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やり直しの人生では我が子を抱きしめたい! ~後悔していた過去を変えていったら片想いしていた人たちと両想いになりそうな気配だけど夫の事が気がかりです~  作者: 猫都299
二章 続編 未完成な運命は仮初の星で出逢う

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89 苦みと挑戦


 教室前の廊下で話をする私たちを見守っていた、野次馬の女子たちが……沢野君に詰め寄っている。


「本当なの、沢野君っ?」


「嘘だよね?」


「嘘だと言ってー!」


 涙目になっている子もいる。


 沢野君は、とにかく美男子だ。中学に入って少し大人びた彼の人気は、更に爆増していた。


「してない、してない! ……してないと思うけど。僕と岩木さんが婚約……? うーん。まさかね……」


 沢野君は彼女たちに、雪絵ちゃんとの婚約を否定している。けれど、何か心当たりのある様子で語尾を呟いている。


「夢乃、何か知ってる?」


 彼は、雪絵ちゃんと龍君の後方にいる人物に声を掛ける。眉間に皺を寄せて顎に指の関節を添える、難しげな顔をしていた夢乃ちゃんが視線を上げる。

 ひょこひょこと人混みを抜けて側へ来た、沢野君の幼馴染でもある彼女は指摘する。


「多分……校長先生が、何か知っているんじゃないかな?」


「父さんが?」


『父さん?』


 私も含めた、周囲にいた子たちの声が重なる。


 その頃には。騒ぎを聞き付けた先生らが数人ほど到着していた。野次馬で来た生徒たちの後方にいる先生の中に、件の人を見付ける。


 白い色の混じる髪の、優しそうな背の高いおじさん。


 この中学校の校長先生は。確かに……沢野君と名字が同じだった。


 雪絵ちゃんが、校長先生を凝視している。大きく見開いた目を逸らさず動きを止めている様子に、眉をひそめる。彼女は緊張の窺える面持ちで、微動だにしない。

 

 校長先生が雪絵ちゃんを見て、ニコリと微笑む。

 雪絵ちゃんは校長先生を、酷く睨んでいる。


「親同士が決めた約束とは言え。まさか、自慢の息子との婚約を嫌がる娘さんが、この世に存在するとは」


 校長先生は寂しげな表情で話し……若干、項垂れている。

 雪絵ちゃんが校長先生へ伝える。


「申し訳ございません。私は明良君の婚約者に、相応しくありません。彼には、もっと……相応しい相手がいます」


 雪絵ちゃんの眼差しが、咲月ちゃんへ移る。咲月ちゃんが瞼を大きく開け、眉を寄せた様相で雪絵ちゃんを見つめ返す。


「雪絵っち。まさか……」


「待ったあ!」


 何かに気付いた雰囲気の咲月ちゃんを遮り、彼女たちの視線の間へ割り込む人物がいた。

 

 小柄な体躯の少女……夢乃ちゃんである。


「そういう事、勝手に決めないでほしいな?」


 眼鏡をくいと持ち上げて、不満げに意見する彼女は……やや大きく息を吸い、一呼吸を置いたのちに言い放つのだった。


「私もっ! 明良君の婚約者に、立候補します!」



 それからは、もう……怒涛の流れだった。

 女子の立候補宣言が鳴り止まなかった。


 混沌とする廊下の人混みを掻き分けて、屋上へ出る。

 雪絵ちゃんと龍君も、引っ張って連れて来た。沢野君と咲月ちゃんは、さっきの場所に残っている。


 沢野君は女子に揉みくちゃにされて、とてもじゃないけど手を出せなかったし。

 咲月ちゃんは力強く明るい瞳で笑い「私も立候補する。だから、ここにいなきゃ。雪絵っちも由利花ちゃんも、ありがとう! 私っ……沢野君の隣にいられるように、絶対に。婚約者の座を……勝ち取るから!」と、気合十分に言ってのけていた。


「フッ……どうでしょうね?」


 横から夢乃ちゃんが口を出す。ニヤリとした頬を手で押さえつつ、咲月ちゃんを煽る。

 二人が睨み合っているところで、その場を離脱した……という経緯だ。



 屋上に着いて、少し呼吸を整える。雪絵ちゃんと龍君へ尋ねる。


「そういう事だったんだ。だから雪絵ちゃんは、鈴谷君と……」


「違うわよ?」


 言い切る前に、雪絵ちゃんに反論される。


「何か、勘違いしているみたいだけど。私と鈴谷君は、相思相愛。さっき、あなたも見たでしょ? キスもしているような関係なのよ。それに。沢野君と私の婚約も解消された訳じゃないわ」


 言いながら睨んでくる。


「あなたと私の問題は、まだ何一つとして解決していないの」


 苛立ちの滲む口調で、苦い現実を突き付けて来る。暗い気持ちになる。……だけど、ここで引けない。


「雪絵ちゃんは、鈴谷君が好きかもしれない。鈴谷君も、雪絵ちゃんを好きかもしれない。……それでも。私は、鈴谷君が好き。諦めたくない! 絶対に、振り向かせるから」


「迷惑!」


 ハッキリと言い切る親友に、苦笑いを浮かべる。


「……うん。ごめんね?」


 一言謝って、踏み出す。


「龍君、ちょっと来て」


「何?」


 眉をひそめて尋ねてくる、幼馴染の腕を引く。僅かに屈ませて、唇を奪う。


 肩を掴まれ、離された。


「……何?」


 不機嫌な様相に曇った瞳で、問われる。

 心底、人の悪い笑みを作り……返答する。


「『キスなんて、好きじゃなくてもできる』って、言ってたよね?」


 相手は無言で、私を見ている。


「じゃあ、私ともできるよね?」


 彼の腕を、掴んでいる手が震える。

 強気に装っているが、心の内では泣いていた。これで断られたら、立ち直れないと思う。


「……何で」


 呟きが届く。龍君は不可思議なものでも見付けた時のように、眉間に力を入れた眼差しを注いでくる。きっと私に、諦めてほしいのだろうけど。

 

 ありったけの……ハリボテの強気を振り絞り、笑んで見せる。


「下心だよ。振り向いてくれるまで、二人の仲を邪魔するから!」


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