イングリッドを味方につけよう
さて、ここはやはり、校外学習という機会を逃す手はない!
一緒にキャンプに行き、楽しくおしゃべりするのだ。
「アリス様が心配なのであれば、イングリッド様も班に入るのはいかがでしょう」
「え!?私も!?」
イングリッドからすると意外な提案だったみたいで、驚いた顔をしている。
「ええ、ぜひ」
「う~ん・・・」
腕を組んで、考え込んでいる。まあ、いきなりオーケーとはいかないよな。
よし、もう一押し。私は、イングリッドの耳元で、
「入っていただければ、アリス様ともっと仲良くなれるように、お手伝いします」
「え!?ほんと!?」
思ったより効果があったみたい。顔色がパッと明るくなった。すぐに咳払いをして、
「その手には乗らないから!」
よし、効いている。もうちょっとだ、もう少しなにかあれば・・・。
なにかないかな?
私は、ゲームをプレイしていた時の記憶を思い出す。
あ!そうだ。イングリッドは情報屋的なキャラクターだから、噂話とか、クラスメイトの情報とか、そういうのが大好きだったのだ。すごく基本的なところを忘れてた。
しかも、新聞部に所属しているので、特ダネになりそうなことを求めている。
「イングリッド様」
「な、なによ・・・」
「私の班には、ギュスターヴ様、エドワード様など、なかなか興味深い人たちがそろっております」
「興味深い・・・?」
「キャンプの開放的な雰囲気ならば、意外な一面が見られるかも・・・」
ハッと気づいた顔をして、イングリッドは言った。
「もしかして、特ダネとか、狙えるかな!?」
「保証はできませんが、協力はしますよ」
「ほんと!?」
めちゃくちゃニッコニコの顔である。
よし、いいぞ。
「どうでしょう。私たちの班にぜひ、入っていただきたいのですが」
あんまり強引にいきすぎると、イングリッドの場合は反発されてしまうかもしれないので丁寧にいこう。
「し、しょうがないな~。まあ、そこまで言われたら、入ってあげないこともないけど~」
「ありがとうございます。お礼になるか分かりませんが、一つお教えしましょう。ついこの間まで、ギュスターヴ様は私の名前を言えませんでした。まったく覚えていなかったんです」
「えっ!?そうなの?あんなにスマートで優しそうなのに・・・けっこう天然なとこあるんだ。・・・・・これは記事になるかも!」
イングリッドはさっそくメモをし始める。『うっかりさん?ギュスターヴ王子の意外な一面』という文字が見えた。
「わっ!ちょっと、あんまり他の人に言わないで!」
私たちの話が聞こえて、ギュスターヴが慌てて割って入ってきた。
「すみません。イングリッド様と、私たちが仲良くなるためです」
「そうよ!忘れていた己を恨みなさい!」
オルガから援護が来た。
恥ずかしがっているギュスターヴには悪いけど、なんとかイングリッドは、私たちの班へ入ってくれた。
んで、持ってくるものの分担の話し合いをしなくてはいけない。
「は~い、うち、商売やってるから、おいしいお肉とか野菜、安く手に入るかも」
イングリッドが、さっそくありがたい提案をしてくれた。
「では、食材はイングリッド様に任せましょう」
私は、役割をノートに書き留めておく。
「親父が凝っていてな、火おこしの道具や調理用具なんかは、たぶん一通り揃う」
エドワードが言った、エドワードのお父さん、ナイス!順調に、それぞれの役割が決まっていく。
「私は、お飲み物を持ってきましょう」
しっかり私も、飲み物担当という役目に立候補しておく。ふふふ、オルガの家は茶畑を所有しているので、家には自家製の紅茶があるのだ。これを持っていけば、バッチリ。
「じゃあ、ぼくはテントを持ってくるよ。家に大きいのがあるから」
ギュスターヴは、テント担当に決まる。しかし、この国の王子様の言う、『大きいテント』は、果たして私たちの常識の範囲内におさまるのだろうか、と。楽しみなような、ちょっと怖いような気もする。
「私は・・・?」
オルガが口を開いた。
必要なものは、あらかた担当が決まってしまった。
まあ、私もオルガと同じ家にいるので、飲み物担当と言っていい。でも、プライドの高いオルガのことだし、共同で担当するのは嫌がるだろうなあ。
そこで、私は言った。
「オルガ様は、コップや食事を取り分けるためのお皿などをお願いできますか?」
「はあ!?なによ、それ!?そんな、チマチマとしたものを持ってくるなんて、まるで召使いじゃない!」
文句を言いはじめた。
派手なものじゃないから、もしかしたら、あんまり気が進まないのではないかと思っていたけど、やっぱりか。
でも、ここはちゃんと伝えなきゃいけないことがある。
そう!こういうものが、実はとても大事なのだと!
「オルガ様・・・失礼ながら、コップやお皿は、キャンプにおいて一番大事といっても過言ではありません」
「はあ?」
「なぜなら、それらがなくては、いくらおいしいお茶や食材があろうとも、不便でしかたないからです。不便さは、キャンプの楽しさを著しく損ないます。いわばオルガ様は、みなさんがキャンプを楽しめるか否かの、その手綱を握っていると言っても過言ではないのです!」
私は、熱く訴えかけた。これは嘘じゃないぞ。お皿とかないのは、不便すぎる。
しばらく、私の熱量にぽかんとしていたオルガだったけど、
「そ、そお?じゃ、じゃあ私がその役目、引き受けなくもないけど・・・」
ごにょごにょ言いながらも、ちょっとうれしそう。役割の重大さを分ってくれたみたいだ。
よし、無事に決まったぞ。
と思っていると、
「あの~私は・・・?」
一人、残っていたぁ!
このゲームの主人公、アリスだ。一人だけ役割なしはマズい。
なにかあったかな・・・。私は頭をフル回転させる。
・・・・・・
・・・・・
あ、あった!
「アリス様、あります!大切な役目が」
「は、はい」
私は深呼吸して、言葉を発する。
「それは・・・・・・シートです!」
「シート?」
「そうです。シートは大事ですよ。汚れないで座る場所を確保できます。もし、なかったら立ったまま食べないといけません」
「な、なるほど」
「あと、シートは大きい方が快適です。他のみなさんは、いろいろと荷物があるので、持っていく余裕がないですから、アリス様がやってくれると非常に助かります」
まあ、オルガもシートを持って来る余裕はあるんだろうけど、そこは、この際いいのだ!
「お願い・・・できますか?」
私は、がっしりとアリスの手を握る。
「は、はいっ!」
アリスは、目を輝かせてうなずいた。
守りたい、この瞳のきらめき。
こうして、班決めは、なんとか終わったのであった。




