11 想
その間の記憶がないわけではない。
あの後、上尾&島根カップルがショットバー『色』を去り、ぼくと高野さんが少しだけ互いを意識する。
二敗目のカクテルに、ぼくはスティンガーを。高野さんはテキーラ・サンライズをオーダーし、最後の三杯目は二人ともドライ・マティーニで〆る。
旧い雑居ビルの螺旋階段をノンビリと昇り、夜の街へ……。
ぼくの方から手を繋ぎ、二人で幸せそうな顔緒をして見つめ合う。
「わたしの家に来る……」
「いや、どこかに泊まりたい」
そんな会話が自然と出る。
「ラブホテルは詳しくないな」
「ぼくもだよ」
「酒匂くんは女にも詳しくなさそうね」
「じゃ、今日から詳しくなるよ」
思い出すと恥ずかしい会話だ。
が、素敵な時の過ごし方ではある。
やがて高野さんがラブホテルを見つける。
中に入ると週末なので込んでいる。
それで三十分ほど待つことになる。
他にもいた客たちの顔をチラチラと眺めながら高野さんと会話。
怖い話は避け、小学校の頃の思い出話や、その後のことを語り合う。
高野さんは大学のときに結婚したそうだ。
付き合いは高校から続いていて……。
だから気心は知れていると思ったようだが、それだけではどうにもできない問題もある。
例えば、お金。
四年生の大学を出てすぐ高野さんは就職するが、夫の方が大学に残る。
その後は進学を希望。
当然のように高野さんが支援する。
そのまま一年が過ぎ、別れたようだ。
詳しい話はしてくれない。
代わりに手先が器用で創作折り紙に才能があったと、ぼくに語る。
「まあ、お金にはならなかったけどね」
「いずれなるかもしれないよ」
「経済観念がないからパトロンでもいないと……」
「高野さんっていうパトロンを逃がしているからね」
「酒匂くん、恋人は……」
「フラれた……っていうか、相手にされてなかったと思う」
「付き合ってはいたのね」
「初めての人だよ」
「あらあら……」
「でも、ぼくじゃ子供だったんだ」
「どういう意味で……」
「性的な意味ではなくて精神的な意味で……」
「なるほどね」
「高野さん、そこで納得するわけ……」
「まあまあ……」
そんな会話があり、漸く部屋へ……。
高野さんが慣れていると緊張したが、思いの外、反応が可愛い。
それで愉しい共同作業となる。
夜更けまで何度も睦み合う。
やがて疲れて眠り、明け方に目を覚ます。
そこまでの体験が飛んでいたのだ。
現在、ベッドでは裸の高野さんと背中合わせ。
肌の感じから高野さんも目を覚ましたことわかる。
「飛んだわね」
「うん、飛んだ」
「酒匂くんも同じなの」
「……ということは高野さんも同じなんだね」
「不思議と怖くないのは何故なのかな」
「さあ。でも何故、同期しているんだろう」
「ドラマなら、そろそろ誰かが説明に現れてくれるはずだけど……」
「そこまで都合良く行かないと思うな」
「どうして……」
「理由はないけど……」
その後、二人で心臓の音を聞く。
いや、心臓とは限らないか。
が、とにかく、そんな感じの音だ。
「何だと思う」
「さあ」
「実はわたし、酒匂くんに話していないことがあって……」
高野さんが言い、
「偶然だけど、ぽくにも高野さんに話していないことがあるよ」
とぼくが応じる。
「それって酒匂くんとわたしが再開した日のことかしら」
「それも同期しているわけね」
「酒匂くんが一瞬消えたわ」
「ぼくの方は空間が歪んだ」
「そこは違うのね」
「現れ方に差があるのかな」
「どうなんだろう」
「高野さん、他に体験は……」
「体験っていうか感覚かな」
「ああ、それもぼくと同じ」
「じゃ、一緒に口に出してみようか」
「いいけど、合うのかな」
「さあ……」
「じゃ、一二の三で……」
「では、一二の三……」
「ねっとり感」/「ねっとり感」




