おデートなるものを、教えてもらおう
「・・・・・・・と、さっきまで考えていましたが、気が変わりました。これはよい機会です。オルガ様とエドワード様に、デートというものを見せていただきたいと思うのです」
私は、思いついたことを口にしてみる。
「・・・は?」
「どういうことだ!?」
いきなり言われたオルガとエドワードは、私がなにを言っているのか、その意味がよく分からないみたい。
まあ、私も、ただデートしているのが見てみたいという、完全なる私利私欲に基づく発言なので、意味が分からなくて当然だ。
そんなものは、ない!
「デデデ、デートォ?」
『デート』というなかなか興味深いワードを耳にしたアルスが、すごい勢いで走って来た。
「ちょっと、エリーゼ!説明しなさい!意味が分からない。あと、この不審者はだれ!?」
オルガは、私の横に立つ、カツラをかぶり、つけひげをつけたアリスを指さした。
あ・・・まだ変装したままだった。
オルガからすれば、いきなりデートがをしろと言われたと思ったら、カツラ姿の女性が現れたのだから、そりゃびっくりして混乱するだろう。
「私です。アリスです」
変装を解いて、アリスが素顔を見せる。すると、
「これは、なに?」
オルガとエドワードが、同時に言った。こういうところでは息が合っている。なんか、すごい冷た~い顔をして『くだらないことしてるな、こいつら』って感じの顔で、私たちを見る。
呆れ顔だけど、内心では、変装しているアリスの、普段と違う姿に、『あら?アリスって意外とユーモアがあるのね、かわいらしいところあるわ~』な~んて、いい感じに受けとってくれて、好感度が爆増、そして、いつの間にかグッドエンドへの道が開けていって、めでたしめでたし。
・・・・なんてことにはたぶん、ならないんだろうなあ。
むしろ、好感度があがるどころか、『なんだこいつ』って冷めて、評価が下がっている可能性すらある。
「私たちがあなたたちのためにデートするだなんて、お断りよ」
そして案の定、すぐに断られた。
・・・まあ、でもここまでは予想の範囲内だ。逆に、すぐに『いいわよ』なんて言われたら、こっちが驚く。オルガが、そんなノリがいいわけない。風邪でも引いているんじゃないかと、体調が心配になる。
あっさり拒否されたということで、次の作戦だ。
「・・・・・・そうですか・・・残念です。オルガ様とエドワード様のデート・・・さぞ後学のためになると思ったのですが・・・」
私は、大げさに肩を落とす。ここはやりすぎなくらい大げさにやる。
「後学とは、どういうことだ?」
エドワードが聞いてきた。
よしよし、よく聞いてくれました。
「ええ。私・・・恥ずかしながらデートの経験が皆無でして・・・オルガ様とエドワード様ならば、それはそれは素敵なデートをなさるだろうから、ぜひ見せていただき、模範にしたいと、こう思ったのです」
「・・・私たちが、素敵なデートを・・・」
オルガの眼の色が変わった。なんか微妙にニヤけている。
「・・・ふむ・・・俺たちが・・・素敵・・・模範・・・」
エドワードはアゴをさすって、なにか冷静に考えているような素振りをしているけど、笑みがこぼれちゃっている。笑わないようにこらえているので、若干表情が、不気味である。
二人とも嫌そうじゃないな。よし!ここで追撃だ。
「平民であるアリス様に、貴族のおデートを、見せつけてあげてください!」
バシッとトドメの一撃。これでどうだ!
・・・・
しばし沈黙の後・・・
「・・・・・仕方ないわね。この平民に、貴族の嗜みを教えてあげないとね」
オルガは髪をいじくりながら、照れているのか、こちらをチラチラとうかがっている。
「ふん・・・まあ、そこまで頼まれたら誇り高き貴族として、断るわけにはいかんな。いいだろう。貴様に、デートのなんたるかを教えてやる!」
エドワードはなんかやる気に燃えている。
・・・燃えているのだけど、デートに関してはこの二人、初心者も初心者である。仲があんまりよくないので、一緒に出かけたことすら、ほとんどないはず。
デートなんて、初めてなのでは?
言い出しっぺの私がこんなこと思うのはよくないんだろうけど
・・・正直不安がよぎる。
なんか変な場所に行こうとか言い出したら、その時は全力でとめよう。
期待半分、不安半分といったところで、私とアリスはオルガとエドワードの後についていくことにした。
「あの~オルガ様とエドワード様って仲いいのですか?あまり二人きりでお話ししているのを、見たことがなかったもので・・・」
アリスが、心配そうに言った。
「婚約者なんですけどね・・・」
「そうですよね・・・」
私とアリスは、じっと二人を見守る。
前を進むオルガとエドワードは・・・明らかにぎこちなかった。
『デート』というのを意識してなのか、横に並んで歩いているのだけど、距離が離れたかな~と思ったら、少し近づいて、なかなかいい感じに近づいてるな~と観察していると、また離れたりして全然落ち着かない。
そもそも、どこへ向かっているのかさっぱり分からない。二人の背中は、すごく不安そうにゆらゆらと揺れていた。
ここで私が先導して、いろいろと面倒を見てもいいのだけど、でもそれだと、あまりよくない気もする。
いくらメイドといえど、ご主人に干渉しすぎるのはよくない。・・・まあ、尾行してた私が言っても説得力はゼロなんだけどね!
「よ、よし・・・ここなんかどうだ?」
エドワードは、大きな公園を指さした。
「ええ、そ、そうね。あなたにしては、まあまあ、悪くないチョイスだわ」
「ふん・・・当然だ」
「はっ・・・なに?少し褒めたら調子にでも乗った?」
「なんだと・・・?」
おっと・・・ケンカがはじまりそうな不穏な気配がする。ここは、私の出番かな?と、そう思って、フォローする言葉を考えていると、
「あの・・・二人はデートしてるんですよね。それなら、もう少し楽しんだ方がいいんじゃないでしょうか」
アリスが遠慮がちにではあるけれど、オルガとエドワードにとって、けっこうハードな一言をぶちこんだ。
「楽・・・しむ・・・?」
オルガとエドワードの二人は、きょとんと顔を見合わせた。
・・・楽しむなんて、どうやら思ってもみなかったことらしい。たぶん、私とアリスにデートを見せつけることだけ考えていたんだろう。
果たして、この二人は、貴族らしい素晴らしいデートができるのだろうか。そもそも、ごく普通のデートも、できるのか怪しい感じがするんだけど・・・。
私の中で『この二人、大丈夫か』という不安が、ふたたび膨らんできたのであった・・・。




