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うちに秘めた思いは隠すもの

これからも多分、土、日曜辺りに更新すると思うのでよろしくお願いします。

ピピッ、と終了を告げる無機質なタイマーの音が鳴り響いた。

それと同時に、張り詰めていた俺の糸が切れ、意識は真っ逆さまに闇へと落ちていった。



『――まぁ、初めてにしては上出来な方ではないか?』


暗闇の中、どこか呆れたような声が響く。


『と言っても、大層お粗末な戦い振りだったがな。小僧、今のままではお前はただの無能な雑魚だ。大魔王オレの力を借りたいのなら、もっと精進することだな』


脳内で響く大魔王の、ありがたーい上から目線の説教。

それを聞き流すようにして、俺はようやく現実世界へと意識を浮上させた。


うっすらと目を開ける。

白い天井。微かに漂う消毒液の匂い。どうやら屋敷の医務室のベッドの上らしい。


そして、何より驚いたのは――ベッドのすぐ横に、ネルがいたことだった。

さっきまで闘技場で凶悪な隕石を放っていたはずの天才妹が、今は神妙な顔をして、大人しくリンゴの皮を剥いている。


「……あ」


ネルが、俺の意識が戻ったことに気がついて手を止めた。


「目が覚めたんですね。お兄様」

「あ、あぁ……。ところで俺、何時間くらい寝てた?」

「あの試験が終わってから、大体四時間くらいですね」


四時間。

思ったより短い気もしたが、大魔王の力を引き出した反動と、ネルにボコボコにされたダメージを考えれば、むしろよく四時間で起きられた方か。


そんなことを考えていると、ネルが複雑そうな表情で、ぽつりと口を開いた。


「お兄様。……お兄様はどうして、そこまでして学園に入りたいのですか?」


リンゴを載せた皿を見つめたまま、ネルは少し早口で言葉を重ねる。


「どうして、そこまでして強くなりたいのですか? ……まだ、お母様のことを引きずっているのですか?」


お母様――。

その単語が出た瞬間、胸の奥がキュッと締め付けられた。


俺たちの母親、星熊フユは数年前、俺の目の前で魔族に殺された。

力のない俺を庇って。

あの絶望の日から、俺の「強くなりたい」という執念は始まっている。


問い詰めるようなネルの横顔を見つめながら、俺は何も答えられなかった。


(……お兄様は、ずるいです)


皿の上のリンゴを見つめながら、ネルは必死に胸の動揺を抑え込んでいた。

本当は、分かっている。お兄様がどれほどの地獄を背負って、どれほど血を吐くような努力を重ねてきたか。


私は、昔からお兄様のことが大好きだった。

たとえ周囲からどれほど『無能』と蔑まれようとも、決して諦めずに前を向き、努力し続けるその背中に、誰よりも憧れを抱いていた。


けれど、だからこそ。

これ以上、お兄様が周囲から罵倒され、傷つけられる姿を見ていられなかったのも、また事実だった。

星熊家の看板は重い。才能のない者が上がってくれば、今以上の地獄が待っている。


だから――どれだけ自分の心が痛もうとも、私は悪役になって、お兄様の心をここで折ろうとしたのだ。安全な場所に、引き留めるために。


なのに、お兄様は土壇場で、あの恐ろしい『ナニカ』を覚醒させてみせた。

凄まじい衝撃と共に、私の隕石プライドを叩き割った、あの圧倒的な力。


(結局……私は、お兄様の心を折ることなんて、でききなかった)


一度火がついてしまったお兄様は、もう誰にも止められない。

だったら、妹である私がすべきことは、もう一つしかなかった。


ネルはリンゴの一片を俺の口元へと差し出し、それまでの神妙な顔をガラリと変えて、心からの、満面の笑みを浮かべた。


「ふふ、降参です。……試験は合格ですよ、お兄様。ようこそ、蒼白学園へ!」

因みに、言うのを忘れていましたが大魔王の声はサン君にしか聞こえません。(( _ _ ))

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