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やり直しの人生では我が子を抱きしめたい! ~後悔していた過去を変えていったら片想いしていた人たちと両想いになりそうな気配だけど夫の事が気がかりです~  作者: 猫都299
二章 続編 未完成な運命は仮初の星で出逢う

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97/99

97 生きて


 ドンッ!


 低く、鈍い音が響く。足元が揺れた。思わず、キョロキョロと辺りを見回してしまう。


「大丈夫だ。攻撃されたのは、ここからは遠い領域らしい。君は早く、目的を果たせ」


 トケイで確認していたアルゼさんが、私にも教えてくれる。


 ケールディアが捕らわれて連れて行かれた時は、凄く焦ったけれど。「悪いようにはしない」との、アルゼさんの言葉を信じる事にした。


 ケールディアとは、眠っている間にワズでも再会できた。ケールディアのアバターである雪絵ちゃんは最後に、由利花にだけ秘密を打ち明けてくれた。そして……彼女は恐らく、リウラの盾に捕まった件で「ケールディア」である記憶を失った。


 彼は今、どうしているのだろう。


 廊下の窓から、外を眺める。遠くに、星々の煌めく夜空が広がっている。夜空に見えるが、夜空と呼んでいいのか分からない。今いる場所は、ワズを囲むように巡らされた……ワズを管理する施設だから。外に見えているのは夜空と言うより宇宙と称するべきかなと、少しの間だけ考える。


 ……漸く、ここまで来た。


 早足で進みつつ、右側の壁に等間隔に設置されている扉をチェックしていく。

 この施設のどこかに、幾つかあるとされる「隠された部屋」。都市伝説めいたその部屋に、用がある。

 ひと気のない長い廊下を、更に奥へと踏み入る。


 この施設へ到着後に何度か、先程と同じような音がしていた。アルゼさんが施設の外部で守護する彼の部下に確認したところ、例の……ワズを狙う一団が仕掛けてきたようだった。


 これまでに、施設の従業員らしき数人と擦れ違った。アルゼさんは彼らに、避難経路を指示していた。


「アルゼさんは? 逃げなくていいんですか? 私について来ても……迷惑を掛けてしまうから」


 私のしようとしている事は、規約違反だろうし。

 尋ねると、彼は切れ長の目をニコリと細める。


「施設の運営に携わる者らが、逃げ出したのなら。好都合かもしれない。君のやろうとしている事は、規約違反だろうから」


「うっ?」


 呻いてしまい、慌てて口を押さえる。

 見抜かれている! 何でバレているの?


 その時。廊下の右手に続く壁に、違和感を覚える。


「あれ?」


 呟いて、足を止める。壁の一部が少し、剥がれたように……件の箇所から、薄い緑色の光が漏れている。


「ああ」


 アルゼさんが、得心した雰囲気で口にする。


「ここだ。隠し部屋。ここにいた人は、逃げるのに急いでいたのだろう。隠し方が雑だね」


 言いつつ彼は、壁へ手を当てる。上から下へ滑らせるように触り、一部を掴んだ。カチリと回される。壁が消えて、部屋の中が見える。


 息を呑む。部屋の中央に、地球が見えたからだ。


「ここは『観測』の部屋か……。事前の調べによると、ほかにも隠し部屋があるらしいが……。君の探す部屋は、ここかな?」


 アルゼさんが話し掛けてくるけど。私は上の空で、地球に見える「ワズ」……恐らく観測用に映し出されている、地球を模した星に見入っていた。


 近寄って、感動を噛み締める。

 何て美しいんだろう。


 キラッと、何かが光った気がする。

 目を凝らす。ワズの奥……中心の辺りに。何かある?


 薄らと、見え隠れするのは。もしかして。

 その名を呟く。


「神石?」


 淡い黄金色の石で、この世では幻とまで謳われる貴重な物。伝説級の石と言っていい。生きている内に目にするとは思っていなかった。


「この部屋のは、過去の映像のようだな。本物は、ほかの隠し部屋にあるんだろう」


 アルゼさんの落ち着いた物言いに、違和感が増す。

 彼は、ワズに神石が使われているのを知っていた……?


 ドオンッ!


 響きが、さっきより近くなっている。揺れも大きかった。

 ——今は。余計な事を考えている暇はない。


 部屋の中を見回す。目的を果たす為の、それらしい装置はない。……だとすると。


 映像の「ワズ」に触れる。手をかざして動かすと、動きに応じてワズも回転する。

 やはり。「トケイ」の地図と、操作方法が同じだ!


