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やり直しの人生では我が子を抱きしめたい! ~後悔していた過去を変えていったら片想いしていた人たちと両想いになりそうな気配だけど夫の事が気がかりです~  作者: 猫都299
二章 続編 未完成な運命は仮初の星で出逢う

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96 本心


 龍君に嫌われていると分かった日から、数日後。雪絵ちゃんに呼び出された。


 放課後に……彼女の待つ教室へ、足を踏み入れる。

 私たちのほかには、誰もいない。


 何の話だろう?

 緊張しつつ、相手を見つめる。


 雪絵ちゃんの話は、衝撃的なものだった。


 以前、透が教えてくれた……龍君に何かしたかもしれない「マスター」は、彼女なのだと知らされる。


「これ……私から、あなたへの贈り物」


 雪絵ちゃんが、フフッと笑いながら言う。制服の下に隠すように付けていたネックレスを首から外し、私の首へ掛けてくる。


「これって……」


 呟いて、ネックレスに触れる。ネックレスには、龍君のミサンガとお揃いの赤い石が光っている。


「でもこれ、もらえないよ……! 雪絵ちゃんの誕生石だし、龍君と……お揃いでしょ?」


 慌てて言い及ぶ。だけど言い分の最後の方は気持ちが暗くなって、声が小さく掠れる。

 雪絵ちゃんの目が、ジトッと細まる。


「何言ってるの?」


 睨んだ表情で告げてくる。


「これ、ガーネットじゃないわよ。あなたの誕生石のルビーのつもりで、これにしたのよ」


 一瞬、思考が停止して。少し遅れて、動揺が声になる。


「え……?」


 瞼をいっぱいに開いて、雪絵ちゃんを見る。彼女は腕を組んで、不機嫌な顔を横へ逸らす。


「鈴谷君とか、こっちから願い下げだわ。最悪よ。自分の幸せを諦めて、好きな人の幸せを願うとか……全然、的外れなのよね。イライラするわ」


 怒っている雪絵ちゃんの話を、呆然と聞く。

 今は私の胸元にあるネックレスに付いている赤い石を指して、事も無げに言ってくる。


「これで、鈴谷君を操ってたの」


「えっ……?」


 明かされた事案に、びっくりして聞き返す。耳を疑った。

 そんな事って、できるものなの……? ああ、でも。この世には不思議な事も起こる。人生を繰り返すのもそうだし、未神石の件もあるし。

 雪絵ちゃんは「マスター」だと言うし。不思議な能力を扱えるのかもしれない。


 雪絵ちゃんが、口を開く。私へ言い聞かせる如く、重めの口調で伝えられる。


「言っておくけど。鈴谷君とは、キスしてないから。全部『フリ』。協力させたの。ミサンガを故意に外したら、由利花と結ばれなくなるって脅してね!」


 息を呑む。彼女の一挙手一投足を見逃さないように、瞳に映す。


「安心していいわよ。彼は自分の願いを殺して泣く程、あなたを想っているから」


 雪絵ちゃんの言い分を、俄には信じられない。

 彼女は私の不安や戸惑いも見透かす如く、ニヤリと笑み口にする。ネックレスの赤い石を持ち上げて。


「『誓いの証』って、言ったでしょう? 命令に服従するように、誓わせる石って事」


「言葉が足りな過ぎるよ!」


 思わず発した声が響く。自分の声が大きくて、目を瞠る。何とか心を落ち着けて、雪絵ちゃんへ詰め寄る。


「将来を誓い合った、約束の石かと思ったじゃん!」


「げーっ、私が……」


 雪絵ちゃんは心底、嫌そうに顔をしかめて言い掛ける。フッと鼻で笑われた。言い直してくる。


「俺が、そう簡単に。男を好きになる訳ないだろ? 本体の記憶も持ってんのに」


 いつもの雪絵ちゃんじゃないトーンの物言いに驚く。雰囲気が違ったのは、その時だけで。すぐに、普段の調子へと戻る。


「『マスター』である記憶も、本体についての記憶も。この話が終わったら消される予定よ」


 告げられた情報にハッとして、見つめ返す。真剣な瞳で伝えられる。


「私は、もう関われない。……しっかり生きなさいよ!」


 彼女からのエールを、胸に留める。目元がジンと痛くなった時。

 雪絵ちゃんの体が揺らいだ。咄嗟に、彼女の腕を掴んで支える。


「雪絵ちゃん……?」


 頭を押さえて具合の悪そうな顔色をしている様子に、不安が増す。


「私……あら? 何をしていたのかしら? こんな時間まで。……? 思い出せないわ」


 頻りに首を傾げてキョロキョロと辺りを見回している仕草と、言動に思い至る。

 まさか。もう……記憶を消されたの?


