そこに現れたのは……
姿を見せたのは、アルジェリー家のメイド長、マルゲリータさん。私の上司にあたる女の人で、『さん』づけして呼んでしまうくらい、私がリスペクトしているキャラでもある。
「どうも時間がかかってると思ったら、こんなとこで油売ってやがるな」
燃えるようなオレンジ色の長髪をかきあげながら、部屋に入ってきた。
この人は、メイドたちをまとめる役目のメイドである。言葉にすると少しややこしい感じるだが、要するに、一番偉いメイドさんである。
メイド長といってもベテランのおばちゃんとか、おばあちゃんではなくて、年齢は若い。
キリッとした印象の美人さんなのだけど、なんか獲物を狙ってるんじゃないかってくらい目つきが鋭い。ギロッとしている。
カッコいい女性キャラが好きな私としては、余裕で射程圏内に入ってくる・・・・・いや、それどころか、思いっきりストライクゾーンと言っていい。
筋肉隆々で、マッチョなところもポイント高し。腹筋バキバキで腕回りも、とてもたくましい。
その中でも特にすごいのが、その太股!スピードスケートの選手みたいに、丸太ぐらいの太さがあって、パツンパツンである。
・・・・・あの足で蹴られたら一発で昇天しそうな気がする。
というか、なんでメイドなんてしてるんだ、この人。
しかも、なぜかタンクトップ姿である。一応、上にメイド服らしきものを着てはいるのだけど、メイド感はゼロだ。
どこかの女隊長って感じ。どうして彼女がメイドとして雇われているのか、その理由は、永遠の謎となっている。
サブキャラ中のサブキャラなので、出番はかな~り少ない(それでも私よりはずっと多い。私より出番が少ない人は、そうそういないのだ!)のだけど、その抜群の身体能力でカッコよくアリスを助ける見せ場的なシーンがあるので、脇役の中では恵まれている方である。
そしてキャラが立っているいるので、プレイヤーからは意外と認知度と人気がある。かくゆう私も、大好きである。
そんなマルゲリータさんは、ズイッと私の目の前に立った。迫力十分だけど、私にとっては近くでお話しできるので、よろこびの方が大きいぞ。
「おら、さっさとこっち来て手伝え」
「え~もう少しオルガ様と和やかな午後を・・・・」
「いいから来い」
と、言い訳を言う隙もなく、ひょいと肩に担がれた。ガッシリした体が頼もしい。
「失礼いたします」
私は、肩に担がれて、お尻をオルガに向けたままあいさつする。メイドたるもの・・・どんな格好でもあいさつはしておこう。
「それでは~」
「はいはい、さっさと帰りなさい」
気の抜けた返事が返ってきた。
私たちは、そのまま部屋を後にする。
「おら、下りろ」
廊下を進んで、広いスペースまで移動すると、マルゲリータさんは言った。
「いえ、このまま部屋まで運んでいただけると、歩く手間が省けます」
「ほう・・・殴られたいみたいだな?」
「下りま~す」
本当に殴りかねないので、大人しく下りよう。ぴょんと着地する。
「主人の部屋でサボるとは、てめえはとんだ不良メイドだな」
『不良メイド』とは初めて聞く表現だ。
主人に忠実であるはずのメイド・・・そこに不良という、本来ならありえないワードがくっつく!この二律背反的言葉!非常にいい!
「いい響きですね・・・」
「褒めてねえぞ」
ツッコミがとんできた。声にドスが利いているので、聞いているとなんとも身の引き締まる思いである。
「いいツッコみです!」
私はグッと親指を立てる。
「なんだこいつ・・・」
「嫌ですねえ、エリーゼですよ。忘れたんですか?」
「知ってるよ!そういうことじゃねえ」
彼女とまともに会話するのは、これがはじめてなので、名前も覚えてないだろうな~と思ってた。まあ、クラスメイトにも忘れられているくらいであるから、最近は、もはや覚えられていない前提で生きることにしている。
・・・・・・なんか切ない。
でも、ちゃんと覚えておいてくれるとは。こういうところが好きなんだよなあ。
「いやあ、ちゃんと名前を覚えてくださるとは、さすがです」
私は、しみじみ言った。
「あ?なんだ、急に」
怪訝に思われてるみたいだけど、私は褒める時は褒めていくスタイルである。
「見た目も素敵ですよね・・・・・その足腰と鋭い狩人のような目!」
「なんだ?おだててサボりを許してもらおうとしてねえか?」
目だけでなく、勘も鋭かった。
「とんでもない。この目を見てください!この純粋なまなこ」
顔を近づけると、マルゲリータさんは一応目をのぞき込んでくれる。優しい。
「ふ~ん・・・あたしにゃあ、うさんくせえ薄ら笑いしたメイドしか見えねえがな」
「そ、そんな・・・マルゲリータさんは、うさんくさくないです。カッコいいですよ。もっと自信を持ってください」
フォローを入れる。
「あたしじゃねえ!てめえのことだよ!」
「私は、チャーミングなメイドとして生きているので、うさんくさいはずありません」
根拠のない自信を持って、胸を張って言う。
「自信があるのはけっこうだけどよ。仕事はまじめにやれよな」
「え・・・でも、やっぱり適度にサボることで、楽して快適なメイドライフを送ろうかと思ってるんですが・・・」
「はあ・・・てめえは、相当ななまけものらしいな」
マルゲリータさんはため息をつくと、
「ちょっとついてこい」
「へ?どこへ行くんですか?」
「あん?・・・行きゃあ分かる」
と言うや、先へ先へと歩いて行ってしまう。
私は、後を追いかけて行く。追いかけて、横に並ぼうとするんだけど…
・・・・・・歩くのが、めちゃくちゃ速え!小走りしているのに、全然追いつけない。途中から、本気走りになる。
あっちは悠々と歩いているのに、差があんまり縮まらない。
「おらおら!おいてっちまうぞ」
必死についていく。これだけで、トレーニングになりそう。
マルゲリータさんは、ズンズン歩きながら振り向いて笑った。片方の口の端をクイッとあげるその笑顔は、私にはとてもカッコよく見えた。




