迷っている時間って楽しい
みんな着席すると、女性陣は、メニューをさっそく手に取り、凝視している。
アリスはちょっと目が血走っていて、怖い。
オルガはなんか優雅にメニューを広げて、慣れている雰囲気をだしているけど、昨日この店のチラシを念入りに読み込んでいたのを、私は知っている。
「ほら、ここからが、甘くないパンケーキよ」
メニューを指さしながら、ちょっと誇らしげに私に見せてくる。なんだか、珍しいものを見つけた小さな子供みたいだなと思った。
「氷の女王」って異名は、果たしてどこへいったのか。
でも、かわいいので、許す!大いに、許していきたい。
「あ、いろいろありますね」
ここは、話に乗っていく。うれしそうなオルガをもっと見ていたい。
どれどれ。ベーコンやソーセージ、目玉焼きが乗っかっているやつがある。これはカロリー高そう。
オルガも、ここらへんのハイカロリーメニューはスルーしている。やはり貴族たるもの、スタイルの維持にも気を使っているのかもしれない。
「これが、栄養のバランスがいいのよ」
「お~さすがです。オルガ様」
オルガは、顔には出さないけど、うきうきした様子で見せてきたのは、魚と野菜の乗ったパンケーキだ。
甘いものが苦手な人でも、これならいけそう。しかも、これは生地がじゃがいもで、できているらしい。
・・・・・おいしそう。
誘惑に負けそうになる。けど、今日は違うんだ。甘いものの口なのである。
私はイチゴのやつを食べる!
ゲームでアリスが食べてたやつ。それに決めているから、他のにはいかないぞ。
私とオルガが、メニューを眺めながら楽しんでいると、眉間にしわを寄せながら、すごい真剣な顔で悩んでいる人がいる。
「ふうん、まあ、なかなかだな」
と、エドワードはパラパラとメニューをさりげない感じで見ている。でも、隅から隅までじっくりと、細かいところまで読んでいる。
シェフのこだわりの説明文まで、じっくりと。
・・・・・すごい熱心だな。
「ふん、下手なものを頼んで失敗したら、後悔するからな」
だれも聞いていないのに、言い訳している。
「楽しんでいるようですね」
私が声をかけると、
「ば、バカ言え!そんなことはない。・・・・・・・ま、まあつまらんとは言わんが・・・」
慌てたように、ごにょごにょと言うと、メニューで顔を隠してしまった。あれ?もしかして、エドワードってクール系かと思ってたけど・・・かわいい系?
私の中で、エドワードの評価が改まった。
『エドワードはからかうと、意外とかわいい』と、心の中にメモしておく。
一方、アリスの様子はというと・・・・・・
こっちも、メニューとにらめっこ状態。顔がめちゃくちゃ近い。
もう、メニューから得られる情報を一つでも逃すまいと、気合が入りまくっている。
「ふん・・・そんなじっと見ても無駄よ」
オルガから、冷ややかな言葉が飛んだ。
「で、でもいいのを選びたいじゃないですか」
「のろのろしているの、嫌いなの。さっさと決めて」
容赦ない。
「別にいいじゃないですかっ!これが楽しいんです!」
分かるなあ~。迷っている時が楽しいんだよね。むしろ、食べている時間よりも、これの方がおもしろい可能性すらある。
でも、オルガの発言で、ちょっと場の空気がピリつきしはじめた。
・・・・このままだとマズいかも。
よし、私の出番が来たようね!
「アリス様。オルガ様は、こうおっしゃりたいのです。時には決断が必要な時もあるのだと」
「そんないい感じのこと言ってました!?もっと冷たかったような・・・」
さすがに、疑われた。でも、めげないのが大事だ。ここで引かないのが、よきメイドである。
私は言葉を続ける。
「行間を読むというやつですよ。その言葉の裏にある真意をくみ取るのです」
「な、なるほど・・・・・・そう言われると・・・そうなのかも」
なんか納得してくれた。やっぱり、あきらめないって大事だ。
守りたい、この聞き分けのよさ。
「ちょ、ちょっと!なに勝手に納得しているのよ」
オルガが割り込んできた。
チッ・・・余計なことを。
「ちょっと邪魔しないでください。今、いい感じなので」
「え!?私が邪魔ってなんなの!?」
わーわー言っているのを放っておいて、アリスと一緒にメニューを見る。
「私は、これがおいしそうかな~って」
アリスがメニューを指さして言った。それは、私が頼もうと思っていたものだ。
「あ、イチゴのですね。私はそれを頼もうとしていたんです」
「そうなんですか!?いいですよね、やっぱり。でも、こっちのチョコのもおいしそうで」
あ~分かる~。それもおいしそう。メニューの説明を読むと、クルミとかいろいろ乗っているらしい。
その2択は、共感できる。
よし、ならばと、私はこう提案する。
「なるほど。では、私と分け合うというのはどうですか?私がイチゴのものを頼むので、アリス様はチョコを注文するのです」
「え!?いいんですかっ!」
アリスの目がすごい輝いている。そこは盲点だったという顔。ふふふ、ナイスアイディアでしょ?
「もちろんです」
「じゃあ。これ、これにしますっ!」
うれしそうに、チョコレートのパンケーキを指すアリス。ちょっと体がぴょんぴょんと跳ねているのが、めちゃかわいい。
私は、心の中にアリスの笑顔を刻み込んでおく。
これは他の人と来ている時にだけ使える、『シェア』という必殺技である。まあ、ただの『そっちの、ちょっとちょーだい』ってだけなんだけど。
「これでいいですよね。オルガ様も」
「え!?そ、そうね・・・・私としては、はやく決まれば、かまわないわ」
よし、オルガもこれ以上は文句はないようだ。
「どうかな?みんな決まったかな?」
ギュスターヴが口を開いた。だいぶ前からメニューを閉じて、待っていたみたい。文句も言わずにニコニコしながら待っているところが、オルガとかエドワードとは違うところだ。大人の余裕的なものを感じる。
「俺も、決まったぞ・・・」
ずっと喋らなかったエドワードが、ゆっくりメニューを閉じて、なにか決意したみたいな、すごい真剣な顔をしている。
声も真剣そのもの。
密かに一番、時間がかかっていた気がする。
でも、パンケーキを選ぶのに、そんなに深刻にならなくてもとは思う。
「それじゃあ、注文しようか」
ギュスターヴが、店員さんを呼んだ。
みんな、それぞれ注文していく。
期待に胸を膨らまして、あとは待つばかり!




