98 ワズの行方
両手を、ぎゅっと握られる。
「二人で住む為の、小さな星を購入したんだ。環境も調えてある。規格から外れた俺たちは、もう……ルールの中には戻れないけど。それでも。……君の人生を、俺にくれる?」
尋ねられる。真剣な瞳で、窺うように見つめてくる眼差しを受け止める。
言葉の意味を理解して、瞼を大きく開く。
「アルんるーん! 時間切れだよ! 折角の二人切りのラブラブタイムを邪魔して、本っ当にっ、怒んないでほしいんだけどっ! 『仕上げ』を、よろしくっ!」
ブツッ。
急に聞こえ出した音声にびっくりしていると、アルゼさんが通信を切った。彼は微笑んでいるのに、凄く怒っているのが伝わってくる。
今の音声……ルイメディーナの声に似ていた。でも、喋り方は違った。咲月ちゃんめいていた。まさかね……。
「ゼナ」
アルゼさんが大きく呼ぶ。
ただの壁だと思っていた所から人が出て来たのにも、出て来た人物自体にも。二重に驚く。
以前……ブリアスで会った、黒衣の若者が姿を見せる。
さっき確認した。彼のアバターは透だ。
「え? えっ? もしかして。ずっと、そこにいたの?」
うろたえながら聞く。
そ、そうか……。さっきのドアの件みたいな魔法で、壁際に隠れていたんだね……。
頬が熱い。
赤面しているだろう私を一瞥し、溜め息まじりに言ってくる。
「何もかも聞いてたよ? 君たちのイチャイチャ振りは、今に始まった事じゃないし。大丈夫」
何が大丈夫?
「それより。俺がこの部屋に星堂の技術を巡らせるのに、どれだけの時間を費やしたと思ってる?」
彼はアルゼさんへ、不満げに目を細めて見せる。先ほど出て来た壁に空いた、黒い靄が見え隠れしている穴を指して言い募っている。
「こんな所に、こんなモノを設置して……。間違いなく反逆じゃん。もちろん、俺の一生も責任持ってくれるよね?」
アルゼさんはゼナから視線を逸らしている。ゼナが溜め息をつく。
ブウンと音がした。部屋の中央にあった、星の映像が消えている。薄暗かった部屋が更に暗くなる。
ワズの機能が停止したのだと思い至る。
彼らが何故。ワズに、このような仕打ちをしたのか。後でじっくりと説明してもらわなければ。きっと、何か理由があるんだよね?
ごめんね、由利花。私は……私の人生を生きるね。
これで、ワズの繰り返しも終わる。彼女の時間も止まる。
この場を脱出して、辺境の星へ移動する。壁の穴を抜けて奥へ進むと、割とすぐに辿り着くらしい。
壁の穴をくぐる直前。ゼナが何事かを思い出した仕草で、ポケットを探っている。取り出して見せてくれたのが、黄金色に目映い石で目を瞠る。
「この石には、ワズの記憶や情報が詰まっている。言わば、セーブデータみたいな。今から向かう先の星で、ワズの続きを育星しようと思ってるんだ。ワンチャン、透が由利ちゃんに選ばれる未来も、あるかもだし」
ゼナは顔を僅かに傾けて「ニッ」と、子供っぽく笑う。
「ありがとう……ありがとうっ!」
強く抱きしめて、お礼を伝える。ゼナが身を捩って声を上げる。
「えっ、嬉しいけど。やめてっ、今は……! 鈴谷さんに殺されるっ!」
ワズでの、気心の知れたやり取りっぽくて。頬が緩む。
「フフッ」
笑うと。ゼナが、げんなりした口調になる。
「冗談で言ったんじゃないんだけど……」




