竜神の顕現と、故郷奪還への決起
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各村の長たちとの話し合いをまとめたリプトン村長が、広場に設けられた特設ステージへと進み出た。その後ろには、他の村の長たちも厳粛な面持ちで控えている。
「皆の者、よく聞いてほしい。本日は、今後の竜人族の運命を根底から変える、極めて重要な知らせがある! だがその前に、皆にどうしてもお会いいただかねばならぬ御方がおられる。皆の衆、跪いて拝聴せよ!」
村長の号令が響き渡ると、広場を埋め尽くす竜人たちが一斉に地面に平伏した。
村長たち自身もステージを降り、最前列で深く頭を垂れる。辺りは完全な静寂に包まれた。
その張り詰めた空気の中、何かがステージの階段を登っていく。
小さな足音が響いた。
「……ピコ、ピコ」
現れたのは、ヴァルちゃんだった。
ヴァルちゃんがステージの中央に陣取ると、村長がさらに深く畏まるよう指示を出した。
次の瞬間、ヴァルちゃんの小さな身体が眩い光に包まれ、強烈な閃光の中から天を衝くような巨大な竜が姿を現した。
「我は竜を司る神、ヴァリアードである。皆の者、頭を上げよ」
地響きのような重厚な声に、恐る恐る顔を上げた竜人たちは息を呑んだ。目の前に、伝説にのみ語り継がれてきた彼らの神が顕現しているのだ。
その神々しい姿を前に、誰の目からも自然と涙が溢れ出していた。
「かなりの数を減らしてしまったようだが、息災で何よりである。ここまでの過酷な成り行きは、リューイなる異世界人より聞き及んでおる。我はここにはっきりと伝えよう。」
静寂に包まれた…。
神を殺せる者は…、神の力のみ! そなたらに罪はない!」
長きにわたり一族を縛り付けてきた、神殺しの冤罪が完全に晴れた瞬間だった。
竜人たちは堰を切ったように泣き崩れ、互いに抱き合って歓喜の涙を流した。
それは当然だろう。
理不尽な迫害に耐え忍んできた彼らの魂が、ようやく報われたのだ。
さらに竜神様は、竜人族に非はない、これからは己の尊厳のために戦っても良いのだと明確に告げた。
その後、竜神様は光を収縮させ、三歳児の愛らしい姿へと変わった。
しかし外見など関係ない、ポチと僕以外の全員が深い畏敬の念を捧げている。
静寂の中、ティーナが神酒の注がれた杯を恭しく捧げ持ち、竜神様の元へと進み出た。
ティーナが杯を捧げると、竜神様はそれを受け取り、一気に飲み干した。
その瞬間、広場は狂喜乱舞の渦に包まれた。
神が、自分たちの捧げた供物を直接受け取り、飲み干してくださった…。
それは、過去の罪が清算され、真に神の祝福を取り戻したと実感できた瞬間だった。
「そなたらに大いなる加護を。そして、異世界より来たりしリューイよ。後の憂いはそなたに託す。彼らを正しき道へと導くが良い」
全竜人族の前でとんでもない爆弾発言を投下するや否や、竜神様はひらりと背を向け、悠然とステージの袖へと姿を消していった。
「おお……竜神様が直々に、リューイ殿を我らの導き手に……!」
リプトン村長が感極まった声で震えている。いや、そこは長老であるリプトンさんを指名してよ!
「リューイ様っ……!」
ティーナの尊敬と愛情に満ちた眼差しが痛いほど熱い。
みんな、どうか一度冷静になって考えてみてほしい! あの幼児神、面倒な軍事対応や指導を全部僕に丸投げして逃げただけだから! 間違いないよ、まずはそこを理解しようよ!
