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宴の準備と狂乱の晩餐

ここまで読んでくださってありがとうございます!


今回は少し重たい部分もありますが、物語にとって大切な回になります。

ゆっくり読んでいただけたら嬉しいです。

 翌朝、僕はこの村の“異様さ”を、否応なく思い知らされることになった


垂直に切り立った断層の壁に、等間隔で無数の穴が開いている。入り口には茶色の布が掛けられ、遠目には住居と分からない見事な作りだ。

 断層から少し離れた場所には生活用水となる川が流れ、その向こうには深い森が広がっている。


 ふと疑問に思い、この素朴な生活環境で、入り口の布や手記の紙をどうやって調達しているのかティーナに尋ねてみた。


「半年に一度くらい、行商人が来るんです」

 竜人族と取引するなど危険極まりないはずだが、数百年来の付き合いがある信頼できる一族らしい。元々は竜人の王族の親戚筋で、亜人に嫁いだ者の末裔だという。


 ここで、昨日ティーナから聞いた「竜人族が迫害されるもう一つの理由」が脳裏をよぎった。


竜人は死後、「宝珠」を残す。


……それは、あらゆる魔法を強化する貴重な触媒になるらしい。


つまり――


「死んでもなお、利用される」


ナビによれば、それは魔法の威力を増幅する強力なブースターになるという。その希少価値ゆえに狩られ、死後も他人の道具として使われる悲惨な歴史があったのだ。

 家族が死後も利用されるのを防ぐため、彼らは死期を悟ると人知れず姿を消す。

その心情を思うと、胸が締め付けられた。

——この村の静けさが、どこか“墓場”のように感じられた。


 そんな過酷な運命に抗う彼らに、せめて…、生きている間だけでも、満たされてほしい。僕は村人全員、およそ百五十人に料理を振る舞うと決めた。


 とはいえ、手持ちのキャンプ用調理セットでは到底足りない。僕は村長に図面を渡し、巨大な石鍋の制作を依頼した。


「大人は狩りに出ていますので、村に残る女子供に作らせましょう」

 村長の言葉に耳を疑ったが、ティーナがその理由を身をもって示してくれた。

近くにあった丸い石を、指でいとも簡単にくり抜いてみせたのだ。

 竜人族の圧倒的な膂力と、彼らが得意とする土魔法を組み合わせれば、岩の加工など造作もないらしい。


「絶対に、彼らと喧嘩するのはやめよう……」

 温厚な彼らの、規格外のポテンシャルを目の当たりにして、僕は心に固く誓ったのだった。


「150人分の料理か……、さて、どうするか」


1人でできるレベルではない。しかし、僕にはある考えがあった…。



やがて、狩りに出た大人たちが、溢れんばかりの獲物と森の恵みを抱えて戻ってきた。


 解体は村人たちに任せ、僕はバッグから取り出した切れ味鋭いナイフで肉を切り分けていく。

 小さな石鍋には果実酒や塩、胡椒、香草、果汁を混ぜたタレを作り、肉を漬け込む。

中くらいの石鍋では砕いた骨を布に包んで煮立たせ、極上のスープを抽出する。

僕がアク取りに専念する傍ら、ティーナが目にも留まらぬ手際で根菜を切り分けていく。

村人たちには川でモツを丁寧に洗ってもらい、果汁を水で割った特製ジュースも用意した。


 大鍋にスープの半分を移して根菜を煮込み、中鍋の残りにはモツと香草を入れて「塩モツ煮」に仕立てる。

大鍋にはさらに薄切り肉と葉野菜を加え、最後に味噌と塩で味を調えれば完成だ、それで十分だのはずだ。

 村長の指示のもと、竹に似た植物を割って作った即席の箸や食器も配られた。


 すべての準備が整い、村長に合図を送る。


「皆のもの! 今日は新たな友、リューイ殿を紹介しよう。そして、亡き友が我々に遺してくれた大いなる遺産を味わってほしい!」

 村長が高らかに宣言し、歓声と拍手が巻き起こる。


 しかし、風向きが変わって芳醇な料理の匂いが広場に漂うと、村人たちの視線、あろうことかティーナの視線までもが、一斉に鍋へと釘付けになった。

皆の口元からは滝のように涎が溢れ出ている。


 用意していたスピーチを早々に切り上げ、「メインの肉はこれから焼く。さあ、召し上がれ!」と告げた瞬間。


 蜘蛛の子を散らすとは、まさにこのことだった。怒涛の勢いで鍋へと殺到し、集団瞬間移動かと見紛うほどの身のこなしを見せる村人たちを前に、僕はただ呆然と立ち尽くすほかなかった。


