村の改革と旅立ちの決意
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
今回は、村での生活の集大成と、
物語が大きく動き出す前の重要な回になります。
リューイの決意と、
ティーナの想いが交差する瞬間を、
ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。
行商人たちを見送った後、僕は竜の村での生活を向上させるため、いくつかの小さな改革を提案し、実行に移した。
第一に、住居である穴蔵の入り口に、結び目を作ったツタのロープを垂らした。
ロープの代用品ではあるが、これで崖の昇り降りが格段に楽になる。魔物が襲撃してきた際は、ただツタを引き上げるだけで防衛できる寸法だ。
第二に、各家の中に石造りのカマドを設置し、家庭用の鍋を使った料理を指導した。
「通常の三倍の大きさで、赤く塗るとより美味しくなる」などと適当なホラを吹いて広めたのは、日頃の料理地獄に対する僕なりのささやかな復讐である。
これで各家庭の食生活のバランスも劇的に改善されるはずだ。
第三に、味噌と醤油の本格的な生産である。
醤油の作り方はナビから教わった。
これらは行商人のマリオンさんにも大絶賛され、ぜひ量産してほしいと依頼まで受けている。
産地の隠蔽方法などの課題はあるものの、うまくいけば村の貴重な資金源に化けるかもしれない。
もちろん、すべてがすぐに実現できるわけではないが、これらの功績が認められ、村長からお礼として絹の布を譲り受けた。
村の暮らしは、目に見えて変わり始めていた
さらに、魔物の皮をなめして木の板に張り、紐を通した簡素なサンダル風の靴も考案した。
これが村人たちに大好評を博したのだが、なぜかティーナだけは重い石でできた、お洒落なファー付きの特注サンダルを履いている。
何の修行なのだろうか…。
……本人は「可愛いので問題ありません」と真顔で言っていた。
竜の村での生活が始まり、早くも一ヶ月近くが経過した。
地球とは異なり四季の移ろいが緩やかなこの世界も、ようやく夏の終わりを迎えようとしている。まもなく訪れる秋には、ティーナの「成人の儀」が控えていた。
そんなある日、僕は一人で村長の家を訪ねていた。
「成人の儀が無事に済んだら、僕は村を出て旅立とうと考えています」
僕の言葉に、村長は少し驚いたような顔をした。
村長は一瞬だけ目を細め、それから静かに言った。
「ティーナが、ひどく悲しむでしょうな。して、どちらへ?」
「竜人族の故郷へ向かうつもりです」
僕はあらかじめ用意していたもっともらしい理由を口にする。
「ティーナと暮らしていた言語学者のおじいさんの手記に、彼の地に遺跡があると記されていました。そこを調査しつつ、味噌の材料となる麹菌も回収できればと」
――はい、大嘘です。僕の真の目的はただ一つ、「お米モドキ」である!
