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やり直しの人生では我が子を抱きしめたい! ~後悔していた過去を変えていったら片想いしていた人たちと両想いになりそうな気配だけど夫の事が気がかりです~  作者: 猫都299
二章 続編 未完成な運命は仮初の星で出逢う

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92/92

92 誓い


 ユニコーンの馬車に乗る。空へと上昇して行く頃、向かいの座席にいるケールディアが溜め息をつく。


「どうしたの?」


 手を組み俯いているケールディアへ、溜め息の理由を尋ねる。


「罠だった。ワズの本拠地にいるかと思っていたが、こっちだったのか……。ルイメディーナは気付いたようだ。『あいつ』が……この星域にいる。まずいぞ。星堂に張り込まれている可能性がある。いっそ……途中で市街地に降りて、ほとぼりが冷めるまで潜伏した方が……いや。それじゃ逆に、袋の鼠に……」


 彼は何やら、ぶつぶつと呟いている。

 やはり。誰かに……もしかして、リウラの盾に追われている?


「あなた一体、何をしたの?」


 ジトッとした視線を向けて問うと、相手からもジトッとした視線を向けられる。


「……今、してる途中だよ」


 呆れている様相で言ってくる。


「…………あんたを、取り返そうとしている奴がいるって事だ」


 一瞬。「まさか龍君……?」と考えて、すぐに首を横に振る。都合のいい願望を抱いてしまう自分に、苦笑する。

 

 龍君は、もう……。

 暗く俯く。


 私を取り返そうとしている人って、誰の事だろう。知り合い……?

 

 ケールディアが以前、言っていた。『人質の役を果たしてくれてありがとう』と。だから……ケールディアを追っているリウラの盾が、私が人質にされていると踏んで動いてくれているのかな?


「ケールディア。前……追われているって言ってたよね。それって……リウラの盾から?」


 俯いている彼が、視線を上げてくる。


「星域を移動中に小舟から船に乗り込んで来た刺客は、どこのどいつか分かっている。叔父上の手下だ。俺を、連れ戻したかったんだろう。俺が婚約から逃げているとカララ側に知られれば、タダじゃ済まないからな。追っ手は、叔父上だけじゃない。もう一つ、気になっているのが……」


「エスティを放せ」


 静かな口調だけど、はっきりと聞こえた。

 若い男の声がしたのと馬車のドアが吹き飛んだのは、同時だった。


 ドアのあった場所に、人がいる。


 私を庇って間にいるケールディアの、肩越しに見る。

 薄茶色の髪が、風に揺れる。


「ユー……」


 彼の名前を呼ぶ直前。腰を掴まれ、抱き寄せられる。驚いて……密着してくるケールディアへ何か言おうと、口を開いた時。ケールディアが僅かに笑った。


「嫌だね」


 皮肉めいた調子で言い切ると同時に、私を掴む腕とは反対の腕をユーラへ向けている。


「大蛇!」


 ケールディアの呼び掛けに応じて、腕輪の石が光り大蛇が顕現する。前回、見せてもらった時の大きさではない。

 その巨大さに……あっという間に馬車は破壊され、私とケールディアも落ちて行く。


 遠くの空で、巨大サイズの大蛇と飛行する鮫が戦っている。


 鮫のヒレの近くに、人が立っている。……ユーラだ。

 彼は眉をひそめた心配そうな顔で、こっちを見ている。鮫は多分、ユーラの精霊なのだろう。ホッとする。


 怪獣並みの蛇と、空飛ぶ鮫が暴れているけど。下にある市街地には、ほとんど被害がない筈。魔女王の魔法壁があるおかげで、害になるものは害にならないよう調整されている。例えば、馬車の破片も。ゆっくりと落ちている。


「こういう事、やめてよ」


 私を片腕に抱き留めたままのケールディアに言っておく。


「本気じゃないのに、本命みたいに扱うの」


 言い及ぶと、いつもの……どこか、とぼけた雰囲気で返される。


「んー? 酷いなぁ。もしかして、本気にされてない?」


 そうこうしている内に、下にある町が近付く。このまま行くと、山間の線路の辺りに落ちそうだった。通り掛かる列車が視界に入る。

 通常より穏やかな速度とは言え。やはり、落ちるのは怖い。


「ニーナ!」


「呼ぶの、遅いよォ!」


 トケイから反応がある。眩しい光と共に、巨大な大きさのドラゴンが現れる。


 ズォォオォン!


 ニーナが、山の斜面へ着地した。

 

 木が何百本か倒れたかもしれないけど、魔法壁の影響で人的被害はない……よね?

 深く考えると恐ろしくなりそうなので、大丈夫だと信じたい。


 列車や線路の手前に落ちた為、驚かせてしまったかもしれない。それまで動いていた列車が止まった。列車の中から、人が数人出て来る。

 その内の一人が、ニーナから降りるケールディアと私へ声を掛けてくる。


「大丈夫か? 今、手当てを……」


 空から落ちて来る人は、たまにいる。精霊に乗っていて、誤って落下したり。空での事故で怪我をする人もいるので、心配してくれたのだろう。


 彼は、言葉を切った。見開いた目で動きを止めている様子を、不思議に思う。


「君は……!」


 声を掛けてくれた人が、私を見て驚いている。

 

 眼前にいる彼は。ブルーグレイのかっちりとした制服を着込み、白地に制服と同じ色合いの模様が入ったマントを羽織る出たちで。背はケールディアくらいある。目が横長に細く、瞳の色は焦茶色。濃い青色の短めな髪が、サラサラとそよいでいる。


 夜明け前の空に似た、その深い彩りを……以前、どこかで知っていた気がする……?


