決戦の幕開けと、遊撃隊の猛攻
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それでは本編をどうぞ!
まずは武器の調達からだ。
ポチやヴァルちゃんに渡したのと同じ、石の武器を量産する。幸い、この辺りには加工に適した石ならいくらでも転がっているからな。
石の斧、石の大剣、石のバット、そして特に石の槍は大量に作成する。
竜人族は土の魔法を得意としているため、こうした石材の加工はお手の物だ。
次に、砦となる防壁の外側にも、土魔法を用いて大掛かりな罠を仕掛けておく。これは開戦後のお楽しみだ。
最後に、防衛のための班編成を行う。
防衛線となる壁は、川に向かって扇状に広がっている。正面と左右に三つの門を設け、扉自体は頑強な石造りだが、外面には木材を張り付けてカモフラージュを施した。
「狙うならここを狙ってください」という、あからさまな誘い水である。
この扇状の壁に、竜人たちを三つの班に分けて配置する。
一班を百人とし、攻撃、支援、休憩のローテーションを組む。残る二百人は「遊撃隊」だ。遊撃隊は状況に応じて直接戦闘もこなす、極めて重要なポジションとなる。
「リューイ様、僕らも遊撃隊に志願します!」
目を輝かせた二人の少年が、僕の元へ駆け寄ってきた。
「この者たちは、最初に壊滅した村の生き残りです」
リプトン村長が静かに補足する。本来であれば、女子供たちと共に安全なルートで先行して避難させるべき年齢だ。きっと村長たちも同じ考えで説得を試みたはずだが、彼らの瞳には揺るぎない強い意志が宿っていた。
「わかった、腕前を見よう。僕が相手をする。認めたら遊撃隊に配属しよう」
僕がそう応じると、不意にポチが前に進み出た。
「リューイ様の手を煩わす必要はありません! このポチがお相手しましょう」
そう言って、ポチは自信満々に二人の少年の前に立ちはだかった。
結果だけ先に言おう。ポチの完敗である。
少年二人は見事な連携を取り、ポチを完全に翻弄した。
一人が正面から打ち合いに持ち込み、もう一人が死角から狡猾に、ネチネチと体力を削っていく。
結果、ポチの体力切れによる敗北だ。まともに相手をしたら僕でも危なかったかもしれない。ともあれ、非常に優秀な人材であることに間違いはない。
「名前を聞こうか」
僕が尋ねると、少年たちは真っ直ぐな瞳を向けて名乗った。
「僕はサム、弟はカイと申します」
「わかった。二人は僕のそばで働いてもらう」
実力は十分にある。
それに、彼らには故郷を焼かれたという確固たる理由があるのだろう。僕のそばに置いておけば、無茶な復讐に走るのも止められるはずだ。
「ありがとうございます! リューイ様に忠誠を誓います!」
少年たちは力強く頭を下げると、出陣の準備のために去っていった。そして僕らもその場を離れる。後に残されたのは、地面に大の字で横たわった満身創痍の元レッドドラゴンさんだけだった……。
翌日。ついに魔人軍が竜の村へ至る川の対岸に到着し、陣を敷いた。前衛を歩兵で固め、後方に主力の騎馬隊を布陣させている。
「はっはっは、竜どもにしては中々立派な砦ではないか! ヤツらは逃げるか守るかしか知らんからな。少しは楽しめそうだ」
領軍長のギャバンは獰猛な笑みを浮かべ、全軍に前進の指示を下した。
もし彼らが三日前に到着していたなら、ギャバンの思惑通りになっていただろう。
しかし、迎え撃つのはもはやかつての非力な竜人族ではない。その事実を、ギャバンは自らの身をもって知ることになる…。
偵察隊の報告によれば、騎馬隊の進軍速度に無理やり合わせられたため(常歩の馬に合わせるだけでも徒歩の人間にはかなりの負担だ)、歩兵たちは過酷な強行軍を強いられていたという。対岸に現れた先鋒の歩兵たちの様子を見ても、疲労困憊であることは明白だった。
「まずは、できるだけ敵の数を減らしたいな」
あちらは一千人以上の大軍、対するこちらはわずか五百人。圧倒的な数の差が勝敗を決める。なんとか数をイーブンにまで持ち込みたい。
「仕掛けよう。罠を効率よく使うために」
僕の指示を受け、遊撃隊が三つの門から一斉に出撃し、魔人軍を迎え討つ陣形をとった。
「バカな、竜人族が自ら戦おうとするなど聞いた事がない!」
敵の副官が驚愕の声を上げる。
無理もない。はぐれの竜人は逃げることこそすれ、捕まっても抵抗した例が歴史上にないのだ。
過去の文献にも「竜人族は神殺しの罪により、他者を傷つける事を禁じられた」と記されており、副官もそれを深く信じ込んでいた。
「何か気になります。一旦進軍を緩め、様子を見た方が……」
副官はギャバンに進言するが、ギャバンはそれを鼻で笑って一蹴した。
「数にして百程度。どうせヤツらを囮にして逃げる算段でもしておるのだろう。全軍進撃だ、更に速度を速めよ!」
ギャバンの指示に従い、歩兵たちは速度を上げて川の半ばへと進み入る。季節は真冬で乾季。川の水位も低く、流れも緩やかなため進撃は容易だ。
副官は罠の可能性を示唆したが、ギャバンは意に介さず一気に歩兵を前進させた。
「……来たな」
僕は小さく呟き、合図を送る。
上流で待機していた竜人たちが、一斉に堰を崩した。
一拍。
次の瞬間——
「鉄砲水だ、逃げろ!」
濁流が牙を剥いた。
川を渡りきろうとしていた歩兵たちを、横殴りに叩きつける。
悲鳴すら飲み込み、数十、数百の兵がまとめて流されていった。
副官が絶叫した…!
