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チート装備とナビゲーター


前回、理不尽すぎる条件で異世界に送り込まれた主人公ですが――

ここから一気に「生きるか死ぬか」の状況に突入します。


与えられたのは、たった一本のナタ。

そして、頼れるかどうかも分からない“ナビ”。


普通なら詰みです。


それでも、主人公は進みます。

家族のために。


目を覚ました瞬間、違和感があった。

空気が軽い。匂いが違う。音が――静かすぎる。


木漏れ日が心地よい。

地球の季節は八月だったが、ここは初夏の陽気といったところか。


気を取り直して、自身の状態を確認する。手で顔に触れてみても、いつもの自分のままだ。

特別に美男子というわけでも、不細工というわけでもない。十人中五、六人は「まぁ、いいんじゃない」と評価する程度の、ごく平凡な顔立ち。ただ一つ、コンプレックスがある。それは白に近い、銀色の髪だ。


学生生活において、この髪色は本当に苦労の種だった。「染めたのか」「脱色したのか」と、何度生活指導室に呼び出されたことか。前髪を指でつまんで見ると、やはり白に近い銀色だった。この髪が、この世界で災いの火種にならないことを祈るばかりだ。


まずは、リンネから渡された袋を開けてみる。


中にはフードコートと肩掛けバッグ。バッグには何か入っているようだ。それから、ウエストポーチとナタ。いわゆるなたである。木こりになった覚えはないのだが。


初夏の気候とはいえ、Tシャツにジーンズ、スニーカーという服装では少し肌寒い。試しにフードコートを羽織ってみると、寒さは和らいだ。肩掛けバッグの確認は後回しにして、ウエストポーチとナタを調べることにする。


ナタは五十センチほどの長さで、持ち手は片手用。鞘にはベルト通しの穴があるが、あいにくベルトはしていない。しかし、ウエストポーチになら通せそうだ。

何が起こるか分からないこの状況で、頼りになりそうな武器はこのナタだけだ。


「なんじゃこりゃ!」


鞘から引き抜いてみて驚愕した。鞘自体は四十センチ程度しかないのに、引き抜いたナタの刃渡りは一メートル近くまで伸びたのだ。物理法則はどうなっているのか。


「これがチートってやつか?」


ナタ一つでこの仕様だ。他の持ち物も入念に調べる必要がありそうだ。

次にウエストポーチの中を覗き込んでみた。そこには、満天の星が輝く宇宙空間が広がっていた。


「ドラ◯もんの四次元ポケットか?」


誰もが知っているあの猫型ロボットの腹部についている代物か、あるいは単なる宇宙空間への入り口なのか。


「まぁ、女神様からの贈り物だし、宇宙に繋がっていても不思議ではないか」


それ以上、ツッコむのはやめた。

ただただ、現実逃避したかっただけなのかもしれない。


「そうだ、肩掛けバッグがあった。あれは重みもあったし、きっとまともな品が入っているはずだ」


誰もいない森の中で、独り言をブツブツと呟く痛い自分がいる。


「まずは開けてみよう。一つくらいは常識的な物があるはずだ。いや、待てよ。今着ているこのフードコートにも何か仕掛けがあるのでは? いや、今は置いておこう。まずはバッグだ」


意を決してバッグを開ける。


「今度はラピ◯タか!」


中には、ランタン、ナイフ、そしてご丁寧に透明な袋に入れられた、目玉焼きの乗ったパンが入っていた。唯一ラ◯ュタらしくないのは、透明なペットボトルに入った水が輝いていることだ。そこは水筒ではないのか。


「女神様はオタクなのか? いや、ドラ◯もんやラピ◯タ程度なら一般常識レベルか。オタクと断定するにはまだ早いな……」


興奮のせいか、体が熱くなってきた。フードコートを脱ごうとした、その時。僕の思考は停止した…。


フードコートの裏地には、ドクロマークが刻まれていたのだ。麦わら帽子を被った海賊のものではない。リアルなドクロマーク、いわゆるキャプテン・ハー◯ックの意匠だ。しかも、裏返すとどのような構造なのか、一枚の海賊旗へと変形し、元に戻すと再びフードコートになる。


「昭和か!」


……お察しの通り、僕にもオタクだった時期がある。


なんだかひどく疲れた。そういえば喉も渇いている。ラピ◯タバッグに入っていたペットボトルの水を飲もう。

一口飲む。


「冷たくて美味しい」


ようやく人心地ついた……いや、待て。なぜ常温のバッグに入っていた水が冷たいんだ?