一人の村人が、震える手でスープを口に運ぶ。


「……っ!」


「……なんだ、これ……」


「……そんなに美味いのか?」


あれだけ作ったモツ煮が、秒で消えていく…。


「……取り分、残るよな?」



 気を取り直し、僕は石板の前に立った。抽出した脂肪を熱して作った特製の油を敷き、小鍋から取り出した肉を豪快に焼いていく。

 一度に焼けるのは十五人分。全員に行き渡らせるには最低十回は繰り返す必要があるが、焼き時間は五分程度だ。そう計算していると、目の前にティーナが立っていた。


「お疲れ様です、リューイ様。私も手伝います」

 花が咲くように微笑む彼女に、まずは自分の分を食べてくるよう促すと、ティーナは事もなげに言い放った。

「えっ、もう食べましたよ! モツは噛む前に口の中でとろけましたし、味噌仕立てのお鍋は天にも昇るほどの味わいでした! 口直しのジュースも甘くて美味しかったです」

その口調は上品なのに、内容は完全に食レポである。


 僕が演説を終えてから、まだ五分も経っていないはずだ。

恐るべき早業で全メニューを制覇した彼女の視線は、今まさに焼き上がろうとしている石板の肉へと完全にロックオンされている。


「しょうがないな、これを食べたら手伝ってね」

 苦笑混じりに告げた瞬間、さっきまで手ぶらだったはずの彼女の手には、いつの間にか皿が握られていた。

しかも、彼女の背後にはすでに長蛇の列ができている。

たった五分の出来事に、僕の心の中にはゲリラ豪雨のような土砂降りの雨が降り注いでいた。

 そこからは、肉を並べるティーナと、焼き上がった肉を渡す僕との間で、まるでたこ焼き屋のような終わりのないルーチンワークが続いた。


 ふと、川沿いの道から一台の馬車が近づいてくるのが見えた。遠目にも竜人族ではないと分かる。

 村長のリプトンさんが歩み寄り、馬車から降りてきた人物と親しげに抱擁を交わしている。その背後には、僕と同年代くらいの少年の姿もあった。

「あれは行商人のマリオンさんと、息子のマスケスさんですね。私たちも挨拶に行きましょう!」

 僕はその場の肉を焼き切り、ティーナと共に彼らの元へ向かった。




 村長から紹介されたマリオンさんは、某有名ゲームの赤い帽子を被った配管工を彷彿とさせる、陽気で恰幅の良い男性だった。

一方、息子のマスケスはどこか影のある華奢な少年だった。ただ、彼は最初からティーナへねっとりとした視線を向けており、ひどく嫌な感じがした。


ティーナはマリオンさんに丁寧な挨拶をした。


マスケスにも挨拶を向けると、


「ティーナ、久しぶりだなぁ、良い女になったようだなぁ」


マスケスは舌で唇をなぞり、ゆっくりと舐めた。

その視線は、獲物を値踏みするような、どこか粘ついたものだった。


ティーナは笑顔で応じていたが、尻尾が一瞬だけ固く止まり、次の瞬間には何事もなかったかのように揺れ始めた。

僕はそれを見逃さなかった。


「リューイ殿、この方々は村の恩人です。祭りに参加させてもよろしいですかな?」

 すでに酒が回っている様子の村長から提案され、僕は快諾した。歓待の宴でも料理品評会でもなく、これはお祭りだったらしい。

 マリオン親子が宴の輪へと加わっていくのを見送った後、僕は再びティーナに連行され、大行列が待つ第二ラウンドの肉焼き地獄へとドナドナされていった。


 やがて焼肉用の肉が底を突いたが、想定内だ。ティーナの食欲と村人百五十人の胃袋を侮ってはいけない。

 小鍋に残ったタレに細切れ肉を放り込み、生姜やニンニクに似た香草を加えて味に変化をつける。

モツ鍋や大鍋にも次々と具材を継ぎ足し、絶品のダシを活かして無限に料理を供給し続けた。


「一体、いつ終わるんだ…」


終わりとは、みんなの胃袋が満たされるのか、それとも、僕が力尽きるのか…。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


賑やかな宴の中で、新たな出会いもありました。

この先どうなっていくのか、楽しみにしていただけたら嬉しいです!


よければ続きも読んでいただけると嬉しいです!


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