↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
毎晩モフっていた黒猫が、お疲れの青年貴族様でした  作者: くうちゃんママ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/10

第8話 私を追放した元婚約者は、自分の完璧主義のせいで孤立しているそうです

アルヴィン様の呪いが解けてから数日後。

私はいつものように、近所のおばさんたちとお茶を飲みながら日向ぼっこをしていた。


「リゼット先生、聞いたかい? 王宮で大変なことが起きてるらしいよ」

八百屋の奥さんが、声を潜めて教えてくれた。

「大変なこと、ですか?」

「ああ。王太子殿下の派閥の役人たちが、次々と倒れたり辞めたりしてるんだとさ。なんでも、殿下が無理難題ばかり押し付けるから、誰もついていけなくなったらしいよ」


その話を聞いて、私はふうむと小さく息を吐いた。

王宮の業務が麻痺している。その理由は、私には痛いほどよくわかった。

公爵令嬢時代、私はエドワード殿下の裏方として膨大な実務を処理していた。

その際、「誰でも無理なく仕事が回せる仕組み」をまとめた業務マニュアルを作成していたのだ。

私が追放された後、殿下は「可愛げのない女が残したゴミ」だと言って、そのマニュアルを破棄したのだろう。


完璧主義で、他人の少しの失敗も許さないエドワード殿下。

彼の基準で仕事を求められれば、普通の人間はすぐにすり減ってしまう。

私のように「殿下に認めてもらいたい」と必死に自己犠牲を払う人間がいなくなれば、組織が崩壊するのは時間の問題だったのだ。


「殿下は周りに当たり散らすばかりで、最後には見限られて一人ぼっちになっちまったそうだよ。自業自得だねえ」

奥さんの言葉に、私は静かにお茶を啜った。


前世の記憶では、悪役令嬢は断罪された後、必ず相手に「ざまぁ」と呼ばれる復讐を果たすことになっていた。

だけど、今の私の心には、暗い喜びも嘲笑もない。

「……私にはもう、関係のない話ですね」

温かいお茶の香りを胸いっぱいに吸い込みながら、私は微笑んだ。


私はもう、彼に認めてもらうために徹夜で計画書を書く必要はない。

完璧な令嬢の仮面を被って、息を潜めて生きる必要もない。

自分のペースで働き、失敗したら素直に笑い合える隣人がいて、そして――私の等身大の言葉で救われたと言ってくれる、不器用で優しいアルヴィン様がいる。

今、この日向の縁側で飲むお茶が、王宮で飲んでいた最高級の紅茶よりずっと美味しく感じる。

彼らが勝手に自滅して反省しているなら、それでいい。私の幸せの邪魔をしないのなら。


穏やかな午後を過ごし、日が落ちて冷たい風が吹き始めた頃。

私はボロ家の窓を閉め、夕食の準備をしようと立ち上がった。


コンコン。

控えめなノックの音が響いた。

アルヴィン様だろうか。彼は最近、人間の姿で堂々と夕食を一緒に食べに来るようになったのだ。

「はい、今開けますね」

笑顔で扉を開けた私の視界に飛び込んできたのは、アルヴィン様ではなかった。


「……リゼット」

そこに立っていたのは、見違えるほどやつれたエドワード殿下だった。

金髪は輝きを失い、目の下には濃いクマができている。

数日前に「壺のセールスマン」と勘違いして追い返した時の傲慢さは、見る影もなかった。


「こんな時間に、何かご用でしょうか」

私が警戒して一歩下がると、エドワード殿下は苦しそうに顔を歪めた。

「頼む、リゼット。俺の話を聞いてくれ」

彼の声には、深い疲労と、今まで彼が決して見せなかった「後悔」の響きが混ざっていた。

私は扉を閉める手を止め、静かに彼を見つめ返した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。