しかし、僕の必死の内心のツッコミも虚しく、「時すでに遅し」という言葉の真理を僕は悟ることになる。
半ば強制的にステージへ押し上げられた僕は、無数のキラキラと輝く期待の視線にさらされていた。
強烈なプレッシャーで胃がキリキリと痛む。視界の端では、舞台袖で優雅に神酒をラッパ飲みしている三歳児(神)の姿が見えた。
「誇り高き竜人族よ! 長きにわたる神殺しの疑いは完全に晴れた。もはや我らは罪人に非ず、これからは堂々と胸を張って生きよう!」
僕の宣言に、割れんばかりの大歓声が沸き起こる。
盛り上がってくれて嬉しい反面、自分が神輿にされているこの状況になんとも言えない虚しさが込み上げてくる……。
しかし、士気が最高潮に達しているこの空気は最大限に利用するべきだ! 僕は言葉を続ける。
「だが喜んでばかりもいられない。今まさに、魔族軍の魔の手がこの森へ迫って来ている。現状、正面からまともに抗う戦力は我らにはない。しかし、決して案ずるな! 皆を確実に守り抜き、安全な地へと導く秘策はすでに用意してある。明日の苛烈な戦いに備え、今宵は大いに飲み、食らい、英気を養ってほしい!」
聴衆の意識が僕の言葉に集中するのを感じる。
よし、この勢いに乗じて、ティーナとの関係も全竜人族に公認してもらおう! チャンスは最大限に利用するべきだ。そう目論み、僕はティーナをステージに呼び寄せた。
「私は異世界から来たよそ者だ。急に現れた得体の知れない人間に命を預けるのは不安もあるだろう。しかし、私はこの地でティーナと出会い、彼女を生涯の伴侶にすると心に誓った。私は種族の垣根を越え、竜人族と深く強い絆で結ばれた家族なのだ。どうか私を信じ、共について来てほしい!」
僕は力強くそう告げ、ティーナの肩を抱き寄せた。
――あれ? さっきの神殺し免罪の歓声に比べると、妙にリアクションが薄い。悪くはない反応なのだが、「ああ、やっぱりね」的な生温かい空気が一部に流れていた。
後からリプトン村長にこっそり聞いたところによれば、僕とティーナが昨晩同じベッドで過ごした甘い関係は、すでに村中に筒抜けになっていたらしい(情報を漏らしたのは間違いなくあの全裸竜ポチだ。後で絶対にお仕置きしてやる!)。
全く悪気は無いにせよ、「今さら大々的に発表されても……」という空気が流れたのも無理はない。あまりの羞恥心に耐えきれなくなった僕は、その後、ティーナに魔法で深い縦穴を掘ってもらい、そこにポチもろとも飛び込んで自分自身を土の中に埋めたのだった。ティーナには「地球に古くから伝わる、神聖な精神統一の儀式だ」と適当に言いくるめておいた。
そうして、ささやかな黒歴史を生み出しつつも、村の広場では大宴会が幕を開けた。
偵察の報告によれば、魔人軍がこの最終防衛ラインに到達するまでには、少なくともあと二日の猶予があるという。
中途半端に焦って動くよりも、今は美味しい料理と酒で限界まで英気を養い、来るべき撤退戦への結束を高めるのが最善だ。
舞台裏で神酒を浴びるように飲み、完全に出来上がっているダメ神様のことは、とりあえず今は視界の端へと追いやっておくことにした。
竜神様から直接真相を打ち明けられた竜人たちは、夜遅くまで歓喜に沸いた(なぜか竜神様も宴会に混ざっており、存分に堪能した後は満足げに帰っていったようだ)。
翌朝。僕は竜の村の長たちを召集し、目前に迫る魔人軍への対策会議を開いた。
「皆、心して聞いてほしい。僕の提案は『竜の里への全村移住』だ」
僕がいきなり結論を切り出すと、長たちは一様にどよめいた。
当然だ、魔人軍への迎撃策を話し合う場だと思っていたのだから。僕はそこに至る道筋を丁寧に説明した。
「いいかい、魔人軍への対策の前に、今置かれている状況を整理しよう。迷いの森の奥地に竜人族が隠れ住んでいるという事実は、すでに魔人族に知れ渡ってしまった。たとえ今迫り来る軍を退けたとしても、必ず第二、第三の討伐軍が派遣されるだろう」
その言葉に、長たちの顔に焦りと動揺の色が浮かぶ。
「この地はもう、安心して住める場所ではないことは分かってくれたと思う。だからこそ、竜の里への移住を考えてほしい。その方法は後から説明するとして、まずはこの方針について意見を聞こう」
