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11/12

11 想

 その間の記憶がないわけではない。

 あの後、上尾&島根カップルがショットバー『色』を去り、ぼくと高野さんが少しだけ互いを意識する。

 二敗目のカクテルに、ぼくはスティンガーを。高野さんはテキーラ・サンライズをオーダーし、最後の三杯目は二人ともドライ・マティーニで〆る。

 旧い雑居ビルの螺旋階段をノンビリと昇り、夜の街へ……。

 ぼくの方から手を繋ぎ、二人で幸せそうな顔緒をして見つめ合う。

「わたしの家に来る……」

「いや、どこかに泊まりたい」

 そんな会話が自然と出る。

「ラブホテルは詳しくないな」

「ぼくもだよ」

「酒匂くんは女にも詳しくなさそうね」

「じゃ、今日から詳しくなるよ」

 思い出すと恥ずかしい会話だ。

 が、素敵な時の過ごし方ではある。

 やがて高野さんがラブホテルを見つける。

 中に入ると週末なので込んでいる。

 それで三十分ほど待つことになる。

 他にもいた客たちの顔をチラチラと眺めながら高野さんと会話。

 怖い話は避け、小学校の頃の思い出話や、その後のことを語り合う。

 高野さんは大学のときに結婚したそうだ。

 付き合いは高校から続いていて……。

 だから気心は知れていると思ったようだが、それだけではどうにもできない問題もある。

 例えば、お金。

 四年生の大学を出てすぐ高野さんは就職するが、夫の方が大学に残る。

 その後は進学を希望。

 当然のように高野さんが支援する。

 そのまま一年が過ぎ、別れたようだ。

 詳しい話はしてくれない。

 代わりに手先が器用で創作折り紙に才能があったと、ぼくに語る。

「まあ、お金にはならなかったけどね」

「いずれなるかもしれないよ」

「経済観念がないからパトロンでもいないと……」

「高野さんっていうパトロンを逃がしているからね」

「酒匂くん、恋人は……」

「フラれた……っていうか、相手にされてなかったと思う」

「付き合ってはいたのね」

「初めての人だよ」

「あらあら……」

「でも、ぼくじゃ子供だったんだ」

「どういう意味で……」

「性的な意味ではなくて精神的な意味で……」

「なるほどね」

「高野さん、そこで納得するわけ……」

「まあまあ……」

 そんな会話があり、漸く部屋へ……。

 高野さんが慣れていると緊張したが、思いの外、反応が可愛い。

 それで愉しい共同作業となる。

 夜更けまで何度も睦み合う。

 やがて疲れて眠り、明け方に目を覚ます。

 そこまでの体験が飛んでいたのだ。

 現在、ベッドでは裸の高野さんと背中合わせ。

 肌の感じから高野さんも目を覚ましたことわかる。

「飛んだわね」

「うん、飛んだ」

「酒匂くんも同じなの」

「……ということは高野さんも同じなんだね」

「不思議と怖くないのは何故なのかな」

「さあ。でも何故、同期しているんだろう」

「ドラマなら、そろそろ誰かが説明に現れてくれるはずだけど……」

「そこまで都合良く行かないと思うな」

「どうして……」

「理由はないけど……」

 その後、二人で心臓の音を聞く。

 いや、心臓とは限らないか。

 が、とにかく、そんな感じの音だ。

「何だと思う」

「さあ」

「実はわたし、酒匂くんに話していないことがあって……」

 高野さんが言い、

「偶然だけど、ぽくにも高野さんに話していないことがあるよ」

 とぼくが応じる。

「それって酒匂くんとわたしが再開した日のことかしら」

「それも同期しているわけね」

「酒匂くんが一瞬消えたわ」

「ぼくの方は空間が歪んだ」

「そこは違うのね」

「現れ方に差があるのかな」

「どうなんだろう」

「高野さん、他に体験は……」

「体験っていうか感覚かな」

「ああ、それもぼくと同じ」

「じゃ、一緒に口に出してみようか」

「いいけど、合うのかな」

「さあ……」

「じゃ、一二の三で……」

「では、一二の三……」

「ねっとり感」/「ねっとり感」



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