膝枕の追憶と、ただ一つの誓い(ティーナ視点)
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「リューイ様!」
倒れ込む身体を、慌てて抱きとめました。
なんて事でしょう、あのどんな困難にも平然と立ち向かうリューイ様が倒れるなんて。激しい焦りに駆られながら胸に耳を当てると、心臓の音は安定しており、目立った外傷も見当たりません。どうやら、極度の疲労による昏睡状態のようでした。
一体何が、これほどまでに彼のお心を削り、負担をかけていたのでしょうか? もしかして、迷路の奥に潜んでいた正体不明の魔物のせいでしょうか。次に遭遇したら…、絶対に細切れにしてやります。
しかし今は、リューイ様を安全な場所へお連れするのが最優先です。ゆっくりとお休みいただかなければ。
この見晴らしの良い大草原は、魔物に見つかる危険があります。幸い、黄金色に染まる背の高い植物の群生が、身を隠すのにちょうど良さそうでした。
私は茂みの中へと入り、草を分けて足場を整えると、リューイ様の頭をそっと私の膝に乗せました。
どれほどの時間が経ったでしょうか。穏やかな寝顔を見つめていると、リューイ様と出会った頃からの記憶が鮮やかに蘇ってきます。思えば、私は彼に助けられ、迷惑ばかりかけてきました。
初めてお会いしたあの日。彼はどこか悲しげな瞳をしながらも、命を賭けて私を守ってくれた。
その後も、それが当然であるかのように私に食事を与え、村まで送り届けてくれました。
その時、私は心の中で密かにリューイ様に忠誠を誓いました。竜人族は決して他種族に忠誠を誓うことはありません。ある意味で異端かもしれませんが、それでも構わないと思えるほど、彼の存在は私の中で特別になっていたのです。
村へ戻ってからも、彼は他種族である私たちに対して、分け隔てなく絶品の料理を振る舞ってくれました。
そんなお祭りの最中、行商人の息子であるマスケスさんから突然「成人の儀が終わったら俺のものだ!」と告げられ、私はひどく怯えていました。泣きたくなる気持ちを必死に堪えて拒絶しても、彼は執拗に詰め寄ってきます。私が困り果てていると、どこからかリューイ様が現れて助けてくれました。
あの時、すぐにお礼を伝えたかったのに、竜人族の「成人前に告白してはならない」という掟が頭をよぎってしまったのです。私は恥ずかしさのあまりお礼すら告げず、彼の元から逃げ出してしまいました。成人前に告白めいた言葉をかけられてしまった以上、掟により、私はもう誰とも愛し合うことは許されません。
急いで村長の元へ駆け込むと、料理場のそばで村長は酒瓶を抱えて熟睡しており、横では行商人のマリオンさんがお酒を飲んでいました。
私の涙の跡を見て村長を起こしてくれたマリオンさんの前で、私はすべてを打ち明け、懺悔しました。村長は「心配いらない」と優しく諭してくれましたが、マリオンさんは息子の無礼に激怒していました。私と村長で必死にとりなし、なんとかマリオンさんの怒りを鎮めることができたのです。
その後もマスケスさんは私に言い寄ってきましたが、自分の気持ちに嘘はつけません。拒み続けるうちに、マスケスさんは私ではなく、リューイ様に対して濁った瞳で深い憎悪を向けるようになっていきました。
私の責任です。だからこそ、私がリューイ様をお守りしなければと強く心に誓ったのです。
マリオンさんたちが村を去り、私は十五歳の誕生日を迎えました。リューイ様はあの「はんばーぐ」という素晴らしい料理で盛大に祝ってくださいました。切り刻んだお肉が口のなかでとろけるあの魔法のような味わいは、今でも忘れられません。
そして成人の儀が近づいたある朝、村長から「リューイ殿が近く旅立たれる」と告げられました。危険な旅ゆえに私を案じて黙っていたのだと悟り、私はポロポロと涙をこぼしました。
村長からおじいちゃんの遺品である二振りの剣を託された私は、それを胸に抱いたまま、迷うことなくリューイ様の部屋へと駆け込みました。
「私もついて行きます! よろしいですか?」
そう訴えた私に、彼は起き上がり、はにかみながら「ティーナが良ければ僕も嬉しいよ」と温かく受け入れてくださったのです。
成人の儀の前日には、手作りの純白の「わんぴーす」を贈られました。あまりの嬉しさに涙が溢れ、明日の儀式では精一杯の舞を捧げよう、そして舞が終わって成人したら、この服を着て誰よりも先にリューイ様の元へ向かおうと心に決めました。
儀式の日。思いを込めて舞い踊るうち、曲が最高潮に達した瞬間、私の中で何かが弾け、気づけばシッポは消えていました。急いでわんぴーすに着替え、彼を見つけて駆け寄ると、リューイ様は「とても綺麗だ」と褒めてくださいました。お世辞だと分かっていても、胸が張り裂けそうなほど嬉しかったのです。
翌日、慣れ親しんだ村を離れ、二人きりの旅が始まりました。道中、彼から剣の手ほどきを受け、自分がどんどん上達していくのが分かりました。最初は真剣を交えるのが少し怖かったですが……。
そして、あのライオネ渓谷での出来事。
きっと、あの一件が無ければ、私は自分の本当の気持ちに気づけないままだったかもしれません。最初はただの尊敬でした。しかし彼が谷底へ落ちていくのを見た瞬間、「この人がいなければ生きていけない」と確信するほどに、深く愛してしまっている己の感情に気づかされたのです。
その後、彼が自らの悲しい過去と瞳の理由を打ち明けてくれた時、私は「彼が誰を選ぼうとも、私だけはずっとおそばにいよう」と固く決意しました。
ライオネ山脈を越えた夜、彼は「てんと」と呼ばれる小さな家を作ってくれました。今日はこの中で一緒に寝るのだと聞き、私は念入りに水浴びを済ませました。もしかすると…… と、期待してしまった。
激しく高鳴る鼓動を抑えながら、てんとの中で横になりました。しかし……リューイ様はすでにお休みになられたのでしょうか。私は一人ドキドキして、なかなか寝付けない夜を過ごしたのです。
そして今日、私たちはついに目的の「竜の里」へとたどり着きました。
リューイ様は今、私の膝の上でとても気持ちよさそうに寝息を立てています。
……本当に、よくここまで来られましたね。
そっと頬に手を伸ばす。
その温もりに触れた瞬間、胸の奥に溜め込んでいたものが、静かに溢れた。
ぽたり、と。
一粒の雫が、リューイ様の頬へ落ちる。
…しまった。
慌てて指で拭う。
起こしてしまっては大変だ。
けれど彼は、わずかに眉を動かしただけで、再び静かな寝息を立てた。
……よかった。
この人を、失いたくない。
私は胸の高鳴りを感じながら、身をかがめ、彼の額にそっと唇を落としました。
「……これ、竜人族にとっては“求婚”なんですよ」
小さく笑って、額に触れた唇を離す。
「私は…、どんな未来でも、リューイ様について行きます」
そのささやかな誓いの言葉は、周囲の草原をそよぐ風だけが優しく聞いていました。
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