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神聖なる舞いと美しき変貌

ついに迎える「成人の儀」。


これまでの穏やかな日常とは一線を画す、

竜人族にとって最も重要な祭事が始まります。


そして――

リューイが見届けることになるのは、

想像をはるかに超えた“変化”。


美しく、神聖で、

そして少しだけ、世界の真実に近づく回です。


ぜひ最後までお楽しみください。

 翌朝は、雲一つない見事な快晴だった。


 本日は、この一年に十五歳を迎えた若者たちが受ける、竜人族にとって最も特別な祭事「成人の儀」の日だ。

つい最近十五歳になったばかりのティーナも、当然その主役の一人である。


 大人たちは朝から狩りに出かけ、村に残った女子供たちで儀式の準備を進める。

そして僕はといえば、言わずもがな「料理担当」である。


 広場には、盆踊りの櫓を倍にしたような巨大な石造りの櫓が組まれ、そこへ次々と石でできた楽器らしきものが運び込まれていた。

旅から戻ったら、絶対に木造建築の文化を広めてやると心に誓う。

 儀式の後には大宴会が控えているため、僕はひたすら仕込みに追われていた。

今日のメインディッシュは、イノシシの骨付き唐揚げに、ポテトモドキのフライ。さらに、特大の石鍋にたっぷりの石狩風鍋を用意した。竜人族の食欲は底なしだ。唐揚げなどはすでにそびえ立つ山のようになっている。


 料理の準備に目処をつけ、僕も儀式の行われる広場へ向かった。

 櫓の周りには、成人を迎える五人の若者たちが待機している。今年はこれでも数が多いほうらしい。

ティーナも僕の姿を見つけると、嬉しそうに笑顔で手を振ってくれた。

 主役たちが身に纏うのは、真っ白な生地に宝石のような輝く石を散りばめた、巫女服を思わせる独特で美しい衣装だった。


 やがて、石の楽器から澄み切った音楽が奏でられはじめる。

 その清らかな音色に合わせて、ティーナたちが一斉に舞い始めた。

それは単なる踊りというよりも、神へ捧げる神聖な祈りそのものだった。

厳かで美しいその舞いは、見ているこちらの胸を熱くさせる。


 徐々にテンポが上がり、彼女たちの流す汗と衣装の宝石が光を反射して、まるで光の衣を纏っているかのように輝きだした。

 音色と舞いが最高潮に達したその瞬間――眩い光が弾けた。

 無数の煌めきがティーナたちの身体を包み込み、そのまま彼女たちの内へと吸い込まれていく。

その直後、彼女たちの存在感が劇的に増したように感じられた。

 ふと気づけば、いつもティーナの腰で可愛らしく揺れていたシッポが消え去っている。

「成人すればシッポは隠せるようになる」と彼女が言っていたのは、このことだったのか…。


 舞いが終わり、音楽が止むと、広場は水を打ったような静寂に包まれた。

 僕も、そのあまりにも神々しく美しい光景にただ心を打たれ、言葉を失っていた。

やがて誰かの拍手を皮切りに、広場は一瞬にして割れんばかりの喝采に包まれる。僕も夢中で手を叩いた。

 ティーナたちは村人たちへ深く一礼し、静かにその場を退場していった。


 しばらくして、「いかがですか?」と声がした。

 振り返ると、そこには僕が贈った純白のワンピースに身を包んだティーナが立っていた。

 しかし、ピコピコと動くシッポを持ったいつもの少女の姿はない。

そこにいたのは、神々しいほどの美しさを放つ、まごうことなき「大人の女性」だった。

 少し背が伸びただけでなく、均整の取れた身体には女性特有のしなやかなふくよかさが備わっている。

顔立ちもすっきりと大人びており、アメジストの瞳はどこか妖艶な光を宿していた。


「あぁ……綺麗だよ。とても、綺麗だ」


もっと伝えたい言葉があったはずなのに

喉の奥で全部ほどけてしまった。


それでも彼女は、花がほころぶように嬉しそうな笑みを浮かべてくれた。

 成人の儀が特別な意味を持つとは聞いていたが、たった数十分でここまで劇的な変貌を遂げるとは思いもしなかった。


その夜は、新たな成人たちを盛大に祝う宴が開かれた。

笑い声と炎の揺らめきの中、祝福の夜は、いつまでも終わる気配を見せなかった。


 翌日。僕とティーナは、村人たちに見送られながら旅立ちの時を迎えていた。


「竜人族の故郷までの道のりは、極めて過酷だと伝えられております。どうか、ご無事で」


 村長がそう言って、旅の無事を祈るまじないらしきものをかけてくれる。


「ええ。順調に行けば、三ヶ月くらいで戻れると思います。その間、例の『アレ』をお願いしますね」


 僕が頼んだのは、手間のかかる味噌の管理と、もう一つ別の重要な作業だ。竜人族の彼らになら、安心して任せられる。


「それでは、行ってきます」


 そう告げて、僕らは慣れ親しんだ竜の村を後にした。



ちょうどその頃――


遠く離れた魔人族のディガル領。

領主のもとに、一通の密告書が届けられていた。


『迷いの森の奥地に、竜人族が隠れ住む村がある。既に座標は特定済み。討伐は可能』


それは、静かに、しかし確実に破滅を呼び寄せる報せだ。



 村を出てしばらく歩き、僕は隣を歩く彼女に尋ねてみた。

「本当に、僕について来てよかったのかい?」

 生まれ育った安全な村を出て、生きて帰れる保証のない旅に出たのだ。

「私が、リューイ様について行くと決めたのですから」


ティーナはそう答えて微笑んだ。

その声は、昨日までの少女のものではなく、不思議なほど落ち着いた響きを帯びていた

そこには大人の女性としての、確かな決意が宿っていた。


 昨日、ナビさんがこっそりと教えてくれた事実がある。

『竜人族の成人の儀は、単なる通過儀礼ではありません。彼らは生まれてからずっと、シッポに膨大なエネルギーを溜め込みます。そして儀式の音と舞いによって自らを覚醒させ、その溜め込んだエネルギーを一気に解放することで、身体を急成長させるのです。外見だけでなく、能力の土台そのものが根本から造り変えられるのですよ』


 中身が具体的にどう変わったのかまでは、ナビさんは教えてくれなかった。きっと、僕自身がこれからの旅の中で、彼女の変化に気づいていくべきなのだろう。他人に答えを教わるよりも、その方がずっと意味があるはずだ。


だがその時の僕は、まだ何も知らなかった。

彼女の変化が、どんな未来を引き寄せるのかも…。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


ついにティーナが“子供”から“本当の意味での大人”へと変わりました。

見た目だけでなく、内面や覚悟も含めて、

これからの彼女はこれまでとは少し違って見えると思います。


そして物語は、いよいよ「村の外」へ。


ただの旅では終わらない、

少しずつ忍び寄る不穏な気配にもご注目ください。


次回からは新章スタート。

引き続きお付き合いいただけると嬉しいです!

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