとか重い体を持ちあげる。座るのがやっとだ。
「贅沢言うな!長い時間つき合ってやってるんだ。これくらい我慢しろ」
「さすがに、ハードすぎません?」
ちょっと文句を言わせてもらおう。
「サボってたてめえが悪い。これは、まあ、おしおきみたいなもんだ」
マルゲリータさんにとっておしおきは、トレーニングで体を鍛えさせることらしい。言葉だけ聞くと、すごい健康的だけど、これは健康的とかそういう範囲を超えているので、要注意だぞっ!
私たちは、その場に座ってお茶を飲んだり、軽い食事をして、しばらくのんびりした。ピクニックに行くという私の希望を叶えてくれているらしい。
すごくおいしく感じる。ここまでしなくてもいいけど、たまに運動するのも、悪くないかもしれないな。
「いやあ、疲れました」
「ごくろうさん。なかなかやるじゃねえか」
充実感がすごい。今日だけで、一回りも二回りも人間として大きくなった気がするぞ!なかなかやると言われて、うれしい。
私が風を浴びながら充実感に浸っていると、マルゲリータさんは立ちあがって言った。
「んじゃ、少し休んだら行くぞ。次は滝に打たれて・・・それから、その次が・・・」
「ん?」
嫌な予感・・・。
「まだまだ、はじまったばかりだろうが」
「えええ~~~~!」
疲れであんまり声が出ない。
「そんだけ声が出れば、まだまだいけそうだな」
すごく楽しそうに笑うマルゲリータさん。
まだまだ、私とマルゲリータさんの一日は終わらないようだ。
それから特訓は、日が沈んで、どっぷりと夜がふけるまで続いた。