「由利花……? 何かあったの?」


 涙が零れたのを、気付かれてしまった。

 急いで拭い取り、微笑む。安心させたくて口にする。


「ううん? 何でもないよ」


 やや眉を寄せた相貌で窺ってくる、親友の両手を握る。

 思いを上手く説明できず、たった一言だけ言葉にする。


「雪絵ちゃん、これからも友達でいてね!」


 ひと時、見開いた眼差しを注がれる。

 やがて、細めた目で笑ってくる。いつもの如く、ちょっと意地悪なニュアンスで。


「それは、あなた次第かしらね」




 龍君と、次の休日に会う。


 当日になり、龍君の部屋へお邪魔する。

 雪絵ちゃんの言っていた件を、確かめる為に。


 今日は白いブラウスと黒のスカートという出で立ちで、髪を後方で一つに束ねている。赤いリボンの付いているヘアゴムで。胸元にはネックレスの赤い石が光る。


 龍君はくすんだ水色のシャツに黒のズボン姿で、ローテーブルの向こう側に座っている。


「話って何?」


 僅かに不機嫌な調子で、切り出される。


 雪絵ちゃんの話が、真実なら。私が身に付けているネックレスと龍君のしているミサンガの効力で、龍君を操れる……?


「私の事……本当は、どう思ってるの?」


 十分に考える前に、口を衝いて尋ねてしまう。


「狂おしい程に、物凄く好き」


 ……? 聞き間違いかな?


 龍君の発した答えに、現実味がない気がして。「私の質問、何か間違っていたかも」と、自身の言動を振り返ろうとしていた。


 龍君がハッとしたように、目を見開いている。


「これは、言わされているだけだから」


 彼は慌てた様相で、両手を振って述べる。

 私は質問した内容——つまり「命令」を思い返して、眉をひそめる。


 私は「好きだと言ってほしい」といった要求をした訳じゃない。「本当は、どう思っているか」聞いたのだ。


「ふーん?」


 目を細めて呟く。

 下唇を噛んで俯く龍君の、顔色が悪い。


 やはり。龍君は私を好きじゃないフリをしている?


 未だに、信じ切れないながらも。雪絵ちゃんの言葉が、真実味を帯びてくる。

 彼女の言っていた「操る」とは、こういう事かと……理解したように思う。


 龍君の顔付きが変わった。目から明るい光が失われ、どこかムスッとした暗い雰囲気が漂う。


 「嫌われてるのは本当で、覆らないのかもしれない」という不安が過り、咄嗟に二つ目の「命令」を言い放つ。


「嫌じゃなかったら、抱きしめて」


 龍君が立ち上がった。


 さっきから、無理難題を言い過ぎだった? 追い出される……!


 身構えた時。彼が、私の側に膝をつくのが見えた。抱きしめられる。胸が苦しくなる程に、ぎゅうっと。


 左肩の上で、言い訳を紡がれる。


「これは命令だから、やってるだけだ」


 少し笑って、返事をする。


「そうだね」


 思い付いて、意地悪を言う。


「次は『私の事が好きだったら、抱きしめて』に……」


「やめろ!」


 大きな声で遮られ、驚いて相手を見る。


「本当に……やめてくれ……!」


 苦痛であるかのように、歯を食いしばる険しい顔で訴えてくる。

 ああ。本気で嫌そうだ。胸が痛い。


「ごめんね。もうしない」


 苦笑して、謝る。

 こんな事をしても虚しいし、龍君にも悪い。


 多分、龍君は「フリ」じゃない。本当のところは……私の事を嫌いになったんだ……。


 現実に打ちのめされそうになる。俯いた目から涙が零れる直前に、温かさを感じる。


「これは……幼馴染として、由利花ちゃんが元気ないのが心配だから。大サービスで、由利花ちゃんを元気付ける為にしているだけだから」


 抱きしめられた腕の中で、必死に堪えていた涙が溢れる。微かに笑って伝える。


「……そうだね。いいよ。今は龍君の一番じゃなくても」


「え……」


 意図を問うような、呟きが聞こえる。


「……こっちを見て?」


 促して向かい合う。まっすぐに、彼を見据える。


 精一杯の気持ちを込めて、微笑む。


「私と出会ってくれて、ありがとう。龍君」


 思い切って、近付く。

 唇を重ねる。


 突然の事で、呆然としているのかもしれない。対応の遅い相手に遠慮もせず、頬や髪にも口付ける。


「えっ……と……っ、まっ……!」


「待ってあげない」


 うろたえる口調の龍君を尻目に、冷たく言い置く。


「これは、私が勝手にしてる事だから。龍君が気に病む必要はないよ」


 彼は「フリ」をしているのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。彼が「フリ」をし続けるつもりなら、それに付き合うのも悪くない。


 そうじゃなかったとしても。彼の隣を、誰かに譲るつもりはない。


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