 日本のある位置を、目の前に出す。拡大して住んでいる地域を表示し、更に拡大する。


 「ティティッ」と、何かが鳴った。


 振り向くと。アルゼさんが「少し、失礼する」と言い、トケイの通信に応答している。私は再び前を向き、操作に専念する。


 後ろでの会話が聞こえてくる。


「最後の魔法壁も、突破されました! 防ぎ切れません! お逃げください!」


「分かった。君たちは、先に退避してくれ。私たちも、あと少しで脱出する」


「しかし」


「大丈夫だ」


「……ご武運を」


「君たちも」


 通信が終わったようで……場が一時、静かになる。


 ルイメディーナの作った魔法壁も破られている。ワズを狙う一団は、相当に強いみたいだ。時間がない。早く、見付けないと。


 私がしている事は、ワズの「プレイヤー」にとっての禁忌。


 地域、年代、名前。


 「彼」を探す。


 由利花を見付けた。由利花……エスティ・ティナ・ティテ。

 きっと、この付近だ。


 透の名前も見付けた。

 ゼナ・ファクト・レナの文字が浮き上がる。


 ……っ、そうだったんだ! 透ってば。よくも、知らないフリしてたわね……!

 涙目になりながら、続きを読んでいく。


 龍君……龍君は……。



 ————見付けた。



「ダメだよ。ゲームに現を抜かして、現実を疎かにしちゃ」


 後方から窘められる。

 腕を掴まれ、引き寄せられた。抱きしめられる。


 直前に、見た。「彼」の、今の名が刻まれているのを。


「エスティ」


 後頭部を撫でられる。


 龍君は……アルゼ・ドゥ・ズ・ティド。


 ドン……ドオン……と。遠くの方から響いていた破壊音が、大きくなったと思う。

 多分もう、脱出は間に合わない。


「そろそろだね」


 口にして目を閉じる。彼の腕の中で、最期を迎えられるのなら。そんなに悪くない一生だったなと、震えている下唇を噛む。


「生きて、死んでいく。ねえ、目が覚めても。憶えていてくれる? ずっと……約束した事」


「ああ。……もちろん」


 約束は叶わないって、分かっている。二人とも。

 微笑み合った。


 彼は『覚えていたい』と、願ってくれたのだ。


 その一瞬が、私に訪れた。

 満たされる。


 心残りのないように伝える。


「あなたと出会えてよかった」


 もっと好きになった。

 運よく、ワズで目覚める事ができても。この『私』の記憶は、消えているけど。


「俺と、ずっと……共にいてほしい」


「もちろん」


 強く抱きしめて、返答を贈る。涙が頬を伝い落ちていく。


 ……本当は、怖い。凄く怖い。死にたくない。死なせたくない。

 彼を生かしたい。生きたい。


「ダメだよ」


 口を衝いて出た。


「私たちは、生きてなきゃ。存在を……自分を諦めたらダメだよ。最後まで。自分くらいは、自分の味方でいなきゃ……!」


 周囲に目を向ける。


「出よう! 逃げよう! ここから、逃げよう! どこかに、緊急用の出口があるかも……」


 腕を引っ張られる。


「エスティ。ここにいて?」


「……え?」


 騒がしく思考していた頭が冷える。代わりに胸が、痛い程に拍動している。


「何を言っているの、龍君?」


 必死に違うと否定したいのに。どうしても、ある考えに辿り着いてしまう。


 「『人間』は、邪悪な存在でもある」と、彼も言っていた。

 ワズを攻撃している一団は、つまりは社会の秩序を脅かすなどの危険思想を持つ人々の集まり。


 息を止めて、窺う。


 昏い目をして、ニコリと笑い掛けてくる。

 認めたくないのに、確信してしまう。


 彼が……仕組んでいたんだ……。


「俺が大人しく、正規のルールに従うと思ってた?」


 「はははっ」と……さも、おかしいと言いたげに笑っている彼を見つめている。


「ワズでも、学ばせてもらったよ。ルールは剣にも盾にもなる。だけど本来、俺たちは『人間』じゃないんだ。『ルール』も『人間』という縛りも……『人間』が作った、未完成な囲いでしかない。人は失敗しながら、成功を見付ける。『ルール』も『自ら』も更新しながら……何を見付けるんだろうね?」


 こんな時に。命の危機が間近に迫っているというのに、彼は。とても優しい顔付きで、語り掛けてくる。


「龍君……いいえ。アルゼ。……私と生きて」


 掴まれている手を、握り返す。

 爆発音が、さっきよりも大きい。もうすぐ、ここも。木端微塵だ。


「ううん」


 思い直して、首を横に振る。


「あなただけでもいい。生きて。この攻撃を……あなたなら、やめさせる事ができるんじゃないの? リウラの盾に私を、スパイだと差し出せばいい」


「それは……君の頼みでも聞けない」


 即断された。


「さっき約束したよね? ずっと共にいる事。やっと願いが叶った」


 彼の望みに絶望する。思っていたよりも闇が深かった。ここまでなの?


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