やって来た!テスト本番
さて、やって来ましたテスト本番の日。一日じゃなくて今日からほぼ一週間まるごと、テスト日程になる。
ゲームだと単に四択から選んでいくだけだから、そんなに苦労した記憶がないけど、今度は事情が違う。マジのテストである。
・・・・・・身震いしてきた。
昨日はちゃんと寝たし、テスト範囲はざっと復習しておいている。
あの勉強会の後も、放課後にイングリッドとアルベルトを誘って図書室でミニ勉強会を開いたりして、地道にコツコツと積み重ねてきた。
登校する時はもちろん、教科書を読みながら歩いてきました。周りからしたら、すごい真面目な学生に見えるんだろうな~。
・・・でも実際は逆である。不真面目だったので、ギリギリまで勉強するハメになっているのだ。
教室に入ると、イングリッドが、こっちに来て話しかけてくる。
「だだだだ、だだ、だだ大丈夫だよねっ!?」
口が全然回ってなくて、マシンガンみたいになってる。とりあえず、落ち着け。
「ええええええ、よ、よゆ、余裕ですよ」
私もダメだった。
「ななななな、情けねえぞ」
アルベルトは、声どころか、足も震わせながらこちらへやって来た。
全員、緊張しまくっている。勉強会で頑張った分だけ、重圧もかかってくるわけである。
このまま緊張にのみ込まれるのは、あんまりよろしくない気がするなあ。あれだけがんばったのだから、できれば落ち着いてのぞみたいところだ。
「来なさい!三人とも!」
だれかの声が聞こえた。私たちを呼んでいる。
仁王立ちしたオルガがいた。鬼コーチとして、なんだかんだ面倒を見てくれた彼女が、今日は頼もしく見える。
三人ともガチガチのまま、オルガの前へで整列する。イングリッドなんて、歩く時に手と足が同時に出ちゃっている。
「なにを、情けない顔をして!この私が見てあげたのよ。赤点ですって・・・?ハッ・・・とるわけがないでしょう。
もしとったら私は・・・・・・この腹を切ってやるわ!もちろん、あなたたちも一緒よ!!!」
なぜに切腹!?武士道なの?この国は。そして、なぜか私たちも強制的に巻き添えをくらった。
「ええ~~~~~!?せ、切腹ぅ!?なんでぇ!?」
イングリッドはびっくり仰天している。
さすがに冗談だろうけど、オルガの場合、本気に聞こえるのが怖いところだ。
「す、すげえ!なんか、カッコいいぜ!」
え~と・・・・・とりあえずアルベルトが、おバカなのは分かった。目を輝かせているのは、なんで?
・・・・・・Мなのか?ドMの変態か?
「そうよ!突き進むのよ!」
ほら~オルガを調子に乗らせちゃった。さすがに腹切りはないだろうけど、絶対ペナルティあるぞ、これ。
・・・・・ほんとに腹切ったりはしないよね・・・?
「さすがにお腹を切るのは、痛いですよ」
アリスがとめてくれた。でも、痛いくらいじゃすまないよ、アリス。普通に絶命ですよ、絶命。命が絶たれると書いて、絶命。
「痛いですって!?そんなこと言っているなんて、タルんでいるわ!あなたも、参加よ!」
「私も!?」
参加者が増えてしまった。変な勧誘はやめてほしい。
このままだと、オルガが勝手に切腹して、セルフバッドエンドをかましてしまう。変な気を起こさせないためにも、なにがなんでもテストをクリアしなければ。
三人集まって、円陣を組んだ。
「このままですと、われわれは死にます。いえ、オルガ様にぶっ殺されます」
「さすがに、冗談よね?」
イングリッドが不安そうな顔をしている。オルガの顔色をチラッと確認してみる。なんか目がギラギラしていて、怖い。
「え、違うのか!?」
アルベルトはなぜだか、ほんとじゃないことが意外らしい。
・・・自分の状況ってもんが分かっているのかしら?
「まあ、切腹する必要はないけど・・・頑張ってね。補習なんてなったら、けっこう大変だよ」
ギュスターヴが応援のために声をかけてくれた。
ゲームの補習イベントと違って、こっちはリアルに一週間くらい放課後に補習を受けなくちゃならない。
そして、補習の後で再テスト。それで、もしそれも不合格だと・・・・・・留年の二文字が現実味を帯びてくる。たぶん、救済措置みたいなのはあるんだろうけど、あまりそれを当てにしないほうがいいだろうな。
留年って言葉は・・・怖い。一番、聞きたくないぞ。オルガをバッドエンドの運命から救おうとしている人が『留年しちゃいました~』とかなったら、それどころじゃなくなる。
「大丈夫ですよ。みんな、あれだけ勉強したんですから」
アリスが私たちに気を使って、安心させようとしてくれている。ありがたい言葉だ。
「まあ、普通に・・・や、やればいけるんじゃないか?たぶん。まあ、その・・・しっかりやれ」
エドワードも、いつの間にかそばにいた。あっち見たりこっち見たりと、照れまくってて若干、挙動不審気味ではあるものの、励ましてくれている。
「そうそう。絶対大丈夫!いざとなったら、ぼくがなんとかしようか?」
王子様であるギュスターヴが言うと、本当になんとかできそうな気がする。と言うか、できるんだろう。まあ、最後の最後、本当にヤバくなったら頼んでみよう。
「ありがとうございます」
三人並んで、一緒に深々とみんなに頭を下げる。君たちの言葉、忘れないよ。
そして私はイングリッドとアルベルトの方に向き直って、
「みなさん、全力を尽くしましょう」
円陣を組みなおす。
「う、うんっ!」
「よ、よおし!やってやるぜ!」
私たちは、手を重ねて一緒に誓い合った。
「おお~~~!」
声を合わせた後、それぞれの席へ向かっていく。さながら、誇り高い戦士のように・・・。
みなさん、ご武運を・・・。私はその背中を敬礼して見送る。なんだか、その後ろ姿は、前に見た時よりも大きくたくましく感じられたのだった・・・・・・。
乙女ゲーム、『月下に咲く花』
・・・完!
「いつまでバカなことしてるの・・・はじまるわよ」
オルガに頭をはたかれた。
そうだ、他の人を見送っている場合じゃなかった。私も準備しよっと。
さて、どうなるか・・・。不安はあるけど、やるしかないな。
テストの開始時間は、もうすぐそこまで来ていた。




