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やり直しの人生では我が子を抱きしめたい! ~後悔していた過去を変えていったら片想いしていた人たちと両想いになりそうな気配だけど夫の事が気がかりです~  作者: 猫都299
二章 続編 未完成な運命は仮初の星で出逢う

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95 回想(雪絵視点)


 放課後。誰もいない時間帯の教室に、由利花を呼び出す。

 薄黄色い光が、窓から差す。


 ドアの開く音が聞こえる。

 振り返り、目に映す。背筋を伸ばして、向かい合う。


 今日の彼女は波打つ長い黒髪を後方で一つに結んだヘアスタイルで、相変わらずスラッとした体型をしている。神妙な表情で、私を見つめ返してくる。


 彼女が慎重に窺ってくるのも、無理もない。この間の……廊下や屋上でのパフォーマンスは、彼女の心を抉っただろうから。


 意を決して、伝える言葉を紡ぐ。


「私は、もう関われない。本体が失敗して。見張る側から、見張られる側になったの。だけど、最後に許しを得て……あなたにだけ、打ち明けるわ。心して聞いて。私の元の……本体の名前はケールディア」


 何の話か。きっと、由利花は分かるだろう。

 皆で釣りに行った日。マスターでもある透君と彼女の会話が、ちらっと聞こえていた。どうせ、地獄耳よ。

 案の定。由利花は思い当たる節がある様子で、目を見開いている。


 説明しながら。ここに来るまでの「本体」の行いを、心に浮かべる。



 報告を聞いた時は「また、あいつか」と、胸の内で呆れていた。

 規約違反と思しき反応を探知した。


 ワズでは俺らの通う中学の校長という役柄を演じている、ワズの創設者が言う。


「信じたくはないが、マスターの一人が越権しているのかもしれん。君に、この件を任せてもいいかな?」


 ワズの創設者たる人物は小太りで、身長が平均より少し低い。ワズの外見とは異なる。


 ワズには秘密の部屋がある。今、俺たちのいる……この部屋も。その一つだ。正確には……ワズに部屋があるのではなく、部屋からワズを観測していると言った方が近い気がする。


 広く薄暗い部屋の床の中央に、円形の穴が空いている。穴の中央に浮かぶ如く……淡く青く輝く、星の姿がある。


 ワズ公式の言葉を借りるなら「育星」している。


 これは「人間」のみの技術では、成せないのだろう。だから「上層」に縁の深い者が、ワズの創設者となった。


 「上層」とは。「人間」の再現を果たした上位種族や……彼らの住まう、人間の住む世界より上層にあるとされる世界を指す。


 ワズの創設者。彼は、カララの父親でもある。


 両家にメリットのある婚約だと、知っている。

 俺の家は、大昔に活躍したらしい勇者の血筋だし。カララは人類では上層に一番近い血筋を受け継ぐ、一つ上の階層の星域の端に住む「約束された種」と呼ばれる一族の姫で……。

 ワズでは俺たちのクラスメイトでもある、アイツである。沢野明良。


 げんなりして目を細める。


 モテんのは分かる。ワズでも、モテモテだったもんな。けどな。この俺が、何で十三番目なんだよ。

 カララには既に、十二人の夫がいる。俺が加われば、十三人になる。


 こっちは、ろくに女性と関わった事もねーのに。

 ……もしかして、あっち側に妨害されてた? あれも、それも?


 幼馴染のルイメディーナは、妹みたいなもんだし。


 徐々に怒りが湧く。

 ——そして、思い付く。


 由利花の「本体」に、会いに行こう。


 前々から、準備はしていた。ワズでの沢野君との、婚約についても。

 カララの父に約束を取り付けたり、由利花の好きな男に小細工したり。


 カララの父は、沢野君と由利花がくっつく展開を望んでいる。沢野君が由利花を好きだから。

 沢野君は、俺のアバター「岩木雪絵」の婚約者でもある。沢野君の次なる相手が由利花になるのは、俺としてはありがたい。


 しかし、まずい。凄く、まずい。


 沢野君を好きな、咲月が悲しむからだ。ついでに由利花も、好きな奴と結ばれずに悲しむだろう。


 カララの父とした約束は。由利花の想い人……鈴谷龍が、由利花へ好意のないフリをしていても「十八歳になったら結婚する」という彼らの約束を果たせるのなら。彼女たちの行く末に、干渉しない事。


