休日は、全力でグータラと
昨日に引き続いて、テスト明けの休日。今日は久しぶりに予定がない。
最近、オルガと他の人との好感度をあげるために積極的にお出かけすることが多かったり、キャンプだったりテストだったりと学園でのイベントも続いてドタバタしていたので、こうしてのんびりするのは、はじめてかもしれない。
英気を養うために、しっかり休んでいこう。
大きなベッドの上をゴロゴロ転がって、漫画を読んだりしてのんびりとすごす。いやあ~テストも無事終わったし、やらなくちゃいけないことも、特にないので気分がよい。
私は大いなる開放感に浸っております・・・
今現在、横になっているこのベッド・・・すごく大きくて寝心地抜群だ!
私が両手両足を目いっぱい広げても、スペースはまだ十分にある。
三人くらいは余裕で寝られるぞ。
でも、どうやらこれは一人用のものらしい。これこそが、贅沢ってやつなんだろう。
ふっかふかで体が沈んでいくような感じ・・・もう、すぐに眠ってしまいそうになる。
「あなた、そこでなにしてるのよ」
声が降ってきた。目を開けて見上げてみると、オルガが立ったまま私をにらみつけている。
オルガを下から見る、このアングルはなんとも新鮮である。
メイドとしては、よろしくないんだろうけど、いちいち起きあがるのも面倒なので、そのままの姿勢で返事をする。
「こんにちは。ベッドでくつろいでおります」
「ここは、私のベッドじゃないの!」
グイッと顔を近づけてくる。おおっ!私の好きな顔が、目の前に!
「大丈夫です。ちゃんと知ってますから、ご安心を」
私は読んでいた本をふたたび読みはじめる。
「あなたねえ!」
ピクピクと額に青筋が立っている。どうやら、ご機嫌ナナメな様子だ。
「大丈夫ですか?カルシウム不足には、やはり牛乳がいいそうですよ」
ご主人の健康を気遣うのも大事だ。オルガもきっと疲れているんだろう。
「怒らせてるのはあなたでしょうが!」
私?なんだろう。身に覚えがありすぎて、逆に分からない。この前、ふざけてオルガの私服をこっそり着てみたのがバレたのかな?
それとも、昨日、ごはんをおかわりしまくったことかしら。
「え~と、なにかしましたっけ?私?」
分からない時はちゃんと聞く。これは大切だ。
「今!私のベッドの上にいるでしょうが!」
「はい、います」
「はいじゃない!下りなさい~!」
オルガは、私の服を引っ張って引き摺り下ろそうとしてくる。
でも、そこでされるがままでは、オルガに仕えるメイドとして情けない。なので、私はベッドの縁につかまって必死に耐える。
「主人のベッドで寝るメイドが、どこにいるっていうのよ~!」
「ここにおりま~す」
「あなたねえ!」
と、私たちは、今日も主人とメイドのほほえましいコミュニケーションに励んでいるのであった。
「こんなところで寝ないで、自分の部屋があるでしょうが!」
そうなのだ。
実はアルジェリー家では、なんと、各メイドに個室が与えられているのである!すごいね!
さすがにオルガの部屋に比べたら質素な感じだけど、本棚もクローゼットもあり、大きな机もある。もちろん、ベッドだってちゃんとある。十分と言っていいほどの広さだ。
不満があるとすると、部屋からおトイレまで遠いので、夜、ちと怖いところかしら。ここは、メイドに優しい環境なのである。
ではなぜ、そんな私がオルガの部屋にいるのかというと、オルガの部屋のベッドを整えているためにやってきたのだ。
シーツをとりかえて、枕と掛け布団を寝やすい位置に調整する――メイドとしてのお仕事の途中というわけ。
学園生活をサポートするのが、私の主な業務だけど、お屋敷の中でも洗濯やお掃除、料理なんかの家事全般もちょこちょこお手伝いしているので、こうしてオルガの部屋に来て、仕事をすることもある。
今はいったん休憩のお時間。ベッドで横になって、本棚にある小説なんかを勝手に読んで楽しんでいたところだ。
「オルガ様って、こういうロマンティックな物語も読むんですね」
私は、手に持っている小説をオルガに見せた。
「な、なに勝手に主人の本を読んでいるのよ!」
「いや、やはりご主人様の嗜好は把握しておきませんと!」
「返しなさい!」
ひったくられ、奪われてしまった・・・。チェ、けっこうおもしろかったのに。
また今度読もうっと。
「はあ・・・そもそもなんのために部屋に入ったのよ、あなたは」
呆れながらも、事情を聞いてくれるところに優しさを感じる。
「ベッドメイキングです。しっかりと寝心地よく、整えて差しあげますよ」
「ぐしゃぐしゃなのだけど」
しわだらけのシーツを指差した。私がゴロゴロしていたので当然、めちゃくちゃ乱れている。
「大丈夫です。ほら、こうすれば」
逆方向に転がっていくことで、くしゃっとなってしまったベッドシーツもきれいに・・・
・・・ならなかった。
それどころか、もっとぐちゃぐちゃである。
あれ?私のイメージトレーニングでは、こうやってやればピシッと、いい感じになるはずなのに・・・。
「普通に、立って、手でやりなさい」
オルガは淡々と、言葉を区切りながら言った。
その表情をうかがってみると、そんなに怒ってはいなさそう。それどころか、なんとも平静というか、とても穏やかに見える。
・・・私は、野生の勘で察知する。これはたぶん、これ以上ふざけるとマズいやつだ。
爆速で立ちあがって、本を本棚に戻し、いつもより何倍も丁寧に角のところは両手を使ってピシッとシーツのしわを伸ばして布団を整える。
一応、ちゃんとやろうと思えばできるのである。面倒なので、あんまりやらないだけで。
何度もしわがないのを指差し確認してから、報告する。
「できました」
「よろしい」
いつものツンとした顔に戻っている。
よかったあ・・・。
本気でブチギレられる何歩か手前、もうちょっと行くと断崖絶壁が見える地点に、気づかないうちに近づいてしまっていたようだ。
危なかった・・・もう少し今度から気をつけよう。
・・・というわけで、今度は椅子に座って、本を読む。ここなら怒られまい。
「ちょっと、用事がすんだなら出て行きなさい」
「いえ、今この小説、いいところなんで・・・」
「自分で買って読みなさい!」
「オルガ様、そんなにケチだと、早死にしますよ」
「い・い・か・ら!返しなさい!」
強引にとりあげようとするオルガを避けて、部屋を軽く走りながら距離をとる。オルガが追いかけて来て、私たちは軽く追いかけっこしている感じになった。
「けっこう速いですね!さすがオルガ様」
「そんなこと褒められても、うれしくないわよ!」
と、そうやって和やかな時間を過ごしていると・・・
トントンと扉をノックする音が響いた。
「失礼します」
一言、向こうから声がすると、ゆっくりと扉が開いた。




