メイドの心得
ここまでは計画通りだ。私は心の中で、悪役みたいにほくそ笑んだ。・・・・・・外に連れ出されるとは思ってなかったけど、マルゲリータさんと二人きりになって親交を深めること。それが私が狙っていたことの一つである。
メイドの仕事を適度にサボっていたのも、挑発的な言動も、それら全て計算されたこと。彼女に目をつけられて呼び出されるためなのだ。
・・・そう、本当にサボっていたなんてことは全くなく、大きな私の目的のために必要なことなのである!
その目的とは、もちろんオルガのバッドエンド回避だ。そして、そのカギを握る人物が、今、私の目の前にいるマルゲリータさんなのだ。
このゲーム、普通にシナリオが進んでいくとオルガとマルゲリータさんは、だんだんと険悪な関係になっていってしまう。
真っすぐで情に厚いマルゲリータさんと、素直じゃないオルガはあんまり相性がよくないのだ。
オルガのよさってちょっと伝わりにくいし、フォローする人がいないと誤解が解けないままになっちゃうからね。
結局、最後まですれ違いは解消されないまま、ついに決別してしまい、マルゲリータさんはアルジェリーの家から解雇されてしまう。
そして、その後はどうなったのかは分からないまま、完全にゲームからフェードアウトする。
ここが脇役の悲しいところ。
ちなみに、私は、途中から存在自体がなかったことになる・・・というかプレイした人はみんな、いなくなったことすら気づいてないと思う。私もそうだったし。なんか、いつの間にか出なくなっていた。出番が少なすぎるので、いなくなったかどうかすら、よく分からんのである。
・・・悲しすぎて泣けるぜ。
まあ、それはともかく、このオルガとマルゲリータが決別するイベントは、オルガ転落のそこそこ大きな原因の一つになっているんじゃないかと思う。
マルゲリータさんというストッパー役がいなくなってしまうことで、オルガの毒舌とかいじわるな言動がエスカレートしていって、やがてみんなに見放されることに・・・と、こう繋がっていくのではないか。
まあ、それよりなにより好きなキャラなので、いなくなってほしくないという気持ちの方が動機としては大きいんだけど。
というわけで、マルゲリータさんがいなくなってしまわないように、まず私が彼女と仲良くなって、オルガとの橋渡し役になれば、上手くいくんじゃないかと考えたわけである。
あと、普通に好きなキャラなので、いっぱい話したいし、あわよくば友だちになりたい。
そんなことを考えつつ歩いていると、広い庭へと出た。
「うし、ここでいいか」
腰に手を当てて私の前にマルゲリータさんは立った。ただ立つだけで、カッコよさが漏れてきている。
「庭に来るとは・・・さてはピクニックですね。お茶菓子、持ってきましょうか」
天気もいいし、絶好なピクニック日和だ。なるほど、マルゲリータさんは二人でこっそりお茶菓子を食べるために、ここに来たんだな。
「・・・あ?違えぞ」
あっさり否定されてしまった・・・。じゃあなんだろう。
「おい、てめえのメイドとしての心得を言ってみろ」
心得?メイドの心得が書かれたルールブック的なものは、一切持ってないぞ。もらった覚えもない。なんかあるのかな?メイド協会から配られる教本みたいなの。
「どういうことです?」
分からない時はすぐ聞こう。これ、大切。
「なんか、個人的に心がけてることあんだろ?」
ああ、そういうことか。私が、メイドをするうえで気をつけていることを聞かれてるのね。
「なるほど・・・個人的に、こういう気持ちでやってますってことを言えばいいんですね?」
「そういうことだ」
マルゲリータさんはうなずく。
ん~と、なんだろう。メイドとして生きる指針みたいなものか・・・。ちょっと考える。
うん、やっぱりこれだな。
私は、すかさず答えた。
「媚びる、へつらう、胡麻をするですっ!」
思い切り、大きな声で言う。やはりスローガンていうのは、元気よく言うのが、好感を持たれるコツである。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
・・・・・・・・沈黙が二人の間を流れていく。風が庭に吹きわたって・・・雲が流れ・・・虫の声が遠くから聞こえる。
穏やかな午後が、ゆっくりとすぎていく。のどかな日だな~。
・・・・・・・・・
「ほ~う、こりゃあ本格的に、その根性から鍛えなおさにゃならねえようだな」
長い沈黙の後、マルゲリータさんが口を開いた。首をゴキゴキ鳴らしている。
これを待っていた!これこそが、私の今後のプランに不可欠な、修行の二文字!マルゲリータさんと親交も深められ、しかも身体能力の向上も見込める・・・まさに一石二鳥。やはり、オルガをサポートするうえで体を鍛えておくのは、重要なのではないかとちょっと思っていたのだ。
「特訓ですねっ!」
私は目を輝かせる。
「てめえは、なんでそんなにテンション高いんだよ・・・」
「やりましょう!師匠」
「いつの間に弟子になってんだ!」
「たった今からです」
「はぁ、調子狂うな、こいつといると」
マルゲリータさんの呆れ顔だ!いやあ、近くで見られるとはうれしい。
「ま、いいか。じゃあお望み通りやってやるぜ。特訓ってやつをよ」
「は~い」
「健全な精神は、健全な肉体に宿る・・てめえ、最近太ったりしてねえか?」
と、唐突に聞かれる。
「え・・・もしや、そんなこと言って、私のかわいいボディーをチェックするつもりじゃ・・・」
「んなことしねえよ!さては、太ってるのをごまかしてやがるな」
う・・・バレてる。そうなのだ。私、ちょっと太ったのです。ここのごはんがおいしすぎて、毎日おかわりしているからかもしれない。
「じゃあハードなやつでいくぞ。とことん鍛えなおして、その三段腹をバキバキに割れた腹筋にしてやる」
ハード・・・なんか不穏な響きの言葉だ。そして、バキバキに割れるって、けっこう大変なのでは?
でも、ちょっぴりあこがれる。シックスパックってやつか。マルゲリータさんについていければ、ムキムキになれたりして。
「なに笑ってんだ?」
「将来のマッチョな自分を想像してウットリしてました」
「いいねえ、やる気があるみたいじゃねえか。じゃあ、とりあえずここで軽くトレーニングした後で、山に行くぞ」
山?今度こそピクニックかな?
「トレーニングしたら、ピクニックですね」
「ああいいぜ。山での修行を終えたら、茶でも飲むか」
・・・ここでトレーニングしてから、さらに山に行って、また鍛える・・・。ハードというのはどうやら本当らしい。
「よし、じゃあいくぞ」
と、マルゲリータさんは軽い調子で言った。
「いきま~す」
のんきに、軽い調子で私は答える。
が・・・・この時はまだ知らなかった。
これは地獄のはじまりにすぎなかったことを・・・。




