91 友達と秘密
準備をして、部屋の外へ出る。
ドアの横の壁に凭れていたケールディアと視線が合う。
彼は、どこか痛い時にするように目を細める。だけど、それも一瞬の出来事で。すぐに逸らされる。
「よお。……よく眠れたか?」
言われて。一拍ほど遅れて、返事をする。
「うん!」
「嘘がヘタだな。ワズで何かあっただろう?」
指摘されて言葉を失う。閉口したままケールディアを見る。
再び、視線が重なる。彼が口を開く。
「よかった! まだいてくれたのね!」
明るく澄んだ女性の声音が、廊下に響く。振り向いて確認する。
ルイメディーナが、お付きの女性二人と共に駆けて来る。
「早い時間に出発すると聞いていたから、もう行ってしまったのかと思ったわ」
僅かに頬を染めた顔で、穏やかに微笑まれる。
ルイメディーナは昨晩、城の内部に造られた温泉へ誘ってくれた。一緒に湯船に浸かって話をした。
色々と聞かれた。ケールディアと出会った経緯とか、私の旅の目的とか。
「人を捜していて」とは答えたけど、ワズについての話は避けた。彼女はワズに危機が迫った時、「リウラの盾」に協力するよう要請があったと言っていたから。ワズの秘密を探ろうとしているのを、気取られてしまうかもしれない。慎重に言葉を選んだ。
その時も。彼女は今のように微笑んでいた。そして……私の両手を自らの両手で包み、言ったのだ。
「ねえ……。私たち、お友達になりましょう? 私……ずっと憧れていたの。気兼ねなく、おしゃべりできる友達に。ここで出会えたのも、きっと運命だわ」
びっくりして相手を見る。少し眉を寄せて、上目遣いに眼差しを送ってくる。
照れながら返事をする。
「ええと……。はい、喜んで」
「嬉しい!」
抱き付かれて焦ってしまう。
耳元に。低く小さく、囁きが落ちる。
「でもね。私……多分、善い人間じゃないのだわ。それでも、友達でいてくれる?」
無言で、相手の眼差しを受け止める。
緊張で唾を呑み込む。
「なあんて。言ってみただけ。気にしないで……」
「友達です」
彼女が茶化そうとした途中で、強く言い切る。
「私たちは、もう……友達です」
「……うん」
ルイメディーナは少し涙ぐんで微笑む。温泉を出る際に「ケールディアには秘密ね」と、釘を刺された。
意識を現在に戻す。ルイメディーナは昨晩の温泉でしたように、私の両手を握って言う。
「あなたの捜している人を、知っているかもしれない」
ドクンと、心臓が音を立てる。
彼女の唇が紡ぐ。
「彼は今――……」
「ルイメディーナ。悪いが、もう行くぞ」
ケールディアに手を引っ張られて、ルイメディーナから引き離された。突然の事で……彼へ意見する間もないまま、城の外へ連れ出される。
ルイメディーナが伝えようとしてくれていた話を聞きそびれた。
彼女の言っていた「あなたの捜している人」が龍君の事ではと考えて、すぐに首を横に振る。
温泉で尋ねられた時分には。ワズに関係する事柄をはぐらかして、まともに答えていない。だから恐らく……私の元婚約者であるユーラについての話だったのだろう。
彼は今、中星域ドゥーナへ向かっているらしいけれど。向かっているという事は。私たちのように、この星で一泊していたのならば。まだドゥーナへ発っていない可能性もある。
それにしても。話の途中だったのに。さっきのケールディアは、不自然に強引だった。何か、私に教えたくない情報でもあるのかな?
私の手を掴んだまま、先を急ぐ彼を盗み見る。険しく前方を睨む表情に、首を傾げる。
怒っている? ……違う。
どこか、悔しそうな雰囲気を感じる。