連日の肉とパン生活には、もう心底うんざりしていた。せっかく奇跡的に味噌と醤油が手に入ったのだ。味噌汁と白米の最強コラボレーションが、遥か遠くで僕を呼んでいるのである。
「なるほど……。では、ティーナも共に連れて行かれてはいかがかな?」
村長が思わぬ提案をしてきた。
「アレもリューイ殿にひどく懐いておりますし、こう見えても竜人族です。必ずや道中のお役に立つでしょう」
確かにティーナは素晴らしい娘だし、一緒にいたい気持ちは山々だ。しかし、僕の「お米モドキ回収」という極めて個人的な欲望のために、彼女を危険な旅へ巻き込むのはどうしても気が引けた。
「……非常に危険な旅になります。連れて行くのは躊躇われますが、本人の自主性を尊重したいと思います」
素直になれない自分のチキンっぷりを呪いつつ、僕は腹黒い回答でお茶を濁した。もしこれでティーナが断ってきたら、僕は毎晩涙で枕を濡らすことになるだろう。
「では、本日はこれで失礼します」
村長の家を辞した僕の耳元で、黒い尻尾を生やした悪魔の僕が囁きかけてくる。
『おい、今ならまだ間に合うぞ! 土下座してでも「ティーナと一緒に行きたいです」って頼み込め! そもそも村長はちゃんと伝えてくれるのか? 今しかないぞ、振り返れ!』
そんな内なる誘惑を必死に振り払い、僕は前を向いて歩き続けた。ティーナへの配慮などではない、すべては傷つくのを恐れる自分のチキンな性格のせいだ。
その夜、僕は後悔と不安で全く眠れず、見事に朝寝坊をかました。
もう起きたくない。今日は一日中サボってやる。「サボり記念日」だ。
布団の中でウジウジと現実逃避をしていると、いきなりティーナが、扉が壊れそうな勢いで部屋に飛び込んできた。
「リューイ様! 村長からお話を聞きました! 私も旅について行きます! よろしいですよね?」
寝癖のついた頭で身を起こし、彼女の顔を見つめる。村長がどう伝えたのかは定かではないが、ティーナの瞳は希望に満ちてキラキラと輝いていた。
「あぁ……ティーナが良ければ、僕も嬉しいよ!」
その眩しさに当てられ、僕はようやく素直な気持ちを口にすることができた。
それからは、怒涛の旅支度が始まった。
竜人族の故郷へ至るには、険しい山脈や過酷な砂漠を越えなければならない。あのおじいさんすら満身創痍で帰還したという魔境だ。準備に一切の妥協は許されない。
日中はティーナと共に迷いの森へ入り、食料を大量に調達しては四次元ポーチへ収納していく。そして夜は、過酷な旅に耐えうるための衣服を夜なべして縫い上げた。
さらに、ティーナが眠りについた後は、こっそりと彼女の「成人の儀」のための特別な衣装作りに取り掛かった。どうしてもサプライズで喜ばせたかったのだ。
そんな多忙な日々を乗り越え、成人の儀の前日にはすべての準備を整えることができた。
夜、家の囲炉裏を挟んで、僕はティーナに向き合った。
「明日は待ちに待った成人の儀だね。それが終わったら、いよいよ旅立ちだ」
炎の揺らめきを見つめながら、僕は静かに語りかける。
「これから先は厳しい旅になる。もしかしたら、もうこの村には戻れないかもしれない……。だからこそ、明日の成人の儀は心から楽しんでほしいんだ。僕も気合いを入れて、最高のご馳走をいっぱい作るからね! ……それと、これは、どうしても渡したくて」
そう言って、僕は背後に隠していた袋をティーナに差し出した。リボンなどの気の利いた装飾はない、素っ気ない包みだ。
ティーナは不思議そうに袋を受け取り、そっと中身を取り出した。
それは、村長からもらった絹の布を贅沢に使って仕立てた、純白のワンピースだった。
「明日は早い。もう寝よう!」
この時の僕は、まだ知らなかった。
この旅が、取り返しのつかない運命の始まりになることを。
そして…、この選択が、すべてを変えてしまうことを。
「……なんて、綺麗」
ティーナは純白のワンピースを胸に抱きしめ、その目に大粒の涙を浮かべた。
「リューイ様、本当にありがとうございます……! 明日、私、精一杯踊りますね!」
彼女は涙を拭い、花がほころぶような満面の笑みを見せてくれた。
その無邪気な喜びに胸を打たれる一方で、僕は内心、ひどく首を捻っていた。
成人の儀とは、もっと厳かで静かな神事のようなものではないのか?
「精一杯踊る」とはどういうことだ?
……待て。
テクノか? ムーンサルトか? まさかのムーンウォークなのか?
考えれば考えるほど謎は深まるばかりだったが、僕は思考を放棄することにした。
……まあ、明日になれば分かるだろう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
いよいよ物語は次の舞台へ進みます。
ここからは旅編、本格スタートです。
二人の関係や、この先に待つ出来事がどう変化していくのか、
引き続き見守っていただけたら嬉しいです!
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