よく見ると、かなりの量を飲んだはずなのに、ペットボトルの水は元の量に戻り、新品のようになっていた。


「なぜだ?」


「ようやく語りかけてくれましたね!」


ふいに、どこからか声が聞こえた。


「お初にお目にかかります。私はナビゲーターと申します。ナビなり、ナビちゃんなり、お好きにお呼びください」


そういえば、リンネがナビゲーター(案内人)を付けると言っていた。


「ではナビ、さっそくこの……」


質問しようとした僕の言葉を、ナビは遮った。


「……いや無理っスね、現在、グール(屍食鬼)八匹とグーウルフ(屍食狼)三匹に包囲されています。さっさと逃げろや!」


その直後、周囲の茂みが激しく揺れた。


「なんですとぉ〜!」


急いでナタを構え、周囲を見渡す。右手前方から何かが飛び出してきた。


「グーウルフか!」


こんなところで死ぬわけにはいかない。

……まだ、何も始まってないんだ。


青い狼のような魔獣の飛びかかりを、僕はナタの腹で受け止める。噛みつきを防ぎつつ、その腹部に強烈な蹴りを見舞った。グーウルフは「キャンッ」と悲鳴を上げて吹き飛んでいく。


「その武器はナタという名称ではありません。『オーガソード(鬼切包丁)』と申します。鬼に関しては……」


ナビの解説を聞いている余裕はない。次から次へと魔物が襲いかかってくるのだ。棍棒のような武器を振り回すグール、茂みから飛びかかってくるグーウルフ。僕はオーガソードでグールを叩き潰し、グーウルフの腹をフルスイングで弾き飛ばす。


「残るはグーウルフ二匹とグール一匹か!」


なぜか体が羽のように軽い。息も全く乱れておらず、体力も有り余っている。僕って、こんなに強かっただろうか。


「ナビさん? この世界にはレベルアップみたいな概念はあるのかな?」


僕の問いに、ナビは残念そうに答えた。


「その概念は存在します。ただし、ご主人様には適用されません。ご主人様は元々この世界の住人ではないため、システム外となります」


チートっぽい装備は与えられているのに、本人にはチート適用外とは。

しかし、がっかりしている暇はない。まだ三匹の敵が残っている。


「ですが、身体能力の自然な成長は可能です。もっとも、成長に伴う筋肉痛や関節のきしみなどは通常通り発生しますが」


「それはただの筋トレの成果だろうが!」


心の中で血の涙を流しながら叫び、残る三匹へと突撃した。



全ての魔物を討伐し終えた。明らかにおかしい。中学時代は剣道部で多少の心得はあるとはいえ、ここまで超人的な動きができるはずがない。


「ご主人様、それは『フィジカルブースト』の恩恵です。ご主人様の本来の力を三倍にまで引き上げております」


ナビが種明かしをしてくれた。


「それって、何らかの条件で倍率が上がったり、成長したりするの?」


期待を込めて尋ねる。


「それは今はお答えできませんね〜。リンネ様から口止めされてるっスから」


おい、口調が変わっているぞ。しかし、否定しなかったということは、可能性はあるということか。


「まぁ、それはひとまず置いといて。色々と教えてもらってもいいかな?」


「自分、OJTオン・ザ・ジョブ・トレーニング派なんで! 使う機能しか説明しないっス!」


マジで体育会系になってるっス!


その後、ドラ◯もんポケットの仕様を聞こうとすればグール十二匹が現れ、ラピ◯タバッグについて聞こうとすればグーウルフの群れが襲来し、フードコートのドクロマークを見せれば巨大蜘蛛の群れが頭上から降ってきた。