上流で堰き止めていた水を一気に解放したのだ。幅広く先行していた歩兵たちおよそ二百人が、瞬く間に濁流に呑み込まれ、為す術もなく押し流されていく。
「悪辣な……!」
ギャバンが呻く。
さすがの彼でも、この絶妙なタイミングでの鉄砲水が人為的な罠であることには気づいたようだ。戦闘不能となった歩兵はこれまでの森の道中で三百人、今の鉄砲水で二百人。残る歩兵は半分にまで減った。だが、騎馬隊は無傷だ。
「罠? だから何だ」
ギャバンは口の端を吊り上げた。
「敵が策を弄するのは弱い証拠だ。力があれば、そんなものは必要ない」
その目には、一片の疑いもなかった。
対岸にたどり着けた歩兵は、ざっと二百人ほどだろうか。鉄砲水の水が完全に引くまでにはまだ少し時間がかかる。
「今のうちにヤツらを片付ける。遊撃隊、行くぞ!」
僕は遊撃隊に号令をかけた。中央は僕、右翼の隊はティーナ、左翼はリプトン村長が指揮を執る。
相手は数の上では倍だが、明らかな疲労の色が見える。
対するこちらは士気旺盛な精鋭だ。今まさに、竜人族がこれまで受けて来た不当な迫害の歴史を晴らさんと、魔人たちに猛然と襲いかかる。
「恨みは何も生み出さないというが、しっかりと結果を生み出しているな。自分達の誇りを取り戻すための、狂気すら超える熱意を感じる」
僕はその戦いぶりを見てそう実感した。倍の数をものともせず、竜人たちは確実に敵を押し返している。
相手は鉄の剣と鎧で武装しているが、こちらは石の武器のみ。しかし、重い鎧を持たない竜人たちの身のこなしは圧倒的に軽く、疲弊した魔人軍とは比較にならない。
さらに、遊撃隊には必ずツーマンセル(二人一組)で敵に当たるよう徹底させているため、互いをカバーし合い、致命的な隙を見せない。
石の武器は刃物としての殺傷力こそ低いが、打撃力は極めて高い。
そのため死者こそ少ないものの、骨を砕かれ戦闘不能に陥る魔人兵が続出する。
対岸で待機する魔人軍主力は、味方が次々と無力化されていく様をまざまざと見せつけられることとなった。
「おのれ、水さえ引けば……! 騎馬隊、用意しろ!」
業を煮やしたギャバンが怒号を飛ばす。それに副官がすかさず進言する。
「落ち着いて下さい、どうもおかしいです。あの竜人族が自ら戦っているのです! まだ何か……」
なおも制止しようとする副官を、ギャバンは容赦なく殴り飛ばした。
「お前のような腑抜けに用は無い! 見ろ、水も引いた。今こそ蹂躙してやる! お前は歩兵の再編成でもしていろ!」
そう吐き捨てると、ギャバンは自ら騎馬隊を率いて川へと駆け出した。
あらかた敵歩兵を薙ぎ倒した遊撃隊は、事前の打ち合わせ通りに中央の僕の元へと集結した。中央の門は開け放たれたままで、その前に百人の竜人が陣形を組む。僕が先頭に立ち、ティーナとサム、カイの兄弟が僕の背後に控える。
ちなみにポチとヴァルちゃんは、第二陣として砦の内部で待機中だ。
ギャバンを中心(先頭ではないのが彼らしい)とした騎馬隊が、扇状に散開しながら僕らの元へと突撃してくる。
「頃合いだな」
敵が川を越えたあたりで、僕は背後のティーナに合図を出した。
ティーナを除いた竜人たちが、迫り来る騎馬隊に向けて一斉に火の魔法を山なりに放つ。
騎馬隊が上空からの攻撃を防ごうと防御魔法と盾を構え、意識が上に向いた…、その瞬間。
「今です!」
ティーナの声が響いた。
大地が応えた。
騎馬隊の足元が、音もなく沈む。
硬く締まっていた地面が、一斉に泥へと変わった。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
なんとか4月毎日掲載ができました。
今後は不定期ですが、コツコツあげていきます。
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