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10 混

「酒匂くん、ねえ、まさか、あの人たちって……」

 わたしが驚いたのも無理はない。

 新しくショットバー『色』に入って来たのが小学校の知り合いだったからだ。

 が、年月も経ち、自信もないので酒匂くんに尋ねる。

 すると酒匂くんが、

「その『まさか』らしいね」

 と目を見開く。

「偶然とは思えないわ」

「世界の終わりが近づいているのかも……」

「縁起でもないわね」

「もしかして、ぼくと高野さんだけしか残っていないかも……」

「どういう意味……」

「ぼくと高野さん以外の人格プログラムは終了したんだよ」

「話が飛び過ぎ……」

「じゃなきゃ、偶然の説明ができないじゃない」

「だったら向こうは驚かないはず」 

 わたしの指摘に酒匂くんが上尾くんと島根さんの顔を見遣る。

 ……といっても、もうわたしたちのすぐ傍だ。

 二人とも驚いた顔を浮かべ、

「今日はどんな日なんだ」

「もしかして酒匂くんと高野さん……」

 と、それぞれに口を開く。

「珍しい顔に会ったな」

「酒匂くんと高野さんたち、付き合ってるの」

「付き合っているにしても最初の一日目だけど……」

「そっちの二人こそ、付き合ってませんか」

 酒匂くんとわたしが同時に問う。

「どう思う……」

 島根弘美が優しい眼差しで酒匂くんに問いかける。

 が、酒匂くんは、

「騒がしいからテーブルに移動します」

 と黒瀬さんに告げる。

 それでわたしと酒匂くんが飲み物を持ち、テーブルに移動。

 四人座れば満席だ。

「見るからに付き合ってるみたいだけど、違うの……」

 酒匂くんが言うと、

「当たり。でも、この人バツ一なのよ。既にして……」

 島根さんが答える。

「そうなんだ」

 わたしが言い、

「上尾くん、中学公立じゃなかったからね

 酒匂くんがわたしに説明する。

「会う機会がなければ音信不通になるよ」

「そんなものかな」

「進学校だとね」

「でも親は知ってたはず」

 それから何となく四方山話になる。

 すると今までどこに隠れていたのか中学生のような顔をしたメイドが現れ、オーダーを聞く。

 上尾くんはエライジャ・クレイグを、島野さんはモスコミュールをお願いする。

「最近、不思議なことを体験してないかな」

 暫くして酒匂くんが探りを入れる。

 もっとも、その言葉が探りだと気づいたのは、わたしだけだが……。

「不思議なことは、この人とくっついたこと」

「そうだな」

 上尾くんと島野さんが仲良く答え、

「いつ再会したの」

 と酒匂くんが問う。

「再会も何も家が近いから……」

「じゃ、島野さん、前の奥さんの顔も知ってるわけ」

「結婚式、出てるし……」

「なるほど。ぼくは結婚式に呼ばれてないからな」

「この人のお母さんみたいな美人で……」

「もう、その話止めないか」

 声は笑っていたが、上尾くんが二人の会話に割って入る。

 まあ、種々の感情は残っているだろう。

 わたしも前夫のことを酒匂くんに話したいとは思わない。

 いや、優れた点ならば話しても良いか。

 が、悪口だけは絶対言わない。

 言えば、過去が戻るから……。

 既に何もなくなったはずの、わたしと前夫との関係が……。

「そっちは何処で出会ったわけ」

 島野さんが酒匂くんに問いかけている。

 酒匂くんは島根さんにとって話しかけ易い相手なのか。

 あるいは島根さんと酒匂くんは小学生当時両想いだったのかもしれない。

 互いが互いに気持ちを告げなかっただけで……。

 さすがに今では何の蟠りもないようだが……。

「高野さんが住んでる街に、ぼくの会社があって、それで今週偶然に……」

 酒匂くんが説明し、

「懐かしいから、週末にでも飲みに行かないかって……」

 わたしが補足。

「それで今に至る」

「じゃあ、初デートの邪魔をしたのね、わたしたち……」

 島野さんがハッとして言い、

「この人が飲み足りないって言うからついて来たけど、家に帰っても飲めるから」

 と上尾くんの顔を見ながら続ける。

「お気を遣いなく」

 わたしが言うと、

「……」

 いきなり数時間が経過している。



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