「もしかして、教える気ない?」


あまりにも魔物に襲われすぎる。さすがに偶然とは思えない。


「いえ、ご指導する気はいささかも衰えておりません! ただ、場所が悪すぎます。忠告する暇もありませんでしたが、速やかにこの場から移動することを申請いたします」


確かに、立て続けに襲撃されて忘れていたが、早急に場所を変えるべきだ。


「どこへ向かえばいい?」


静かな森だと思っていたが、あまりにも魔物が多い。


「ここから南西に向かえば、川沿いに出ます。そちらへの移動を推奨します」


僕はナビの案内に従い、南西へと走り出した。


なぜこんなことになっているのか。リンネは「安全な場所に送る」と言っていなかったか。ここがこの世界における「安全な場所」なのか。


「ナビさん、ここってこの世界では安全な方なの?」


ナビは淡々と事実を告げた。


「この場所は、この世界の中でも指折りの危険地帯に分類されます。一般市民であれば確実に命を落とすレベルですが、ご主人様であればなんとかなるかもしれないし、ならないかもしれない。その程度の難易度です。ご安心ください、ここでどれだけ血のにじむような努力をしても、レベルが上がることはなく、チート能力が身につくこともありません。一般的な身体能力の向上は見込めますがね」


簡潔でありがたい情報だ。要するに、ここに長居するメリットは皆無ということだ、それ以外は泣きたくなるような情報だったが…。川沿いに出たら、速攻で安全な拠点を探さなくては。


「川沿いまで行けば、どのくらい安全になる?」


「周囲の魔物の気配から推測するに、少なくとも三時間程度は安全を確保できるかと」


「分かった。とにかく急ごう」


まずは腹ごしらえだ。さすがに体力を回復させないと、メンタルが持たない。



川沿いにたどり着き、手頃な石の上に腰を下ろした。川の水質が不安なので、ペットボトルの水を飲む。ようやく一息つけた。


空腹の限界だったので、ラピ◯タパンを袋から取り出し、勢いよくかぶりついた。


「グッ……噛めん!」


硬い。周囲に甲高い音が響き渡っただけで、柔らかそうに見えたパンには歯型一つ付いていない。


「これも敵か…、リンネは敵なのか? 敵と認定して殲滅すべきなのか!」


腹の底からどす黒いオーラが湧き上がる。食は命の源であり、それを奪う者は何人たりとも許さない。


「ご主人様、それは解凍しないとお召し上がりになれません」


えっ? ナビさん、そんな仕様なんですか?


「非常に便利な機能なんですよ。手に持って『解凍』と唱えてみてください」


言われた通り、パンを手に持ち「解凍」と呟く。すると、ラピ◯タパンは途端にふんわりと柔らかくなった。恐る恐る口に運ぶ。


「甘い……美味い……心に染み渡る……」


美味だった。極限の空腹状態というスパイスを差し引いても、疲労困憊の身体に優しく染み渡る味だ。

リンネ様、疑って申し訳ありませんでした。心より反省いたします。


腹を満たし、落ち着きを取り戻したところで、改めてナビに装備とスキルの詳細を確認した。


① フィジカルブースト:現在は身体能力三倍。今後の成長限界は不明。

② 四次元ポケットもどき:容量無制限。現在は空。

③ フードコートと髑髏マーク:フードコートは衝撃吸収・防御機能あり。髑髏の機能は不明。

④ ラピ◯タバッグ:ランタン、ナイフ、パン、ライターなどが収納。リンネの加護により中身は消耗・紛失しない。

⑤ オーガソード:使用者の意思で形状が変化する。ある種の自我を持っているらしいが、現在は応答なし。成長要素があり、意思疎通が可能になれば使い勝手が向上するとのこと。


基本的にはチート装備のオンパレードだ。


最後にナビゲーター(ナビ)自身について。彼女にはなぜか強力な制約が課せられているらしい。この世界以外の知識は教えてくれるし、危機的状況への警告もしてくれる。しかし、この世界そのものの情報については、原則として教えられないのだという。僕自身が経験し、知った事柄についてのみ、情報のロックが解除される仕組みらしい。たとえば、先ほど戦ったグールの生態については、今なら詳しく教えてもらえる。


「自分の力でこの世界を知れ」というリンネからのメッセージなのだろうか。まぁ、ここで生き抜くことが僕に課せられた使命なのだから、仕方がない。


しかし、この世界に生きているだけでいいと言ったが、……その言葉が、やけに引っかかった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


一気に“サバイバル感”が強くなってきました。


そして――

次の話で、ついにヒロインっぽいのが登場します。


ここから物語の空気がガラッと変わるので、

ぜひそのまま読み進めていただけると嬉しいです!


「面白いかも」と思っていただけたら、

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