表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やり直しの人生では我が子を抱きしめたい! ~後悔していた過去を変えていったら片想いしていた人たちと両想いになりそうな気配だけど夫の事が気がかりです~  作者: 猫都299
二章 続編 未完成な運命は仮初の星で出逢う

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/89

88 狂気


 中学生になった。真新しい紺色の制服に慣れてきた四月の、ある昼休み――。

 教室の自分の席から、じっと……龍君を見ていた。

 

 いつものように、雪絵ちゃんが彼を呼んでいる。

 廊下へ出て行く二人の後を追う。


 廊下の窓の側で話している彼らを、廊下の教室側から見つめる。

 雪絵ちゃんが私に気付いた様子で、こっちを向く。声を掛けられる。


「あら? 由利花。怖い顔で睨んでくるのね?」


 睨んでいるつもりはないのに。

 でも。眉間に力が入ってしまうのは、今はどうしようもないと思う。


 彼女はニコッと笑んで、言い及ぶ。


「そんなに……鈴谷君を取られたのが嫌だったの?」


 一瞬だけ、動揺した。ハッと強張った表情を戻し、平静を装う。口にする。


「大丈夫」


 ニコッと笑い宣告する。


「絶対に、取り返すから!」


 歯を食いしばって、涙を堪える。

 教室から出て来た咲月ちゃんが、私と雪絵ちゃんを交互に見ている。


「由利花ちゃん……」


 咲月ちゃんが、眉をひそめて呟く。心配してくれていると伝わる。

 刹那……抑えていた感情が溢れて、頽れそうになる。堪らずに駆け出す。


 階段を上り、屋上の端でしゃがむ。


「ううーっ」


 少しして、追って来てくれた咲月ちゃんの声が耳に届く。


「由利花ちゃん……」


 彼女も涙目になっている。

 

 咲月ちゃんと一緒に、沢野君も来てくれた。普段は綺麗な面持ちが、今は険しく歪んでいる。


「許せない」


 彼は言い置いて、階段を下って行く。


 私と咲月ちゃんは顔を見合わせる。大変な事態になりそうな予感がする。背筋がヒヤッとして、慌てて階段を下る。


 

 教室前の廊下へ戻って来た。龍君と雪絵ちゃんの前に、沢野君がいる。仁王立ちで。

 何か一悶着あった後の雰囲気が、周囲に漂っている気がする。ほかの……関係のないクラスメイトたちも、遠巻きに彼らを見守っている。


 雪絵ちゃんの視線が、私へ向く。彼女の目がニヤリと笑む。次の瞬間――。


「由利花ちゃん、ダメッ!」


 咲月ちゃんの手が、私の目を塞ぐ。だけど……指の隙間から見えた。

 雪絵ちゃんと龍君のキスシーン。


 雪絵ちゃんの手で、二人の口元は隠れていたけど。


 身体の奥底で、衝動が生まれる。凍て付いた炎が弾け飛ぶ如き一閃を、瞬きの内に静める。外には出さないそれが蠢く度に、胸がざらざらと疼く。

 心が抉られるとは、この事だと……薄らと浮かぶ一握りの言葉が、意識の海に溶ける。


 「自分は、こんなに醜い思いを抱ける人間だったのだ」と、「それでもいいと……衝動を許したくなる、浅慮な性質の持ち主だったのだ」と知る。


 己を割と善い部類の人間だと、心のどこかで安堵していた認識に大きく罅が入る。汚い。

 醜悪な面も、十分に持ち合わせているのに。忘れて……目を向けずに、生きていただけだった。二人を許せない。

 

 瞼を閉じる。既に涙を流してしまっていたけれど。


 瞳を上げる。


 胸の奥に燃える冷たい怨嗟を、外へ漏らさないように。ありったけの力で抑える。

 何かの表情を作ろうとすれば、決壊しそうだった。


 ……好きな人がいる。

 

 誰かを不幸にしてしまうとしても。

 望んでしまう。


 もう後悔しないと決めたのに。まだ迷っているのは、優しいからじゃない。自分にとってのベストを探している。


 ここで諦めてしまったら。また不幸にしてしまう。自分も。雪絵ちゃんも。


 一度目の人生で。片想いしていた志崎君へ告白できなかった後悔を、聞いてくれたよね。一緒に悲しんでくれた。

 今、普段の彼女と違う様相を見せられて。親友が……何かに苦しんでいるように思えてならない。


 近頃の雪絵ちゃんは。私とだけじゃなく、咲月ちゃんとも距離を置いている。

 

 ずっと引っ掛かっている。雪絵ちゃんは以前、沢野君が苦手だと言っていた。彼女が時々、咲月ちゃんへ向ける……少し悲しそうな視線の意味を考える。口を衝く。


「もしかして。雪絵ちゃん……。本当は、鈴谷君じゃなくて…………沢野君が好きなの?」


 雪絵ちゃんの目が大きく見開かれる。

 側にいる人々が息を呑み、私と雪絵ちゃんを窺っている。


 彼女から視線を逸らさずにいた。


「フッ……バカね……。私が、彼を好きな訳ないでしょう?」


 相手の声が震えている。

 

 動揺している?

 相当に怒っている気配が伝わってくる。


「彼とは、婚約しているだけよ」


「そう……。婚約しているだけ…………。えっ? 婚約っ?」


 言い渡された事案を認識して、思わず聞き返す。


『えーっ!』


 周囲の皆も、どよめく。


 振り向いて咲月ちゃんを見る。青ざめた顔をしている様子に、心配が膨らむ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=148632544&size=300
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