僕が問いかけると、リプトン村長が静かに手を挙げた。
「竜の里は我らの故郷。移住すること自体は喜ばしいことです。しかし……果たしてあの地で、我々は生きていけるのでしょうか?」
もっともな懸念だ。僕は力強く頷いて答えた。
「今のあの地は、豊かな地の恵みと森の恵みに溢れている。たかが千人程度の竜人族なら、問題なく養ってくれるはずだ」
その確信に満ちた言葉に皆が深く納得し、それ以上の異論は出なかった。
「では、具体的な道程を説明する。二週間を乗り切るつもりで準備をしてほしい。ルートは僕らが通ってきたライオネ山脈の地下道を進む。これを基本とするが、大勢の足跡を残して魔人族に悟られるわけにはいかない」
僕は概要を説明した。
山脈の抜け道への入り口は山の中腹にある。そこにただ真っ直ぐ向かえば、無数の足跡で容易に気付かれてしまう。だから進路を二つに分けるのだ。
「一つは川沿いを進み、渓谷に着いたら尾根を伝って抜け道の真上から下りるルート。時間はかかるが比較的安全なため、女子供と護衛にはこちらを進んでもらう。もう一つは森を直線的に切り裂いて抜け道へ向かうルートだ。こちらは魔物の危険を伴う。しかし、二つのルートを辿ることで魔人軍を欺く巨大なカモフラージュとなる。後は抜け道への入り口を完全に塞げば、足取りは掴めなくなるはずだ」
僕は長たちの顔を見渡して言葉を継ぐ。
「どちらのルートも抜け道にたどり着くまで三日はかかる。そこへ入りさえすれば、あとは休みながら進めるだろう。それまでは、どうか頑張って進んでほしい」
川沿いの安全な道には女子供と護衛役合わせて五百人強を、森を切り開くルートには百人程を割く。これは強固なカモフラージュを作るために必要な人数だ。
森を切り開きながら進むため、どうしても人手が要る。本当はもう少し手を加えたいところだが、いかんせん時間が足りない。
「みんなで力を合わせよう、三日後、生きて再会するために。」
割れんばかりの歓声が湧いた!
「次に、迫り来る魔人軍への対応だが、残る五百人で三日間ここを死守する。その方法は……」
僕が一通りの防衛戦術を説明し終え、質問を受け付けるが、村の長たちから異論や質問は一つも出なかった。
「時間が惜しい。すぐに村人たちの元へ戻り、準備を進めてほしい」
僕の指示に、長たちは足早に散っていった。最後に残ったリプトン村長が、深く頭を下げる。
「リューイ殿……いや、リューイ様と呼ばねばなりませんな。村の長たちを代表して感謝いたします。我らはリューイ様のお言葉に従うと誓いましょう。我々はそれだけの恩を受けたのです」
それだけ言い残し、リプトンさんも準備のために去っていった。
明日にはいよいよ魔人軍がやって来る。
広場には、先行する女子供、森を切り開く者、そして残って戦う者の三つのグループに分かれた全竜人族が集結していた。
その前に立ち、リプトン村長が声を張り上げた。
「よく聞いてほしい。これは、我らが故郷へ帰るための戦いだ! 皆が険しい道を進むことになる。しかし、その先には理想郷が、いや、我らが真の故郷が待っている! 地と森の富に溢れ、誰に怯えることもない我らが故郷だ! その地へ我々を導いてくださるリューイ様がお言葉を下さる。皆、心して聞いてほしい!」
割れんばかりの歓声の中、僕は前に進み出た。
「皆さん、誰一人欠けることなく彼の地へたどり着こう。心を一つにすれば必ず叶うと僕は信じている。しかし、これは時間との戦いだ。無理を強いるが、どうか耐えてほしい! 彼の地で、笑顔で再会しよう!」
僕の言葉に、竜人たちは力強く拳を突き上げて応えた。
士気は十分だ。先行する避難組とカモフラージュ部隊が、決意を胸に森へと出発していく。
後に残ったのは、防衛を担う五百人の男たちだ。
「皆には三日間、ここを死守してもらう。先行した者たちが無事に抜け道へたどり着く時間を稼ぎ、その後に我々も森を抜けて後を追う! 敵を迎え撃ち、出し抜くための手段はすべて考えてある。誰一人として死ぬな!」
僕が叫ぶと、再び地を揺るがすような怒号にも似た歓声が、森の奥深くへと轟いたのだった。
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