尾行するメイド
テスト明けの休日。
今、私・・・メイドのエリーゼは、人生初の尾行なるものをしております・・・。サングラスをかけて、このパッチリで美しい目を隠し、頭にスカーフを巻くことで、品のよさを演出、完璧に別人となっております。
見つからないように、ある程度距離をとりながら、歩いていく。
私の視線の先にいるのは・・・
オルガだ。
『出かけてくる』とだけ言って彼女は家を出たので、これはなにかある!と私のセンサーがビビッと反応。すぐに、尾行しようと思いついたのだった。
・・・・・決して、家事が面倒だったわけではない・・・決して。
こうして、すっかり周りの人に溶け込んでいた私が慎重にオルガの様子を確認していると、
「なにしてるんですか?エリーゼ様」
・・・・・速攻でバレた。お出かけ中のアリスが普通に声をかけてきた。
気づいた・・・だと・・・この完全無欠な変装を・・・。
「しっ!私はミッションの遂行中なのです」
オルガにバレたら、せっかくの尾行が台無しなので、アリスを街路樹の後ろに隠れるように促す。
「えっ!いったいだれを?!」
後ろから、私の視線の先にだれがいるのか、アリスはたしかめようとしていた。
「オルガ様が、一人でどこかへお出かけになったのです」
「・・・へ?」
アリスの口から間の抜けた声が出た。
「これは看過できません。メイドたるもの、ご主人の頭からつま先まで、あらゆることを知らなければいけないのです」
「・・・ご友人と会ってるとかでは?」
「オルガ様に友だち、いると思います?」
「・・・・・・・なんか、すみません」
謝られるのも、ちょっと悲しい。
・・・私とアリスとの間に冷たい風が吹き抜けた気がした。オルガって友だちいないんだよなあ・・・。私がいろいろと動くことで、アリスたちと関係ができつつあるけど、まだまだ、友だちいっぱいのエンジョイ学園ライフまでの道のりは、険しいようだ。
「大丈夫ですよ!ほら、私もイングリッドちゃんしかいませんし・・・」
「なるほど!たしかに!」
「あの~なるほどって元気よく言われるのは、ちょっと・・・」
どうして私たちは道の真ん中で、友だちの少なさを確認しあって悲しい気持ちになっているのだろう。
と、いけない。オルガが歩き出した。追わないと見逃してしまう。
「アリス様も、こうなったら一緒に尾行しましょう」
「え?私も!?」
「そうです。気になりません?」
「え?別に・・・」
なにか言いかけたところを、気配を察知した私は、アリスの肩をガシッとつかみ
「なりますよね?」
と、しっかり確認。顔を至近距離まで近づけて、目をじっと見つめる。
「あ・・・えっと・・はい・・・」
ほとんど無理やりだけど、うなずいてくれたぞ。
「では行きましょう。はい、こちらで変装してください」
予備に持っておいた変装グッズをアリスに渡す。
「なんです?これ?」
「カツラと、つけひげです」
「かえって目立つんじゃ?」
なんて、ブツブツと文句を言いながらも、ちゃんと身に着けてくれるのは、アリスの人のよさだな。
ふむ・・・
かわいらしい顔に似合わない、爆発したみたいな髪型のカツラと、鼻の下にちょこんとついたひげが、すごいうさんくさい。周りから見たら、絶対怪しい人だ。
似合ってなくて、それが、とてもかわいい!いや~いいものを見られた。
「いいのです。ほら、よく言うじゃないですか、木を見て森を見ず・・・と」
「絶対そのことわざ、今の場面で使うやつじゃないです」
アリスの方が勉強できるのを忘れていた。適当にごまかすはずが、あえなく失敗。
よし、かくなるうえは、
「さあ、早く行きましょう」
「あ、ちょっと待ってください」
ここは、強引に話を終わらせて、オルガを追いかけることにする。
さて、オルガは町の中心の時計台の前にいた。どうやら、だれかと待ち合わせでもしているらしい。
私たちはパンケーキ屋さんの看板の裏に隠れて、オルガの様子をそっと見守っている。ジロジロと見られているけど、そこは気にしない方向でいこう。
「だれかと待ち合わせでしょうか・・?」
アリスが、ぼそっと言った。
「見当がつきませんね」
だれだろう?気になる・・・。
しばらく待っていると、そこに現れたのは・・・・・・
なんとエドワードだ。相変わらずムスッとした顔をしているが、別に機嫌が悪いわけじゃなくて、基本の表情がこれなのである。
「お二人は婚約者同士ですもんね。それなら納得です」
アリスが、ポンと手を叩いた。
「たしかに、おかしくはありませんが・・・」
と、返事をしたものの、あの素直じゃない二人が、デートとか遊びに行くなんてするのだろうか?なんか怪しいぞ・・・裏でもあるのかしら?
オルガが、カバンからなにかをとり出している。
・・・ん?
小さな黒っぽい箱だ。なにかすごいものでも入っているのかな?暗号が隠されている?それとも・・・愛の贈り物的な!?
いつの間に親しくなったのだろう・・・。私の知る限り、好感度はまだ、そこまでは高くないはずだぞ。
エドワードは、箱の中をたしかめて、なにかとり出している。
じっと目を凝らして見てみると・・・
ん?ペンだ。
よく箱を見ると、この前の勉強会の時にエドワードが持って来ていたペンケースに似ている。
はは~ん。分かった。オルガの家への忘れ物だ。ペンケースを忘れて、それを届けてもらっていたらしい。
な~んだ。
でも、わざわざ届けてあげるとは意外に、オルガって親切だな。こんな時『どうして私が行かなくちゃいけないのよ。あなたが来なさい』とか、言いそうなのに。
エドワードはケースをカバンにしまうと、
「悪かったな。わざわざ来させて」
「別に、ほんのついで。ありがたく思うことね」
だそうです。彼女なりの照れ隠しなのか、ほんとにただのついでなのかは分からない。
「持って行ってあげるなんて、意外と優しいんですね」
アリスが言った。
やっぱりアリスにとっても、意外な行動だったみたい。忘れ物を届けてあげることが『意外』とは・・・オルガって、普段どんだけイメージが悪いんだと、ちょっと切なくなってくるな。
「じゃあ」
「ああ、またな」
ケースを返し終えると、そのまま二人は別れようとしている。
え?もう終わり?
そう思った私は、思わず二人の前に飛び出した。
「ちょっとお待ちを!」
「ひゃあ!」
「どわあっ!」
オルガとエドワードは、いきなり現れた私にビックリして、声をあげる。
ただ忘れ物を返して、はい終わり、解散というのはもったいない。
そこで私は、とっさに口を開く。
「みなさんで、一緒に遊びに行きましょう!」
「・・・へ?」
急に言ったので、みんな、きょとんとしている。
この後のプランはなにも考えてないけど、とりあえず勢いが大事だ。
私は、そのまま言葉をつづけた。




