ある戦い(テスト)の終わり
燃え尽きた・・・真っ白に・・・燃え尽きた・・・。
テスト週間は、嵐のようにやって来て、私たちを振り回して、過ぎていった。
『はい、そこまで』と先生の声が聞こえ、ペンを置いた瞬間に、なんか肩や背中に巨大な岩でも乗せられたんじゃないかってくらい、気だるくなった。
つ、疲れた・・・。体が重すぎる。全身が錆びついたみたいに硬い。
へなへなと机に突っ伏した。重た~い首をロボットみたいにギコギコと動かして、横目で他の人の様子を確認してみる。
オルガは・・・平然としている。筆箱を片づけて、カバンをゴソゴソと整理したり、明日の予定を手帳でチェックしたりと、いつも通りの放課後を過ごしている。な~んにも変化なし。そのドライな顔は、今日も健在だ。単に日常の延長って感じなんだな。さすがである。
エドワードは・・・問題を確認している。軽く自己採点でもしているのだろう。
・・・真面目だ。私なんて、もう問題を見直したくもないぞ。テストが終わっても気を緩めないその姿勢は、えらい。私の中でのエドワードの評価が微増した。
ギュスターヴ・・・隣の席のクラスメイトと楽しそうにおしゃべりしている。『大変だったね』なんて、優しい言葉なんかをかけちゃってる。その余裕・・・うらやましい。うらやましくて、ちょっとイラっとくるほどだ。
アリス・・・大きく深呼吸して、緊張でこわばった体をほぐしている。赤点とか留年とか、そういうものとは縁がなさそうな、ホッとした顔をしている。腕をぐるぐる回していると、机に肘をぶつけた。痛そうである。
アルベルト・・・机の上でグデ~としている。ピクリとも動かない。周りの人は怖がって近づかない。時々、いらずらで突っつこうとする男子を、他の人が全力でとめていた。もう力が尽きて、立ちあがれないんだろう。
イングリッド・・・正面を見たまま、放心状態。ここじゃないどこかを見つめて、アンニュイなお顔をしている。意識がこっちに戻ってくるまで、もう少し時間がかかりそうだ。
私は、首を元の位置に戻して、あごを机につけたまま、ぼうっとしていた。
「さっさと帰るわよ」
頭にカバンの重みがのしかかってきた。角の固い部分が当たって痛い。顔をあげると、オルガがいつものツンケンした顔で立っている。
「土にですか?」
「そんなわけないでしょ!」
頬っぺたをギュウギュウされる。
「ひあひへふへほ、ほへはひひ!」
「ニヤニヤして気持ち悪いわね!」
これこれ、この罵倒・・・なんだか疲れた体に染み渡る。
「ありがとうございます」
お礼を言っておこう。
「相変わらずね。まあ、その様子だと、テストは上手くいったようね」
「いえ」
「・・・・・・は?」
私の返事を聞いて、オルガの顔色がサッと変わる。
「『少しだけ』、上手くいきました」
そう言うと、オルガは、ホッ胸をなでおろして、
「はぁ~~~。驚かさないで」
大きなため息をついた。
「お気遣いありがとうございます」
「ち、違うわよ」
照れているけど、どうやら、けっこう本気で心配してくれているようだ。
まあ、自分の家のメイドが赤点とって補習だなんて、よく考えるとヤバい。いや、よく考えなくてもヤバい。でも、そういう、貴族としてのプライドとかじゃなくて、友だちとして心配してくれていると、私としては非常にうれしい。
「ほら、立ちなさい。もう放課後だから、帰るわよ。休むなら帰ってから休むことね」
「もう体が鉄です。鉄塊です」
そんなに誇張してない表現である。それくらい重いのだ。
「いいから!立ちなさい~~」
後ろから抱えあげるようにして、椅子から立たされる。わお、これは楽だ・・・。このまま家までぜひ運んでもらいたい。
「おお~立てました」
「ほら、行くわよ」
ズルズルと引きずられていく。
「わーさらわれるーーー」
「淡々とした声で変なこと言わないでくれる?ほら、さっさと歩きなさい」
さすがにこのまま運んではくれないか・・・当たり前だけどね。でも、立たせてもらえて、やっと帰る気がわいてきた。だれにも起こしてもらえなければ、動けないまま学校で一夜を明かすところだった。
しかし、動けないでいる人がもう二名いる。
イングリッドとアルベルト・・・。二人とも微動だにしてない。イングリッドはそのまま遠くを見続けているし、アルベルトは、突っ伏したままだ。
「今こそ出番ですよ」
私は、のほほんとしているアリスと、ギュスターヴに声をかけた。『え?』って顔をするので、
「イングリッド様と、アルベルト様が、まだこちらの世界に戻ってきておりません」
「わあっ!?ほんとですね・・・どうしたの、おーいイングリッドちゃーん!」
手を目の前で振ったり、パンパンと叩いてみても、無反応。
「これは、なかなか重症だね・・・」
ギュスターヴが困ったように肩をすくめた。
「まどろっこしいわね。こうすれば覚めるでしょ!」
オルガが、教科書でイングリッドの頭をバチーンと叩いた。
「いだ~~~~~!なに?敵襲!?」
キョロキョロしているイングリッド。ほんとに心ここにあらずだったようだ。しかし、真っ先に敵襲を疑うのは、普段どんな生活を送っているのか、とても気になる。
「やっと起きた~よかった~」
アリスが頭をさすってあげている。なんとも、仲睦まじい姿である。
続いて、オルガはズンズン歩いて、今度はアルベルトの元へ到着。イングリッドには一発だけだったけど、『なんかにぶそうだから』という理由で、起きるまでバッコンバッコン叩いていた。叩いている時、薄っすら笑みを浮かべているのが、なかなか悪役令嬢として様になっている。
「な、なんだ!?地震か!?」
ガバッとアルベルトは顔を起こした。
これでようやく、二人ともこちらの世界に戻ってきたようだ。
「さあ、帰ろうよ」
ギュスターヴに促されて、みんなで一緒の帰り道を歩いていく。
私とイングリッド、アルベルトの三人は、足元がおぼつかなくて、あっちへふらふら~こっちへふらふら~としていた。
周りから見たら、変な人たちだと思われるだろうけど・・・なんか、そこは今はもうどうでもよくなっていた。
夕日が目に染みるような気がする。たぶん、目もだいぶ消耗してるんだろうな・・・。
クタクタなんだけど・・・なんだか気持ちのいい疲労感でもある。やり切ったっていうか、力を出し切ったからだ。
・・・まあ、たまにはこういうのも悪くないかな~なんて、ちょっとだけ思ったのであった。