 ただ「フリ」をさせるだけでは、すぐにバレるのは目に見えている。だから、特殊効果を施したミサンガを鈴谷へ取り付けた。彼から漏れ出る由利花への好意が、気取られにくくなった筈だ。これで、カララ父からの文句もないだろう。


 エスティの旅に加わる。由利花の状況から、エスティは龍の「本体」を探すと予想していた。


 星泉を渡る舟の上で、求婚してみる。

 彼女が俺を選ぶのなら、大切にするつもりで。


 案の定、断られて苦笑する。


 彼女を奪おうとか、そんな気はなかった……と思う。


 けれど、由利花は。

 想い人から想われ。俺の目から見たら、凄く幸せな奴だ。


 まあまあ、何でも手に入る……一応、貴族でもある俺は。

 何で、こんなに不自由なんだろうと。不思議に考えている。


 カララより先に、エスティを見付けた。エスティをカララへ差し出して、己の身に起きている事態をどうにかしたいと目論んでいた。


 だが。相手が悪かったとしか言いようがない。


 カララでも、カララの父でも、エスティの事でもない。

 エスティの、ストーカーの話だ。


 まんまと絡め取られ……今、何でか上層の端にいる。


 足元に白い煙が立つ、夜空のただ中にいるような空間の前方中央に。白く薄く光を放つ、どでかい扉が聳えている。扉は少しだけ開いていて、向こう側から目映ゆい白い光が漏れている。


 扉の手前には数人の「人間」がいる。

 地面に膝をついて見上げる俺を、見下ろしてくる。


 俺は後ろ手に手首を拘束され、まるで罪人の様相だ。服装は、いつもの黒いやつだけどな。


 扉の前にいる数人の中に、一際に目を引く人物がいる。薄桃色の長い衣をまとった若く華奢な体躯の女性。

 噂に違わぬ……天女の如き美しさだと、冷や汗をかく。


 さて。俺は一体、どんな罰を受けるのやら? 最悪だ。


 しかし。憂慮は杞憂だった。あっさりと解放された。

 カララ自ら拘束を解いてくれた。


 上層を去る際に、声を掛けられた。


「あなたは、あなたの使命を果たしなさい。私も、私の使命を果たしますわ」


 振り向くと、ニコリと笑む彼女と視線が合う。


 俺の使命って、何だ?

 意識が遠くなる。上層から追い出されるのだろう。


 うーん。分からん。

 ……まずは、あいつらの様子を見に行くか。



 色々と思う事はあるけど。ワズの中学校、放課後の教室で。由利花と対峙する。今は彼女の親友、雪絵として。


 言えない部分を端折って、由利花へ伝える。

 カララの父……中学の校長との約束や、カララとの面会については……伏せておいた方がいいわよね。


「一度目の人生では。志崎君の件で泣いている、あなたを見て……私は、まだましだと確認できた。しがらみや責任も放り出して、自由になりたかった」


 無言のまま聞いてくれている由利花へ訴える。


「けどね、その土台があったから。今の私がある。『ない』人を知っているから、考えが変わった。私は恵まれていると分かった」


 彼は一度目の人生で、由利花の旦那だった。


「羨ましかった。由利花の事が……! 愛される、あなたが……! 私は役に立たないと切り捨てられる、道具でしかないのにって」


「でも、ずっと友達でいてくれたよね?」


 由利花の問いに、ハッと息を呑む。

 言葉が見付からない。代わりに、涙が零れる。


 何で……?


「~~咲月と沢野君の仲を引き裂くなんて、できないわ」


 不安だった気持ちが、言葉になって落ちる。


「だから。沢野君と私が結婚するとか、あり得ない! 沢野君の婚約者選抜選挙が、どうなるのかまだ分からないけど……きっと、咲月なら大丈夫だって信じてる」


「あれ? そう言えば。雪絵ちゃんって、恋人の話とか結婚の話とか……自分の事を、あんまり話してくれなかったよね? これまでの人生で、深く聞かなかったけど。その後は、どうなってたっけ? うーん……?」


 一人で悩み出す幼馴染に、目を細める。


 以前、彼女に「何でか分からないけど、あなたの事が気に入らないの」と言った事がある。

 理由は憶えていたけど、教えてあげない。


 由利花の知らない……知らなくていい出来事だ。


 二度目の人生で、号泣した。

 まさか自分が、あんなに見境なく泣くとは考えも及ばなかった。


 あの時に、胸のどこかを痛めたから。

 どれだけの人生を経たとしても、許さない。


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