「そして……」


 彼は続けてニーナを見上げ、にっこりと笑み言ってくる。


「レアな精霊だね」


「あ、はい。この子は昔……仲良しの子と、お互いの精霊を交換して……私の元へ来てくれた子なんです」


 答えると相手は笑みを消し、慎重な口振りで聞いてくる。


「そう。その仲良しの子とは、今も友達かな?」


「もう多分……会えないだろうけど。とても大切な人です」


 言い終わった瞬間、彼が右手を挙げて何かの合図を出した。彼の側にいた制服姿の青年が二人、左右から私の腕を押さえてくる。


「彼女を連れて行く」


 私と話をしていた細い目の青年が、周囲へ意向を伝える。


 どうしよう。捕まえられた。

 彼らの方が圧倒的に力が強くて、とてもじゃないけど振り解けない。


 もっと早くに気付くべきだった。

 彼らの着ている制服は……先程、ユニコーンの馬車に現れたユーラの着ていた服と似ている。つまり。今、周囲にいる彼らも……リウラの盾に所属している人たち?


 皮肉っぽく笑う声が届く。


「こっちが罠だったか……?」


 ケールディアだ。彼の口調にも、悔しげな響きが滲んでいる。

 私の後方にいた彼も、捕まってしまったようだ。


 目の前にいる青年が微笑んでくる。


「私はアルゼ・ドゥ・ズ・ティド。よろしく? エスティ・ティナ・ティティ。そちらから出向いてくれるとはね。捜す手間が省けた」


 なるほど。私の事を知っている……つまり。私はどうやら……既に、御尋ね者と認定されているのかもしれない。ワズの秘密を探ろうとしているのがバレている? それとも、ケールディアに人質にされている被害者として探してくれていただけ……?


 相手を窺う。


 ……ダメだ。彼は笑顔なのに。目の奥に……底知れない怒りの気配を感じ取ってしまい、身震いする。


 列車の方へ連れて行かれる。抗おうとするけど、びくともしない。列車に乗せられ、座席に座らされる。向かい側の席に、さっきアルゼと名乗った男が座る。私の腕を押さえていた部下らしき二人の青年が場を離れる。


「逃げようと思わないでくれ。連れの彼とは、後で会う機会を作る。君が大人しくしていればね」


 アルゼが告げてくる。

 膝上のスカートの布を握り締める。目だけで周囲を確認する。他の座席やドアの側にも、制服をまとう若者が配置されている。

 私が今、逃げる素振りをしたとして。とても逃げられる状況じゃないし。


 アルゼの物言いは「君が何か問題を起こせば、ケールディアを害する」と、示唆しているようにも取れる言い方だった。


 ケールディアとは、たった数日前に出会った仲ではある。しかし……ユーラが私を助けようとユニコーンの馬車まで来てくれた時に、見捨てられなかったくらいには情が湧いている。私のせいでケールディアに何かされたら、ずっと先まで寝覚めが悪くなるだろう。


 だけどね。これだけは言っておきたい。


「私の名前は、エスティ・ティナ・ティテです。ティティではありません」


 先程の間違いを指摘する。アルゼの片眉がピクッと揺れる。

 少しだけ眉間を歪めた顔付きで言ってくる。


「ティティ」


「ティテです」


「すまない。どうも口が回らなくて。……ティティ」


「ティ・テ!」


 強く発音して見せる。一度、咳払いをした相手は……神妙な面持ちで口にする。


「ティティ」


「もういいですけどね、それで」


 言い捨てて、視線を逸らす。

 

 窓の外には平野と、遠くに山並みが続いている。



 太古の人間を模して創られた私たち「人間」の大半は、幼少期を「学院」で過ごす。

 男子と女子、別々に寮があって。普段は異性の存在すら知らずに生活している。私も高学年に至るまで、都市伝説だと思っていた。


 ある日、会う筈のない人と巡り会った。学院の中央にある公園で。仲良くなり、たまにこっそり会いに行っていた。


 やがて、学院を卒業する時が訪れる。

 お互いに、素性を明かしていない。本来なら。出会う事さえ禁忌だった。だから、彼の提案に乗った。


 守護を受けた精霊を交換した。彼の精霊であるドラゴンのルドを預かり、ニーナと呼ぶようにする。私の精霊である不死鳥フェニックスのニーナを、相手へ預ける。彼女は「ルド」と呼ばれていた。


 再会を誓ったけど。それは、途方もない夢物語だったのだと知る。


 現実に打ちのめされた。だからもう、考えるのもやめた。胸に仕舞って、私だけの宝物にした。誰にも渡さない。私だけの夢。


 時々、寂しく思う日もある。友達やユーラが支えになってくれた。

 そして。ワズに参加して衝撃を受けた。特に……龍君へ抱く気持ちが、幼い頃に出会った「彼」への気持ちと重なる。


 ……私は、本当の両親を知らない。


 この世界では、大半の人間が知らされないで育つ。学院を卒業しても、迎えに来てくれる親は少ない。貴族でもないと、再会するのも難しいだろう。


 だから、怖れていたし。強く憧れてもいた。肉親というものに。

 子供を授かりたいと祈った。もちろん、好きな人との。


 私も……この身は「人間」に近いようなので、可能かもしれない。


 …………今はもう。彼以外に、思い付く人はいなかった。


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